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vol.4




風の治療師

田村奈津子



空を泳ぐ枝が

支那の龍のように跳ねて

連続するわたしの脈に

燃えるような柿色が流れ出す

百億の実りは

生きることを許すように

魂を真似ている


 (夏が壊れていくわけを知りたかった


歩行を止めず

ただ風を見ていた

苦い果実を食べすぎて

濁った血を知らなかった

月から還った兄弟が

地球儀の卵を二つ

ピアノの上においた

ひびわれた皮膚から

斜めに光が染み込んだ


(彼女が祈りを送信していく


寂しい細胞に

熱い息を埋め込んで

渦巻く場所で

キミトハナシハジメタ

つむじが回り 犬が吠える

淋巴が流れ 血管を洗う

森に満ちる言葉を

夢で解読したかった


 (葉っぱのように一度

       (死んでみればよかった


風がおこるからだの中で

目覚める景色を掬いあげて

雲の龍に

明日の道を聞いた





砂の蟹座

田村奈津子



椰子の葉のリズムに

波の音をかさねて

背中の温もりから

耳でいのちを感じている


鳶の旋回に

血液を巡らし

砂に洗われた

からだを発見する


弓の形の浜から

繰り返し時間が放たれていく

欠けた甲羅が目印だった

そっと拾うと砕けていった



左の月を切り離し

分子を海に返してやった

濁った瞳を交換して

太陽の右に手を伸ばした



開かれた細胞から

巡る水が浸透する

でこぼこの記憶が

風化していく


土星の滴が

降る胸には

蟹座が

静かに広がっていた


真昼の木星を

透視していたのは

砂に帰る

星のからだ







風を見る石

田村奈津子



    (水でない水にあなたは似ている


その川にからだを浮かべ

笹船のように流してみたい

移動するわたしを貫いていくのは

手のひらを訪れる光の信号

  (あなたがわたしに送信する(あお)

    (彼女の脳で音になって像を結ぶ


風を見た日

マリアの色のワンピースを着ていた

震える膝であの丘にのぼった

コバルトブルーのガラスのパイプを

石の祭壇に吊していた

オルガンになったわたしは鳴り響いて

ももいろの魚に変わっていた

水辺でカミをほどいていた


 (何もなかったように地上ではことが運ぶ


わたしを立ち止まらせる無言の囁きは

カミの速度で耳をくすぐる

これがあなた方との対話

わたしを通過した理由は問わない

流れていく贈り物を

ただ静かに感じるだけ

水が消えないうちに

深く息を吸うだけ


  (眼差しに髪が洗われて

      (神が紙にこぼれてくる


風を見る石に立って

その場所の名を知った

大地の鼓動に揺れて

なつかしい声に触れた


ワタシハ陽射シニ溶ケテ

光線ニ合流シテイタ
(『詩学』1996年8月号)


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