rain tree homeもくじ執筆者別もくじ詩人たち最新号もくじ最新号back number vol.1- もくじBackNumberback number6 もくじvol.6ふろくWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など



"gui詩gui詩"もくじ
vol.6 「gui詩gui詩」 Poetry Reading



萩原健次郎2

萩原 健次郎

 京都から萩原健次郎がやってきた。彼をひとめ見たさに来てくれた方々も多いはず。朗読はやはり関西人のサービス精神にあふれて、期待にたがわぬ面白さ。言葉が身悶えして喜んでいる。

あとで活字の詩を読んでみると、朗読した言葉と微妙に違う。その場の雰囲気、感情の高まり、客の反応などで言葉が変化しているのがわかる。ぜひ声を聴いてください。




 朗読 萩原健次郎  
朗読はrealPlayer5で聴くことができます。download






(萩原健次郎)関西から参りました。

 朗読は、あのう、標準語でわたしは詩を書いてなくて、あるとき気が付いたんですけども、言葉を関西弁で書いているなあと思いました。

 標準語で詩を書くんですけども、いくら格調高い語彙を並べたところが、なんかこう、朗読会等で読みだすと関西弁になります。よくない傾向なんですけれども情をこめてしまう。詩を朗読するのに情をこめる必要はないかもしれない。

 さきほどからいろんな方々がある意味で淡々と読んだり、緊張したりしてることが、緊張度の柔らかさとか固さとか、たどたどしさとか、そういうものが詩を読む場合の個性になってくるんだろうと思います。

 「空疎小説」というのを読みます。











萩原 健次郎





空疎小説



 空疎系へ、歩みだす。

空など眺めたこともない、無粋な悪漢。詩人、しどろ

もどろの、空疎系、垂直に、歩みだす。垂れている、

垂れている、言葉が、空疎、クーソ、クーソの素。ク

ーソの折り重なるボディ。



 そんなことを考えていたら、あるときは、肉の詰ま

った鳥が、空疎の容器に、数千羽おしこまれて、息も

できずスクラップ、キュービック状態にされる。



 サイコロのピンがでた日にゃ、片目が充血して、そ

れはそれは、言葉もない。



 空疎系は、悲しまない奴の、無色透明の息。ゼリー

の不気味な飴。グニョーと立体ブーメランのように太

った原色の、もっと甘い砂糖の膜でコーティングされ

た、あれ、あれ。



 塵の圏へ、あこがれを抱く少女は、空疎系の小箱を

抱えて移動する。「そんなものは、捨ててしまえ。そ

んなものは飲んでしまえ」。



     詩が、抑留される日は近い

     サイコロの六のでた日にゃ

     言葉がくろぐろと、うちな

     らび、標的みたいに。しか

     し、的は、どこでも当たり

     命中命中、また命中で、き

     りがない。やがては、きっ

     ちりぼんやりハレーション

     を起こして、こうなるのだ



     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中



 空疎系とは、こういうものだ。きょう、生きている

のは、土と草だけだ。それと、少女が小脇に大事そう

に抱えている、極小の塵の圏だけだ。そうだ、ポーチ

だけなのだ。ポーチの中に、息ひそませる、細菌は生

きている。生きている。確かだ。



 みんな手足があるだろうか。みんな血、流している

だろうか。みんな悲しくないのだろうか。戦闘と性交

と、抒情と隠喩と、空腹と、放漫と、巨乳と美乳と、



 少女の三つ編みは、塵だらけだけど、ポーチの中身

は、それはそれはかわいい。かわいい細菌が、お話し

てる。ゲームしている。



 空疎県空疎市空疎区空疎町空疎空の疎字空疎、の五

指、股、



 そのあたりから、攻めてくる異星人もいるだろう。

別の星には、空疎のない、サイコロの、●ひとつ。戦

闘と性交が、つまりは、抒情が、ごろごろ転がってい

たり、群れていたり、茂っていたりするだろう。別の

星だ、別の星。



萩原健次郎  星の住所をたよりにして、ポーチひとつ肩にひっか

けて帰ってこない。



 クーソ、キュァーソ、キュアア、キュァァー、泣い

ている。泣いている。疎らな空から、その声が降って

きている。



 そういう夜は、辛い味噌汁にかぎると思うのは、私

だけだろうか。 






次は「虫鳴くうちに」というのを読みます。なぜこういう詩を書いたんか自分でもよくわからんのですけども、あのファンカデリックスというパンクバンド、ジョージ・クリントンていう人のCDのジャケットで、黒人のアフロヘアーの人が土に埋まっているのがあるんです。なんやそれと、その「なんやそれ」を詩にしただけです。

「虫鳴くうちに」は「文屋」へジャンプ




(関富士子 余話) ところで、「gui」で遠藤瓔子がつぎつぎに放つヒット作、「詩人の魂」「京都大原三千院伝説」「えらいっこちゃ」(どうやら本になるらしい)で登場するのがこの萩原大納言。ちなみに作者の遠藤瓔子は「黄昏式部」として登場する。

 この遠藤瓔子というお方、京都弁を駆使した実に口達者で辛辣、痛快、豪快、歯にキヌ着せぬ筆さばきは、かつての夫君安部譲二も顔負け。例会では和服地を不思議なデザインで仕立て直した奇抜だが実に彼女にぴったりマッチした衣装を拝見できる。このあいだは忍者スタイルだった。(遠藤さんが着物に関するホームページ「着物で遊ぼう」を開設した。kimonodeasoboへジャンプ)

 青山でロブロイというバーのママだったころ、劇作家つかこうへいを日参させたというのは、つかこうへい自身が新聞のコラムに書いていた。もっと若いころはスチュワーデスだそうで、そういえば、見かけはきゃしゃで色白の丸顔。往時はと想像するとかのウーロン茶のCFに出ていた中国の可憐なスチュワーデスを思わせる風情である。

 gui新刊54号(7月7日発刊)の「競馬(くらべうま)」では、賀茂の社を舞台にけったいなどたばた劇が展開されて腹がよじれる面白さ。

 遠藤さんの紹介になってしまったが、さて、萩原健次郎はかくのごとく京都の伝説の貴公子で、彼のすべてを知りたい人は、今すぐ「文屋」へジャンプするのが一番早い。



ヤリタミサコ「gui詩gui詩レポート」ジョン・ソルトの話"gui詩gui詩"もくじ
"rain tree" バックナンバーvol.6もくじへ"rain tree" 表紙へ"rain tree"最新号もくじへふろくへ