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vol.6 「gui詩gui詩」 Poetry Reading



飯田隆昭2

飯田 隆昭

 飯田隆昭は一見ただのおじさんだが、かなりの怪しい人。彼がguiに入って初めて出席した例会でみんなに大うけした話とは、ある時、よっぱらって深夜ご帰還の飯田先生、迎えに出て門を開けてくれた奥さんの顔にいきなりゲロを吐きかけた、というものである。

 いい大人が集まって何をしゃべってんだか、と思われそうだが、guiの例会はいつもまあそんなばかばかしい雰囲気である。もっとも例会の会場となる東銀座のクラブ「マリーン」は、同人の山口真理子さんの経営するお店で、普通に入れば座るだけで万というところ。わたしのような一般の働く主婦が出入りする場所ではないが、例会は会費4000円でワイン飲み放題。サンドイッチなど食べ物も豊富。ときには山中真知子さんの手作りお菓子がいただける。

 ところで、飯田隆昭さんだが、gui52号に掲載して一部に絶賛された女流作家ポビー・Z・ブライドの翻訳「甘美な死体」は、昨年の夏ごろ出版社に持ちこんだが、あまりの過激さに断られたといういわくつき。

 今回はW.バロウズの80年代三部作から、「デッド・ロード」の一部を読んだ。続きは是非書店で買って読んでみてください。

  




(飯田隆昭)こんばんは。こんな糞っ垂れじじいが年甲斐もなく現れまして申し訳ないんですが、なんかやれっていうことなんですが、今日はウイリアム・バロウズの散文ですね。「ザ・プレイス・オブ・デッド・ロード」。これを約2ぺージほど朗読させていただいて。

 皆さんもご存知のように、ウイリアム・バロウズは、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック、そのた大勢のビート・ゼネレーションを代表する散文家ですね。おそらく名前は知ってるけれどもあんたがたあんまり、たとえば「裸のランチ」買って読んだ人は、ほとんどいないと思います。これはあのう、80年代の三部作のうちの一つの、思潮社から、まだ印税もらってないんですが、必ず汚名は晴らすと社長から手紙いただいてます。(笑い)

 この「デッド・ロード」というのガンマンが現れて、このキムというのはヒーローですね。キムというのはウイリアム・バロウズ的なものを持っている。この場合は少年なんですが。では、読みます。ちょっとあの、湿気が多いと入れ歯の具合が悪くなりますので・・・(笑い)。






飯田 隆昭(いいだ たかあき)





W.バロウズ「Place of Dead Road」より





 キムは過激なもの、異常なものを飽くことなく好むという、不健全な性向をもった、屈折した、粘液質の病的な少年だった。母親は降霊術に凝っていたし、キムはキムで心霊体、水晶玉、霊媒、霊気が好きでたまらなかった。邪神、空恐ろしい身の毛のよだつ儀式、病いに侵された悪魔崇拝者、しわがれた囁き声で伝えられる忌わしい秘儀、紫色に染まった空の下にある太古の廃虚の都市、いかなる生物のかわからぬ糞便の臭い。恐ろしい赤熱の発するあの麝香のような甘ったるい腐臭、にたにた笑う白痴の体内で化膿している催淫性腫瘍、こうしたものに夢中になった。いうなればキムは正常なアメリカの少年なら忌み嫌うべきだと教えられていることのすべてを顕現化していたのである。

邪まで野卑で狡猾・・。彼の悪い性格はしかし、破滅的な考え方・・・を愛好する傾きもあった。じつは救い難いほど頭脳明晰でもあったのである。

 キムがものごとをよくわきまえる人間にのちほどなれば、こういうことがわかるはずだ。つまり、人が賄賂をあたえるのは知っていることに対して口を閉ざしてもらうためではなく、悪事を見つけ出して・・・・・・もらいたくないからだと。キムと同じくらい頭がよければ、難なく悪事を見つけだすことができよう。いまアメリカの少年たちは考えろ、考えろと口やかましくいわれている。しかし、考えていることがボスや教師の考えていることと根本的に異なっていることもあるのだ……考えてはいけない・・・・・・・・、ということだってあるとわかるのだ。

 世の中は嘘と嘘とのからみ合いでできていて、その根本的な仕組みをおおい隠しているのである。  キムはある教師がこんなことわざを引用したのを憶えている。「いやしくもやる価値があるのなら、りっぱにやるだけの価値がある……」と。

 「先生、逆もまた真なりってこともありますよ。いやしくもやる価値があるのなら、りっぱにやらないだけの価値がある」キムは頭の切れのよさを教師に印象づけたいと願って、こんなこざかしい口のきき方でいった。「つまり、ぼくらがみなアニー・オークレー(西部劇ショーで有名な美人の射撃の名人)になれないからといって、鉄砲を撃っても面白くない、ためにならないってことにはなりませんよ……」

 教師はこうしたたぐいのことがいやしくも・・・・・まったく気にいらず、以後その学期間中キムに目をつけ、あざとい嫌味を浴びせ、彼のことを”おごりたかぶった木こりだとか番人”だと呼んでいた。彼が歴史のある質問に答えられないと「きみはあの手の人たちのように力が強くて無口なんだろ?」ときいた。教師は彼の書いた作文の余白に味もそっけもない評をのせ、気にいらぬ箇所に傍線を引き、「それほどりっぱな・・・・・・・・できではない」と記した。学期末に教師はBをつけた。彼はAはもらえる成績はとったはずだと確信していたけれども。

 なるほどキムはものすごく賢く、羊を殺す犬のようにも見えたり、スカンクのような臭いを放っていたが、しかし、「ボーイズ・ライフ」のページから現れてきたようなきわめて独創的で好奇心が強く、発明の才に冨み、ほかの誰よりも上手に物事をやり遂げる方法を考えつく小生意気な子供だった。・・・・。






 

飯田 隆昭(いいだ たかあき)

主な翻訳

ウイリアム・バロウズの80年代3部作

「シティーズ・オブ・ザ・レッドナイト」

1981年全米でベストセラー、バロウズの新境地を示す。古代アジアの大暴動から海賊冒険譚へ、跳躍と疾走の367ページ。

「デッド・ロード」

80年代3部作第2弾。ブームの火付け役となった問題の一冊。硝煙たなびくその内容は、かの「ワイルドパンチ」を軽く凌駕する。

「ウエスタン・ランド」

バロウズの80年代3部作の完結編。現代アメリカから古代エジプトへと生命の謎を追求し続ける、地獄めぐりの現代版「西遊記」。 いずれも2408円思潮社刊

ポール・ボウルズ著「雨は降るがままにせよ
メイラー、T・カポーティと並ぶ第二次世界大戦後を代表する作家であり、G・スタイン、W・H・オーデンらと邂逅し、テネシー・ウイリアムズ、カポーティ、ブライアン・ガイジン、W・S・バロウズ、J・ケルアック、ティモシー・リアリーらから敬愛され、そしてジェインの夫でもあった伝説のポール・ボウルズの代表的傑作長編小説。2718円 思潮社刊






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