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vol.6 「gui詩gui詩」 Poetry Reading



徳弘康代2

徳弘 康代

 徳弘康代は真っ白なハンカチを取り出して、手品でも始まるかと思いきや、そこには観客をじっと覗くのぞき穴が・・・。これも写真をお見せできなくて残念! ハンカチの向こうから聞こえてくる声。デリケートにやわらかく震える。とても不思議な気持ちになった。読んだのは「えごの木」の1だけだったが、ここに全詩を掲載した。





徳弘 康代





えごの木








知らない人と二人で花を見に行きました にぎやかな公園で人々は

歩いたり座ったりしていました その男の人は私の左にいて 歩き

ながら白いハンカチを両手でもって広げ そこにあいたポストの口

くらいの穴からむこうを見ていました 何を見ているの と聞くと

人は じごくを見ている と答えました 私も手にもって穴をのぞ

いてみました けれどそこには にぎやかな公園とたのしげな人達

がいるだけでした かわりのない景色を見ながら 布をもってぐる

りと回って 最後にその人を見ると 人はいなくなっていました

その時私は 今まで自分はこの人のことをさがしていたんだと気づ

いて途方に暮れました けれどそのあとすぐに 私は何をさがして

いるのか忘れてしまいました それからまた さがしていることも

忘れてしまって ただ何かをなくした気持ちが いつまでもどこま

でもして 散る花を見ていました









浜辺に人くらいの大きさの飛ぶ魚が群れてやってきました それは

朝やけの色をしてやわらかいヒレで浮いていました 魚は逃げよう

としないので人は魚を抱き その浮力で魚と一緒に飛んでいました

 ひとりの人が気づきました 魚は人がさわると紺に変色するので

す 人が影を落としてさえ その色は変わりました 人々はそれを

たのしむのに 魚にさわりにいきました 人は赤い魚にさわれませ

ん さわろうとすれば紺になります 手をはなせばそれはすぐ赤に

もどりました でも紺もまたうつくしい色でした 私は影を落とさ

ぬところで 朝やけの魚を見ていました









配置転換になりました

数をかぞえる係から

重さをはかる係にです

かぞえ方は知っているけれど

はかり方がわからずに

積んである箱をもって

こまりました

その上この箱ははかったあとで

移動の義務もあるらしいのです









  森の入口で老人が 木の彫り方を私に見せました

柔らかい木の表面に老人はおもしろい凹凸をつくりました

私もしばらく手にとってあちこち彫っていきました

彫りすぎたところは下の緑が見えて

木が奥でかたく生きているのが分かりました

たのしいと言おうとすると老人は

あそぶにはね と言いました

あとで全体を見ると木はとりとめがなく

バランスのわるいものになっていました

手わたすと老人は

やわらかい木に傷をつけないように もう一度

何かを見せようとするのでした

今度は削るのではなく 多分

別の方法で


      「パンと雲」No.2 ('93.8.14)





徳弘 康代(とくひろ やすよ)

詩集

「音をたてる粒子」1988年ナヴェラ社刊

「横浜←→上海」1995年1500円夢人館刊 (ご注文はtel.03-3274-2750) 第28会横浜詩人会賞受賞

 天安門事件のあとで、「だから中国はきらい」という日本の方がいましたが、大雑把に国で束ねるとそのなかで生活している一人一人が見えなくなってしまいます。その国の中にいる一人の人が想像できないとき、人は限りなく残酷になれると思います。あの国はあの人のいる国だ、と思えること、「朋友」のレベルから始まるものを信頼すること、そのようなことを心のすみに置いて詩を書きたいと思いました。(受賞のことばから)






関富士子「おばのこと」「さくらくらくら」藤瀬恭子「ミッドナイト・カー・ガール・アローン」
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