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vol.7

(関富士子の詩)


南天

                 関 富士子



南天
小鳥たちの鈎爪が
透明にはがれて
ちり敷かれている
  
  
森の中
捨てられた子は
満ち足りて
ブナの葉のそよぎにめざめる
  
  
訪問
すそをたくしあげて
くるぶしほどの
浅瀬を渡った向こう
  
  
言葉をむさぼるうち
小さく固いものに
たどりつく
  
  
警告
野道のまんなかに
鈍く光る鎌首が

突き立っていた
  
  
満潮
鰓の時代の思い出が
耳まで
打ち寄せる
  
  
曲がり角
今すれ違ったのは
七歳のわたしをおびやかしていた
緑おじさん
  
  
ひとり
学校がえり
でたらめの歌をうたっていると
生き返る気がするの
  
  
白美人
夜ごと
白い鼻すじのハクビシンが
トウモロコシを噛りに来るという噂
  
  
花火
歓声の喉にとびこんで
胸にあわだち
晩年を待たずこときれる

(伊林俊延個人誌「EN」40号FESTA SEPTEMBER1998掲載)






Dante通り

                    関 富士子



大きな鷲のレリーフも蔓ばらをかたどった手すりもよく見えない
表通りのアパルトマンには灰色の覆いがかけられている
今日は安息日だから街は静かで
河岸のコンテナの蓋をあけ遅い店開きをする人
たばこをくわえたまま古ぼけたペーパーバックや複製画を並べている
その道を入った裏通り
プラタナスの葉先の揺れる向こう
あんなところにいたのね
ライオンの頭の上でマーキュリーのレリーフにペンキを塗る男
命綱一本で空からぶら下がり爪先を壁に添えてバランスをとり
像がはいているサンダルのあたりに熱心にかがんでいる
サンダルには小さな羽根がついていて
男はまるでそれにキスをしようとしているかのようだ
いましも頬が羽根に触れようとしたとき
綱が大きくねじれ男はあおむけにのけぞった
わたしを懐かしげに見てそのままゆっくり落ちていった
  
街では巨人たちが通りの角ごとに立ったり寝そべったり
膨大な物語をまとうので胸も腰も鎧のようにぶあつい
アカシアの枝からうすみどりの房が重く垂れている
マーキュリーの背中には翼がなかった
小さな羽根のついたヘルメットとサンダルで
宮殿の天井を楽しげに飛んでいた
めざめるとそこは知らない街のホテルで
明け方の窓際に男がたたずんでいる
腰に命綱をひきずっている
男は天使ではなくて死すべき運命にあり
墜落したのはわたしが呼びかけたからだ
近づいてその首に腕をまわすと
頚骨は折れていない
こんなところまで来たのか
ささやきながらわたしに身をかがめるので
目をとじて首の付け根の丸い骨に触れている



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<詩>「エンドレス・タワー」「ディペルティメント」「海のうた」(倉田良成)へ
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