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vol.7

(関富士子の詩)


岸辺にて

                    関 富士子

増水してとどろく流れに沿って
遠くまで続く柵にひどくもつれて
この花ばなの咲き乱れよう
野生のランが
花びらを星形に破られ
幾本もの舌を伸ばして
いっせいに息を吐いている
ぬかるんだ小道と川とのあいだの
人の高さほどの茂みは
奥行きのある官舎の回廊に似て
そこで夢見られる殴打のような快楽が
わたしをおびやかすのだが
しかしようやく通り過ぎると
野ばらの群落がひらける
たくさんの小さな白い花が
人の叫び声を聞くたびに
少女のハンカチのようにふるえる
酸っぱくほのあかい内部に
虫の姿をしただれかがひそんでいる
一つ一つをのぞきこむと
背後にも生き物の気配があって
振り返ると次々に飛び立つ
くろずんだ羽にかこわれて空をゆく
あれはだれのたましい?
川べりに草を集めて焼いたあとの
まだ熱のこもる灰が積まれている
焼け残った小さなトマトの
しわんだ皮の内側が温かい
かがんでその熱に額をあてて
灰を指先につけてなめてみる
よりそってわたしを見ているつがいのキジバトよ
この味を何という罪で呼ぶのか?
するとどこからか
にぎやかな囀りが聞こえる
向こうに一本の木が立っている
こんもりした葉むらから
こまかな黄金のかけらがこぼれている
そっとその下にたたずむと
きらめいて飛び散るシャワーのように
なおもわたしに降り注ぐ
小鳥たちのたえまない声
なぜ人だけが
あらかじめ悔い改める姿で
頭を垂れるのか
目を閉じてうなだれて
ただじっと耳を澄まして
その許しを受ける
         詩誌「gui」no.52掲載1997.12


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