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gui20周年フェスタ Poetry Reading |
モミの木を洗いましょう
少年が泣いている
九月に出会った少年は奥深い森の中で
牛のフンにまみれて泣いている
フルーツバスケットをほおりだし
黒い涙でからだをずぶ濡れにして
少年が泣いている
せめて 雨よ降らないで
だから 雨よ降らないで
ビーズの月を盗み
夜明けまで 指を編み
シュガーベッドにこころを埋めた
そのことは
「誰にも言わないでください」
と 言った
少年が
からだをふたつに折って ゴーゴー泣いている
少年のからだにキノコのつぼみが顔を出した
わたしは少年の胸をひらいて
枯れ草の
香りに
輝く
少年の胸をひらいて
「モミの木を洗いましょう」
と ささやいた
白昼の森へ行き
地球からはみだした枝は そのままにして
モミの木を洗いましょう
言葉から
はずれた
音だけを感じ
(そ れ だ け で い い っ て)
少年とわたしは
一本 二本 三本
ていねいに 落ちるように
モミの木を洗う
(gui no.53 1998.4.1より)
だらだら坂
ブーツに跳ねる
水滴が揺れている
男と一緒に
黒い傘をかしげて
だらだら坂を登る
人に見られては行けないからと
雨の日を選んで会う
マリ子に知れては行けないからと
細い 露地を抜けて
隣のイタリアンレストランの壁に 雨が打つ
この入り口を何度くぐっただろう
プランターのポインセチアが笑っている
毛の短い猫が座ってる
屋根裏のように暗い部屋
男とわたしは 衣服を一枚づつ脱いでゆく
エアーコンデショナーの音が高い
体じゅうの水がくみ出されてゆく
十八の冬 三国の漁港を歩いた
カラス色の海
落日の残照が空一面
オレンジ色に燃えていた
鼻の先の赤い漁師 網を繕う妻
プランコの取り合いをする子供
その横で 「順番 順番」となだめる 若い母
誰が決めたんだろう 順番なんて
背を向けて 海の声を聞いていると 体の底から冷えてくる
この町には住めないと思ったものだ
派手なシャワーの音を聞きながら
この町なら住めそうだと思う
外の雨はやんだだろうか
それでも 男は 黒い傘を かしげるだろうか
最後の一枚の衣服が脱げない
男とわたしは雨垂れのように だらだら坂をおりる
詩集『象の栽培』より
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