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gui20周年フェスタ Poetry Reading |
無重量香川 紘子(かがわ ひろこ) 「DNAのパスポート」あざみ書房刊 丸山薫賞受賞
──鉄一貫匁と綿一貫匁と どっちが重たい?
──鉄や
──ちゃうでえ どっちも同じや
中学生の兄に まんまとかつがれた
国民学校一年生の春から
半世紀が過ぎて
いま テレビの画面には
リンゴや
紙飛行機が 宙に浮んでいる
スペースシャトル エンデバーの船内からの
毛利さんの授業が映し出されている
鉄一貫匁……の兄のナゾナゾが意味を失う
あの暗黒の宇宙空間を
いまごろ 父は
殉死した愛犬のダックスフンドを連れて
フワリ フワリと 散歩しているのだろうか
命の日数
「わが日の数のどれほどであるかをわたしに知らせ、
わが命のいかにはかないかを知らせてください。
とうたった
旧約の詩人の言葉に出会ってから
何年経っただろうか
今世紀初頭に生まれ
激動の時代を掻い潜って
九十二年七ヶ月を生きた母の命の日数が
わずか三三、七三八日にすぎないと知った瞬間
わたしの瞼に
火葬場の火照る炉から引き出された
あまりに慎ましやかな白っぽい灰が
オーバーラップした
母と暮らした
重度障害者としての六十年間に
二一、八七十日でピリオッドが打たれ
もう声に出して
〈お母さん〉と呼べなくなった
秋の日暮から
わたしはあなたを身籠ったのです
土に返す
お母さん
脛といわず
その両手と内臓と
あなたの全身を齧り しゃぶり
食べ散らかした
重度障害者としてのわたしの六十年
墓石の下で十八年間
辛抱強く待っていてくれた父の逞しい腕に
絽の留袖に包んだ
わたしの食べかすの骨を
今 お返しします
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