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藤富保男
vol.8
 gui20周年フェスタ Poetry Reading 



香川 紘子

藤富保男)四国に香川紘子さんという方がいらっしゃるのはご存知と思いますが、香川紘子さんは実は今から35、6年前からの知り合いでございまして、そう言うと年齢がわかるようでございますが、当然二人とも年をとっておりまして、20歳代の時に、北川冬彦さんの「時間」という雑誌で書いておりました。

香川紘子さんは重度の身体障害をもっていらっしゃいまして、ぼくは会ったことがなかったんですが、今から数年前に初めておめにかかりましたが、お一人では布団から起き上がることができないような状態で、今回も録音をするということで、非常にお困りになったそうです。特に今回は体調不良のため横になったままの録音となりましたので、お聞き苦しい点もあるかもしれないと後でお聞きいたしました。


香川紘子)gui20周年記念のお集まり、おめでとうございます。わたくしは、四国の松山に住んでおります、香川紘子ともうします。guiには5年前の40号からお仲間入りさせていただいております。20年といえば人間にたとえればちょうど成人式にあたりますね。何を置いてもお祝いに駆けつけたい気持ちでいっぱいでございますが、残念なことにわたくしは重度の障害者で旅行がままなりません。それで祝電を差し上げたいることも考えましたけれど、でもやはりこういった形で参加させていただくのが、心がこもるのではないかと思い、ほんとうに拙い自作詩朗読でございますが、テープを送ることにいたしました。

 ただ詩の朗読はずぶの素人でございまして、実は昨年公の席でしかたなくなく二度ほど読んだことはありますけれども、これが三度目でございます。そのうえ言語障害がございますので、お聞き苦しいと存じますが、お許しくださいませ。一昨年藤富さんが心を込めて作ってくださいましたわたくしの9冊目の詩集、「DNAのパスポート」から、今は亡き両親の思い出にちなんだ詩、3編を読ませていただきます。








無重量



──鉄一貫匁と綿一貫匁と どっちが重たい?

──鉄や

──ちゃうでえ どっちも同じや

中学生の兄に まんまとかつがれた

国民学校一年生の春から

半世紀が過ぎて

いま テレビの画面には

リンゴや

紙飛行機が 宙に浮んでいる

スペースシャトル エンデバーの船内からの

毛利さんの授業が映し出されている



鉄一貫匁……の兄のナゾナゾが意味を失う

あの暗黒の宇宙空間を

いまごろ 父は

殉死した愛犬のダックスフンドを連れて

フワリ フワリと 散歩しているのだろうか





命の日数



  「わが日の数のどれほどであるかをわたしに知らせ、

   わが命のいかにはかないかを知らせてください。

とうたった

旧約の詩人の言葉に出会ってから

何年経っただろうか



今世紀初頭に生まれ

激動の時代を掻い潜って

九十二年七ヶ月を生きた母の命の日数が

わずか三三、七三八日にすぎないと知った瞬間

わたしの瞼に

火葬場の火照る炉から引き出された

あまりに慎ましやかな白っぽい灰が

オーバーラップした



母と暮らした

重度障害者としての六十年間に

二一、八七十日でピリオッドが打たれ

もう声に出して

〈お母さん〉と呼べなくなった

秋の日暮から

わたしはあなたを身籠ったのです





土に返す



お母さん

脛といわず

その両手と内臓と

あなたの全身を齧り しゃぶり

食べ散らかした

重度障害者としてのわたしの六十年

墓石の下で十八年間

辛抱強く待っていてくれた父の逞しい腕に

絽の留袖に包んだ

わたしの食べかすの骨を

今 お返しします





香川 紘子(かがわ ひろこ) 「DNAのパスポート」あざみ書房刊 丸山薫賞受賞

(関富士子)香川さんの「おかあさん」という声を聴いたとき、日ごろ電話もろくにしない故郷の母のそばに、今すぐ飛んでいきたくなった。やさしいせつない声だった。

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