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野坂政司 vol.8
 gui20周年フェスタ Potry Reading 

各地で朗読活動を続ける詩人、野坂政司が北海道からやってきた。すてきなおひげ。やさしい笑顔。少林寺拳法の達人でもある。硬質な詩と深みのある声、バックの太鼓のリズムとを楽しんだ。gui55号のアメリカン・ポエトリー・コラム「ガツンとこなけりゃ、文字も声も」を読んでみてください。



野坂 政司



guiのメンバーになりましたのは、今から16、7年くらい前になるかと思います。古いメンバーの一人になっているような気がしますけれどもときどき原稿を出せなくて休まざるをえないという悔しい思いをすることがあって、なるべく休まずに書きたいとがんばってやっているんですが、時々は休んでいます。
いつもguiではこのところエッセイといいましょうか、アメリカの詩を紹介する文章を書いていまして、自分の詩はほとんど書いておりません。ただほかのところに書いている詩を今日は読みたいというふうに思っています。それと、guiで紹介したアメリカの詩人の訳詞も読みたいなと思って一つ持ってまいりました。






  「手首」 野坂 政司

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  サンディアータ作「ディジェリドゥー」

次に、アメリカの詩人で、若いアフリカ・アメリカンの詩人なんですが、サンディアータという人の詩を読みます。その人の詩についてguiで紹介したことがありますけれども、「ディジェリドゥー」という詩を訳したものを読みたいと思います。これはちょっと不思議な言葉なんですが、サンディアータという人は彼自身朗読を数多くやっている人なんですが、バンドと一緒にやっています。
そのバンドのリーダーであるグレイグ・ハリスという人が、オーストラリアでアボリジニの楽器に非常に深い関心をもってそれを使って演奏して朗読したビデオがあるんですけれども、その中で使われている楽器が「ディジェリドゥー」という木管楽器です。
これは太さが直径10センチぐらいはあるでしょうか。長さが1メートル半ぐらいはあるでしょうか。尺八をおばけにしたような大変大きな楽器なんですけれども、演奏方法が、循環呼吸で演奏するというものなんです。その楽器について興味をもったサンディアータがそれについて詩を書いた、という作品です。


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《内でもなく 外でもなく》
               野坂 政司






ここはどこか

幻影空間を移動している君に現在位置の特定はできない

君には地図もない 標識も見えない



その場所で

足を上げる そして下ろす

この奇跡的な動作

それは骨と筋肉と意志の統合ではない



その場所で

手を握る そして開く

肉のうねりからこぼれ落ちる身体の記憶が

精神の鉱泉に溶ける



雪に覆われた岩場の陰から噴き出た熱い湯が

膝の痺れを消したことがあった

あの熱い湯は君の凍った心を解かせるだろうか



情動の闇のなかで

夢に浸っていたければ

君はここに留まるがよい

しかし この世界は酩酊した薄闇

張り巡らされた欲動の幾何学模様は

畏怖することを忘れた魂の氷像



銀色の薄膜に浮かび上がる模様の群れを追いながら

君は一生を終えるのか

そこで

見えない世界の果てに

揺らぐ写像を積み上げて

君は

焦点の解体と再建を繰り返すのか



ここは暗い

危険に気づいた君の目は

センサーの役割を

素早く指先にゆだねる

手は幻影と現実を区別しない

手は触るものが有るか無いかを知る



この先は懸崖であり一歩も踏み外すことができない

この場所で読み続けることは

書き続けることを断念することか

ここで坐り続けることは

踊り続けることを断念することか

この断念の連続する斜面をおさえ

私の速度を操作する

私の位置を操作する



それは

内と外を隔てる懸崖を登るためではない

それは

滑走することから生まれる慣性の圏外に抜け出ること











《小さな摩擦音》
             野坂 政司





多幸感に導かれて

模造の迷宮を探る

あなたの

臑が

踏みしめている大地を忘れるとき

あなたの遠近法から焦点が消える



視野に影を落とす

死の兆しを知り

息をひそめて周りを窺えば

あなたの胃が硬くなる



世界を縮小させ圧迫する不可視の力に包まれながら

あなたの時間は進む

心を躰から引き離し 幻影空間の中に浮遊させる力に押し流されつつ

あなたの時間は進む

そんな時間を生きていたら

あなたは無明の闇を切り裂くことができるだろうか



わたしの言葉は

あなたとの距離と

あなたとの相似性に挟まれている

その境界線上に留まることのいびつさ

そこから遠くに走り去ろうとすることの危うさ



わたしという免疫系のなかで

わたしは変わり続ける

わたしは そこで 異物と共存しているのか

昨日のわたしと明日のわたしが主役の座を競いあっているのか

それとも この変化を繰り返すものは

投影された世界の記憶に抵抗する情報神経系の反逆なのだろうか



わたしは

頚椎をゆるませながら百会を天に向けて伸ばし

視線を遠くまで走らせる

わたしの視線は

地平を一回りして

自分自身の背中から胸に貫通する



わたしの

右腕は

立ちはだかる悪意に向けられた盾となり

わたしの

左掌は

夢の時間を生きる幼児の背中に触れている



身動きもしないように見えるだろうが

わたしは静止してはいない

わたしの全身が旋回している

わたしは

超速度の柔らかな運動体として小さな摩擦音を創り出す

いま その響きが

あなたの耳を訪れる

異界の音楽になるだろう





アジア人・モンゴロイドの進化」 野坂 政司

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野坂政司 野坂 政司(のさか まさし) 1948年、北海道小樽市に生まれる。ことばと肉体を焦点とする楕円が、音楽・映像などによって変形曲線化された圏域を生活圏としている。詩朗読に関しては、サンフランシスコ州立大でのビート世代以降の朗読の展開の調査(1987〜1988)をもとに、自作詩、訳詩を各地で朗読している。北海道江別市在住。

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