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藤富保男 vol.8
 gui20周年フェスタ Poetry Reading 



藤富保男



詩・北園克衛「黒い肖像」 作曲・唄・三味線 西松布咏 RealPlayer5で聴くことができます。download




藤富保男)ちょうど今、西松さんに北園克衛の「黒い肖像」というのを歌っていただきました。これは1951年の彼の詩集にあります。その昔、春山行夫さんという方がおられて、皆さんもよくご存知と思いますが、有名な「白い少女 白い少女 白い少女・・・」という詩を書かれた。まあ、私は驚かないよという人と、あれにはびっくりしたという方といろいろおられると思いますが、ただ、実はたった今西松さんが歌った『黒い火』というのは、当時かなり問題になった詩集でございますね。

これはご存知のように字が点点点・・・と上の方に並んでいるだけだから、読むときもページをどんどんどんどんめくるという具合になっているし、当時としては画期的な詩の方法であったと言うわけであります。ただし、それから8年後1959年にこの詩人は『煙の直線』という詩集を出している。この詩集はこういうふうに書いてあるわけであります。「赤い四角は赤い四角である 白い四角は白い四角である」ということが続いて、たとえば「黒い円筒は黒い円筒である」というふうにずーっと書いてある。

 詩の上でいわゆる意味というものを拒否している詩人でありますから、そういえばなるほどそうであると思いますが、この詩は当然読む詩ではありません。これは見る詩でありまして、字の配置、それから黒という字がどのぐらい入っている、黄色がどうなっている、赤がどのぐらい入っている、非常に視覚的といいますか、そういう詩の効果なんです。

 北園克衛さんという方は非常に音に出して読む、ということを嫌っておりまして、現代音楽の作曲家なんかが彼の詩を、彼の没後ずいぶん作曲しておりますが、いま西松さんがおやりになったような、演奏で北園さんをやるということは、いま北園さんがここにおられると、ちょっと叱られるようなことじゃないかなと思います。

 とにかく前口上はあれこれといたしまして、彼の『煙の直線』という詩集を読んでみたいと思います。ぼくはなにもなくてもだいたい読めるんですけれども、それじゃああまりおもしろくない、字面の詩ですからね、今日はそういうふうに読まないでちょっと変えて読ましていただこうと思っております。なお遅れましたが、西松さんとは以前築地で二人で北園克衛を歌う会というのをやった事がありますので、リハーサルもしない状態で来ておりますので、どういうことになるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いします。

(実況中継)「白」の散乱  関富士子

 舞台の上の一人の男。髪がいささか薄く丸い顔に眼鏡をかけている。青い背広すがたで、まじめくさった表情である。背広の右ポケットをもぞもぞしはじめる。唇を少し尖らせて、「白の ための」と言いながら、取り出したのは真っ白な一枚の紙である。西松布咏の三味線がペンペンと鳴る。また「白のための」と言いながら左ポケットを探ると、そこからも白い紙が現れる。観客はあぜんとして見ている。ちょっと首をかしげながら「白のための白のための白」と言うと胸のポケットから白い紙が一枚、二枚、三枚。あちこちでくすくす笑い声が上がる。

 男は今度は背広の胸の内ポケットを探りはじめる。「白のなかの白 のなかの白・・・」白い紙を見つけて驚いた表情である。さらに「白のうえの白の うえの白」と一枚、二枚、三枚重ね、手品のトランプのように広げて見せる。みんな大喜びで拍手。男が「白」というたびに白い紙が現れるのである。「白である 白である」と確かめている。いったいポケットには何枚の白い紙が入っているのか。

  「白について白に ついて・・・」。「白」が床にひらひら落ちていく。ズボンのポケットから、尻ポケットから、次から次へと「白」が現れる。「いいかげんに白」「勝手に白」と野次が飛ぶがものともせず、「白のための・・・白の」「白について白について・・・」。三味線が鳴り響く。「白」の洪水、「白」の散乱。そのうち、詩人の顔がふっと横を向く。傍らの譜面台に何か発見した様子。「白であった白」。譜面台からやおら白い紙を取り上げる。今までの倍以上の大きさの真っ白な紙が二枚、三枚・・・。「白であった白 であった白・・・」。そして最後に「白のための 黒!」と一声叫ぶと、一枚の大きな黒い紙。これがピリオッドであった。

 後日、男に確かめると、この詩は北園克衛の詩集『煙の直線』のなかの「単調な空間」と「une autre poeme」をもじったものとのこと。その男、詩人藤富保男は、いたずらっぽくへへへと笑っているのであった。




朗読 藤富保男 朗読はRealPlayer5で聴くことができます。download



白の
ための
白の
ための
白のための


白の
ための白の
ための

のための

白のための
白のための
白のための

のための
白のための白のための白

白である
白である

白のうえの
白のうえの

のうえの白

白のための
白のための
白の
ための
白の


白のための
白である白
である白

白のための
白のための白

白のなかの白の
白のなかの白の白
白のなかの
白のなかの
白のなかの
白のなかの


白である
白である
白である

白について

白について


白であった白
であった白
であった白
であった白
であった白
であった白

白であった白
白であった白

白であった白

白のための白
のための
白のための



(関富士子)二つ目に読んだ「久しぶりに小笠原くんに会った」で始まる「盛大なもてなし」という詩は、いずれ散文詩を集めた詩集に収録する予定というので、今回は掲載を遠慮しました。声だけお聴きください。詩集が出たらご紹介しますのでお楽しみに。
藤富保男
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藤富保男 紹介が "rain tree"関富士子のエッセイ 藤富保男にあります。

向かって右から、関富士子、賀陽亜希子、藤富保男


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