天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第4話『急病人に医療器具を届ける後編』

めっちゃ短い前回までの話。

「早坂由紀夫と溝口正広の二人暮らしも軌道にのったある日、由紀夫は仕事中に、緊急事態に遭遇した。命にかかわる救急患者に医療品を届ける事になったのだが、その救急患者は、ガソリンスタンドの制服を着た正広だった。」よー解らん解説やな(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「緊急怪我手当てグッズ」届け先「千明」

奈緒美から電話を貰い、急いで戻った由紀夫が勢いよく事務所のドアを開けると、奈緒美の怒鳴り声がしていた。
「あんた、何考えてんのよ!ひろちゃんをガソリンスタンドで働かせるなんて!」
「違うんです!千明ちゃんは俺を助けてくれただけで!」
「ううん!ごめんね!ごめんねひろちゃん」
「どーゆー事だよ…」
「由紀夫…」
「兄ちゃん…」
無表情に由紀夫が呟くと、慌てたように千明が駆け寄ってくる。
「あの、ごめんなさい、あたし…」
「違うんだって!俺が千明ちゃんに頼んだんだから!」
「だからってあんたねぇ」
奈緒美が、再度千明に言った。
「いくら、バイト紹介して言われたって、ひろちゃんにガソリンスタンドなんて無理な事解るでしょう?」
「…あたしが、一緒だから…、大丈夫かな、って…」

「何でだよ!」
由紀夫の声に、千明の体が竦み上がる。
「何でおまえが一緒だったら大丈夫な訳!?」
「だから、あの…」
「待ってってば!」
由紀夫と千明の間に、千明を庇うようにして正広が割って入った。
「怒るんだったら、俺に怒ればいいじゃん!千明ちゃん、助けてくれただけなんだから!」
「正広…」
「悪いの俺なんでしょ!?」
日頃の大人しい正広とは違うキツい調子で声を上げた。
「勝手なことして、倒れて、迷惑かけて!悪いの俺なんだから、俺に言えばいいじゃん!」
「ひ、ひろちゃん…!そんなに興奮したら…」
野長瀬の声は、由紀夫にも、正広にも聞こえている様子はない。

「どーせ兄ちゃんは…」
黙ったままの由紀夫に、正広は言った。
「どーせ俺の事、なんもできないって思ってんだろ」
「んな事…」
「思ってるよ!体弱くて!子供で!可哀相だって思ってて!でも、俺もう治ったんだから!全部が全部じゃないけど、何だって出来る!欲しいもんがあったら、自分で買うし、やりたい事があったら、自分でやる!赤ちゃんみたいに、なんも出来ない訳じゃない!」

腰越人材派遣センターのオフィスに、シンと沈黙が訪れる。
誰も動けなかった時、一番最初に言葉を発し、動いたのは由紀夫だった。
「…じゃあ、好きにしろ」
低い声で言い、身を翻して事務所を出て行く。一瞬遅れて、千明が駆け出した。勢いよく戻って来たドアに額をぶっつけそうになりながら、半泣きの顔で追いかけて行く。
オフィスには、正広と、奈緒美、野長瀬、典子が残った。

「ひろちゃん…」
静かな声で言われ、正広は奈緒美の方に振り向く。
「これは、あたしも納得しかねるわね」
自分の椅子に座り、指先で正広を自分の前に呼び寄せる。
「あんたがあたしたちにかけたのは迷惑じゃないわ」
「奈緒美さん…」
硬直した表情の正広に、奈緒美は言った。
「心配よ」

「由紀夫…!由紀夫ったらぁ!ねぇ待ってぇ!」
自転車に乗ろうとしてた由紀夫にしがみついて、千明が騒ぐ。その手を振り払ってペダルに足をかけたら、強い抵抗ととてつもない悲鳴が上がる。
「バッカ…!おまえ何やってんのっ!」
あろう事か、千明は両手で後ろのタイヤつかみ、スポークに指を突っ込んでいたため、自転車本体との間に、思いっきり挟んでいた。
慌てて手を外させ、由紀夫はその怪我の程度を確かめる。
「何やってんだよ!指落ちたらどーすんだっつの!」
「いい!平気だから!…い、い…、いったぁ〜いぃー!」
「痛いに決まってんだろ!」
千明のおもちゃの指輪で飾られた両手の指、3本から、ダラダラ血が垂れ、後2本は、皮がむけ血が滲んでいる。仕事に使う自転車だから、油で汚れまくってるって事はないにせよ、とにかく早く手当てをしないとばい菌が…。

事務所のガレージの水道をひねり、その下に千明の手を突っ込む。
「い、痛っ」
「ちょっとガマンしろ!すぐ帰ってくるから!」
事務所には、はしゃぎすぎー、の怪我しすぎである野長瀬のための救急箱があるのは知っていたが、感性がお子ちゃまの千明に、あの(一般的には普通の)消毒薬は拷問の一種だろう。
急いで通りの斜め向いにある薬局に走り、傷に染みない傷口を乾かすタイプの消毒薬と、包帯、ばんそうこう、などなどの怪我手当てグッズを買い込む。更に加速して戻ると、千明は手から顔を背け、半泣きになりながらも、大人しく流水の下に手を入れていた。
「見せてみ?」
水道を止めた由紀夫に言われ、とにかく傷口を見たくないって風に、手だけを動かす。
「痛かったら言えよ」
水気を取るように、ガーゼを軽く当てながら言うと、顔を背けたまま、小さく首を振る。
「痛いかっ?」
「ううん、大丈夫…」
消毒して、小さ目の傷にはバンドエイドを貼り、間に合いそうにないものには、ガーゼとテーピングでカバーして行く。

どうにか全部の怪我に手当てし終わり、千明はようやく顔を由紀夫に向ける。涙目で。
「…バカか、おまえ…」
「だって…、由紀夫行っちゃうって思って…!」
必死の顔で、千明は言った。
「違うんだよ、違うの!」
「何が」
「ひろちゃんが言ったこと。そじゃないの!ひろちゃんは、好きにしたいんじゃないんだよぉ!」
由紀夫の手を取ろうとして、痛みに顔をしかめる。
「ひろちゃんとあたし、一緒なんだもん…」
「一緒?」
「あたしも、ひろちゃんも、由紀夫になんかして上げたいんだよぉ?でも、由紀夫、なんもさせてくんないじゃない…」
痛む指をもてあまして、千明はいつものオーバーな身振りができない。
「あたしと、ひろちゃんじゃ全然違うけど、でも、ひろちゃん、由紀夫のこと好きだから、由紀夫のこと、大事なたった一人の家族だから、助けてあげたいし、力になりたいって、そう言ったんだよ?でも、何もできないから、せめて生活費とか、そんなことでもって…。それで、あたし…、一緒のバイトにって…」
そう呟いた時、千明のお腹が思いっきりなった。
由紀夫はキョトンとし、それから爆笑する。
「ひど…!だって、お昼から、なんも食べてなくってぇ!」
真っ赤な顔で、千明は抗議した。正広が倒れたのは、午後一。それから病院に付いて行き、事務所に戻って、奈緒美に怒鳴られ、由紀夫に怒鳴られ、指を怪我して。それじゃあ、食事するヒマなんてなかっただろう。

立ち上がった由紀夫は、千明の腕をそれなりに優しくつかんで立ち上がらせる。
「何が食いたい?」
「え?」
「おごってやるよ。どこがいい?」
「ウソ…!ホントに?ホントにっ!?」
パキーっ!といつもの笑顔になって、千明は由紀夫に抱き着こうとして、常と変わらぬ調子で抵抗される。
「いやぁ〜ん!」
「傷口開くぞ」
自転車を押し出した由紀夫の隣にくっついて、あのね、あのね、あたしね、と食べたい店だの、行きたい場所だのを、千明は次から次へと並べ初めた。

結局、手がちゃんと動かない千明が食べられるものとなると種類が限られ、元来器用とは言いがたい千明は、洋食屋のオムライスを苦労しながら食べた。
「食べさせて?」
と言われた由紀夫が、ナプキンで千明の頭をはたいたのは言うまでもない。
キャイキャイはしゃぐ千明を部屋まで送り、ようやく周囲が静かになった由紀夫は、千明が言った言葉を思い出す。
由紀夫にとって、正広が一緒に暮らしている事は負担じゃないし、腰越人材派遣センターの給料は、二人分の生活費を補って余りある。まして、正広は一応完治したとは言われたものの、その心臓は常に爆弾を抱えている、くらいの覚悟は必要だと主治医の森先生からも言われていた。
でもな…。
都合よく忘れていた言葉も一緒に思い出した。
『適度な運動はした方がいいです』
…何で忘れてたかな…。

「ゆっきおっ」
道端で、自転車に座ったまま考え込んでいた由紀夫は、肩を叩かれて振り返る。ジュリエット星川がいた。
「あぁ…、さっちゃん」
「それ止めてって言ってるでしょーっ!」
相変わらずの派手なファッションに、派手なメイクの星川が眉を吊り上げる。
「あんたは何ボケっとしてるのよっ!」
「なぁ」
ぼんやりしてた由紀夫は、星川に向き直って尋ねた。
「…さそり座としし座って…。どういう相性なのかな」
「さそりとしし?」
インチキとはいえ、一応占い師。星川はちょっと首を傾げて口を開いた。
「しし座って、頼られることが身上なのね。特にさそり座との関係においては、さそり座が、しし座に頼る方がうまくいく相性。ちなみに、ガンコなのはどっちもどっち」
「…ふーん」
「さそり座って…、由紀夫でしょ?あんた、ホントウは11月13日生まれだって?」
「そう」
「どーする、書類とか直す?あんた、4月16日生まれで書類作ってんだけど」
「そりゃ、別にどうでもいいよ。あ、後、O型とA型の相性は?」
「A型の宿命って知ってる?」
間髪入れず、星川は尋ねてきた。
「へ?」
「A型の宿命」
「…知らない…」
「O型の面倒をみることよ」

さそり座のO型が由紀夫、そして、しし座のA型が正広。
バイバーイ、と星川から手を振られ、由紀夫は部屋に戻る。
戻った部屋はシンと静かで、動いているのは鳥かごの中の文鳥だけ。別にそれは、今までと変わらない。早坂由紀夫になってから、正広が退院するまで。由紀夫は一人で暮らしてきた。
静かな部屋なんて、もう慣れきってしまってるはずなのに。
『兄ちゃん、おかえり!』という声がないと、なんだか寂しい。
あぁ、それでか…。
無意識のうちに森先生の言葉を頭から追い出していた理由に思い当たる。
正広を閉じ込めておきたかったのか…。
部屋に帰れば、必ずいるように。
正広の文鳥のように、この部屋を鳥かごにして?

そりゃ、イヤになるって。
正広が一度は帰ってきた様子があったので、そう遠くじゃないだろうと近所をめぐる。
小さな背中を見つけたのは、大きな橋の側の土手。
黙って近づいて隣に座ると、びっくりした顔で由紀夫を見つめた。
そのまま黙っていると、何度か口を開いたり、閉じたりした正広が意を決して話し出そうとする。
「あの、兄ちゃん…」
「ちょうどさ」
それを遮って、由紀夫は橋を指差した。
「あんな橋の下だった」
「え…?」
「俺が小学三年の時で、学校の帰りに猫の鳴き声がするもんだから、どこだろうって探してみたら、あんな橋の下からで」
淡々と喋る兄の言葉を、正広は黙って聞く。
「近寄ってみたら、猫じゃなくって赤ちゃんで、俺、ちょうどあれっくらいのバック持っててさ、それに入れて持って帰ったんだよ」
「…えぇ?」
自転車の後部座席にくくりつけられてるバッグを正広は振り返り、思いきり不審そうな表情になった。
「親からすりゃ、今更養子が二人になったって、一緒じゃん?でもその子は実子として届けを出して、育てることにしたんだよ」
「お…、俺…?」
「生まれたての頃は随分体弱くってさぁ、俺もよく看病したよ。まぁ、幼稚園とか行き出してからマシになったけど、しょっちゅう熱出すし、上げ下げひどいし」

初めて聞く話に、正広の顔色が変わる。
由紀夫が養子なのは、比較的幼い頃から聞かされていたけど、まさか自分までそうだったとは…。
けれど、あまりの事に、呟いてしまった。
「嘘…」
「嘘だよ」
あっさり言われ、正広は大きな目をぱちくりとさせ、由紀夫の顔をマジマジとみた。
「…嘘…?」
「嘘。何、こんな話信じた?」
ケロっと言われ、正広は思いっきり由紀夫の肩を殴った。
「って…!」
「何だよ!何でそんな嘘つくんだよっ!」
「おまえが嘘つくから。お返し」
「嘘ぉ?俺、嘘なんて」
ついてない!と言おうとした正広が、口を閉ざす。ほら、な?という顔で由紀夫はその顔をのぞきこんだ。
屋外でバイトしてるもんだから、子供の頃にはかなわないまでも多少肌も焼けた。一見健康そうにも見える。でも…。
「ガソリンスタンドは止めてくれよ」
由紀夫は言った。
「結構、立ちっぱなしだし、この時期じゃ炎天下になっちゃうし…。千明の頭の回転が珍しくよくって、森先生の携帯ならしてくれなかったら、どうなってたか解らないんだし」
「うん…。あの…」
事務所で奈緒美に言われたことを思い出す。
「心配かけて…、ごめんなさい…」
頭を下げた正広は、由紀夫の大きな手が自分の頭に置かれたのを感じる。
「俺…。なんか、なんもできないのがヤで…。バイトくらいしないと、兄ちゃんに悪いって思って…」
「何で俺に悪いの」
自分の手があるから俯いたままの正広に尋ねた。
「なんもできないから…。なんか、俺って、しーちゃんみてぇって…」
『しーちゃん』が、二代目白文鳥につけられた名前であった。正式名称「しろ」。自慢気にそう言った正広のセンスに、軽い疑問を由紀夫は感じている。
「家にいて、餌もらってるだけで、でも俺、しーちゃんみたいに可愛い訳でもないしさぁ…。手乗りもできねーし、飛べねーし、おまけに音痴だし」
「そういうつもりじゃなかったんだけどな」
…そういうつもりだったらしいけど。
そんな自分の内心を笑い、正広の髪をくしゃくしゃっと撫でて手を離した。
「じゃあ、バイト紹介してやるよ」
「ホントっ?」
キラリーン!輝く瞳で正広は由紀夫を見つめ、由紀夫もにっこり笑って答える。
「ホント、ホント。その代わり、文句いうなよ」

そんな訳で、正広は、月給制で、早坂家の主夫として家事一切を取り仕切る運びとなった。元々掃除、洗濯はできていたので、問題は食事に集中。これについても由紀夫は考えてあった。
すなわち、あぁ見えて実は料理好きだの集団だという腰越人材派遣センターへの出向である。
正広は、月〜金の、10時〜4時で腰越人材派遣センターに通い、典子のアシスタントをしながら、一般的な料理を典子から。男の料理を野長瀬から。突拍子もない料理を奈緒美から習った。
「カレーはね、やっぱりスパイスが大事」
『ルーを使ったらいいのよぉー』という典子の声を無視して、奈緒美は事務所に特設されたキッチンで、とうとうと説明した。
「このスパイスの調合が、各家庭によって違ったりするんだけど、いい味を出すためにはちょっとした呪文があるのね」
「呪文ですかぁ?」
「こうやって、スパイスをすりつぶしていくんだけど」

「ただいまー」
「おっかえりなさーい!」
由紀夫の声に、正広はキッチンから怒鳴り返す。由紀夫が覗き込むと、正広は生真面目な表情で、スパイスをすりつぶしていた。
「あ、ごめんね、今日カレーにしようと思ったんだけど、なんか、すっげー時間かかっちゃって…」
「…別にいいけど、カレーって、そんな風か?」
「典子ちゃんは、野菜と肉と切って、炒めて、水入れて、ルー入れたらできるって言ったんだけど、奈緒美さんが」
奈緒美は、とにかく、それどこの国のなんて料理で、一体どんな材料を使ってるんだ?というもの珍しい料理が好きで、本人が作るのももっぱらその手に限られている。
「んでも、カレーを美味しくする呪文ってのがあって、これってね、インド王宮の料理人に伝わる呪文なんだけど、7年前に偶然奈緒美さん知ったんだって」
「呪文…?」
「スパイスをこうやってすりつぶす時に唱えるんだけど」
ふーん…。あんまり本気にせずキッチンを出ようとした由紀夫は、正広の言葉を聞いて転びそうになった。
「今、なんつったっ?」
「え?」
やっぱり生真面目な表情で振り向いた正広が、答える。
「キシワダ…」
「岸和田ぁーっ?」
「これ唱えながらスパイス潰したら、いい味が出るって」
『キーシーワーダァ〜』と低い声で唱えながら、ゴリゴリとスパイスを潰している正広を見て、奈緒美バカな事を教えるなと釘をささないとな…と由紀夫は思った。

「おっまたせしましたー!」
「…お待ちしました…」
それでもなんとか本格インドカレーは完成し、10時半には夕食にすることができた。
「おいし?」
「美味しい、美味しい」
「ホントぉー?どんな風に美味しいー?」
自分でも食べながら正広はいい、ふとソファに目をやった。
「あっ!兄ちゃんダメでしょー!このスーツ高いんだからぁ!」
ガタっと立ち上がって、由紀夫のグッチのスーツをハンガーにかける。
「奈緒美さんに叱られちゃうよー」

きゃんきゃん言う正広をみて、…奈緒美と千明の小型版がいるみてぇ、と由紀夫は笑った。

<つづく>

はー、すんません、1週間あきまして…。こうやって正広くんは、早坂家の主夫として活躍する事になり、小言オヤジへの道が広がるのであった(笑)しかし、野長瀬の男の料理って一体…?

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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