りんく

     
       
       
    Book Junky's review
         
       
白い犬とワルツ-To dance with the white dog  by Terry Kay (テリーケイ)
新潮文庫 定価552円 /269項≒2.05\/P

誠実に生きてきた男の最後の数年間を描いた話で、モデルは作者の父親だそうです。
美しい回想シーンと、簡潔な日記の記述がメリハリのある効果を出しています、作者の作戦勝ちってところでしょうか。

アメリカ南部に住む、足の悪い老人サムとその妻コウラは、60年前にマディソンの学校で出会いました。
その学校から同窓会の案内状が来たその日、妻コウラは心不全で死んでしまいます。
残されたサムを7人の子供達は心配をして、干渉しようとしますが。
老いたとは言え一家の家長としての誇りか、素直に受け入れるどころか一層みがきのかかる偏屈ぶり。
その頃、コウラと入れ違いにふらりとやってきた白い犬、サム以外に姿と見せようとしない事から、「おかしくなった」と子供達はパニックになります。
そして、誰にも告げずに白い犬と共に、おんぼろトラックで同窓会へと冒険の旅に出ます。
さて旅の収穫はなんでしょう?

サムは神の存在は信じるけれども聖書自体は懐疑的です、説教師の息子を二人も持つ親としては、いささか不信心ですね。
まだ証明されていないと言う理由で、進化論を教科書から削除させてしまうような保守的キリスト教の強い南部ではなおさらでしょう。
というのは、彼にとってキリスト教というのは、宗教と言うよりもっと生活に密着した、モラルとか、行動のの規範なのではないかと思います。
正しく生きてきた、家長としての勤めを果たしてきた、その思いが有れば「たとえわれら死の谷を歩こうとも」なのです。
彼の周囲の老人達は死ぬことより、病に苦しむ方を恐れているのは、そのせいなのでしょう。
しかし、サムは仕事に励むあまり家庭を顧みなかったという、後悔があります、
「豊ではなかった、子供が財産だと思わなければならなかった」とも言っています。
つまり彼は正しく生きてきたと思っては居ないようです。
が、それはプチ家出(同窓会への冒険旅行)で出会った人達によって癒されます、 仕事や、妻と子供に対する評価、さらによき行いとは何かと言うことです。
では、冒険とは何でしょ? スタンドバイミーでは、少年達が大人への階段を少しだけ上り、ギリシャ神話ではベレロフォンが嫌々行かされた旅で、最後の残りカスのようなキマイラというモンスターを倒して勇者の仲間入りを果たします。
つまり、見知らぬ土地、なんらかの逆境の中で何かをつかみ取り、自分自身を一つ成長させるモノということです、特にアメリカでは歴史的にそういうのは好きでしょうね。
この後のサムは変わります、一家の長という今のことより、連綿と続く家族の一員という立場を意識します。 それは自分の残った時間を清く正しく美しくさせ、死を悄然と迎える準備でした。
そして、本当に時間は残り少なかったのです。

この本について、兄妹と話したのですが、泣いた人、ニヤニヤ笑った人、切なくなった人、実にバラバラでした、それはそのまま自分の父親との関係が反映されているようですね。 特に目を引いたのは(耳か?)アメリカのサザエさんじゃんと言う意見‥‥ なるほど、サムは波平か! ( '02 may)

by かずひこ('02 may/21st)

 

 

 

         
         
       
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