一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばない物だけをさす)が走っていた、後部のキャリアに旅荷物を満載している、騒々しい爆音に合わせて荷物の横で銀色ののカップが踊っている、ドライバーは十代半ばほどの黒い髪と精悍な顔つきを持つ若者だった、頭には耳を覆うたれの付いた帽子と少しハゲチョロのゴーグルをしている、そして長い茶色のコートの裾を太股に巻き付けている、右腿にはハンドパースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のホルスターがあって、大口径のリボルバーが入っていた。
こんな語りで始まるこの短編集は、「キノ」という旅人が喋るモトラド「エルメス」と共に世界を巡るロードストーリーです。
エキセントリックなエピソード、ぬるい掛け合い漫才、悲しい過去を抱えてクールに旅をするキノ、そして美しい世界が堪能できます。
悲しい出来事で「キノ」になった日から自分の命を守るためには躊躇わず人を撃つ事が出来る反面、10代の感覚で好奇心たっぷりに大人の社会を見ていて、このギャップが面白いと思います。
さて、ここでもう少し登場人物が居ます、ワケ有りの元王子様「シズ」と喋る犬の陸、文字どうりキノの「師匠」とやや背の低いハンサム、そして、「キノ」とエルメス、それぞれの世界との関わり合い方の違いでキノのクールな傍観者としての立場が強調されます。
しかし、キノの傍観者とは関わらない人と言う意味では無く、そこに居た人と言うことです、どのエピソードもお国の事情と言うことで、積極的に介入はしません、常に巻き込まれるのです。
例えその結果が悲しい事で有ったとしても、ぬるい掛け合い漫才と共にまた旅を続けます。なぜならそれ以上出来ることが無くなるからです。
キノは旅人、出来ることは生き抜くこと、そのためには躊躇わず引き金を引くことです。
この潔さこそ、この本を「新感覚」と言わしめた独特の読後感をもたらしていると思います。
CONTENTS一覧 I〜III IV〜VI
by かずひこ('02 Nov/21)
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