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vol.12

<雨の木の下で>


阿賀猥と支倉隆子のアジト発見! 岡姫堂潜入ルポ 1999.6.24  関 富士子



 阿賀猥といえば、切れ味鋭い破壊的な詩で知られ、詩壇の権威に悪口雑言、血も涙もない罵詈を浴びせる過激派として知る人は知っている。それに加えて神出鬼没の吟遊詩人、まれなる言語感覚と色彩感覚で聴衆を唸らせる支倉隆子。このふたりが定期的に都心のとある場所で会合を持ち、ある活動をしているという。秘密の隠れ家でパイプ爆弾でも作っているか。うーむ、凶器準備集合罪。こんな言葉は若い人たちは知らないね。

 彼女たちは、guiで言えば個の美学に殉ずる森原智子や国峰照子などの大姉御の下の世代、つまりわたしから見ればすぐ上の姉たち、団塊真っ只中の年代である。

 ということで、「詩学」の合評で真剣バトルをしている宮地智子さんに連れられて、6月20日、東京は浜松町駅近くにあるという「岡姫堂」に赴いた。正直言って恐いもの見たさである。

 瀟洒なマンションにある10畳ほどの1DK。ソファとダイニングの椅子がいくつか並んでいるごく普通の部屋である。詩人ふたりの親しい挨拶を受けてすぐに安心した。友達の家に遊びに来たみたい。月一回、ここで阿賀猥と支倉隆子を中心にしたPoetry Readingの会が開かれているのだ。

宮地智子宮地智子
その日集まったのは10人ほどか、支倉さんを皮切りに、出席者が順に詩を読んでいく。わたしも宮地さんのフルートの演奏に助けられて2編ほど読んだ。観客が思い思いに感想を言うが、みんな親切で拍子抜けである。谷川俊太郎を糞味噌に言う阿賀猥がいちばん優しくて、正直言って驚いた。初対面の人は皆、彼女の詩や詩評の過激さに比べてそのギャップに苦しむらしい。でも彼女の詩誌JO5は考えてみれば若い詩人に開かれたその包容力で成り立っているのだったと改めて認識した。

阿賀猥阿賀猥
阿賀猥の朗読は金属的な細い高い声がその詩の破壊的な笑いとリズムにぴったり。みずからをカリカチュアとして提示できる数少ない詩人である。バックに流したロックは元「P−モデル」の高橋芳一による。雰囲気に合っていて、なるほど自分をよく知っている。「五月の毒」はマザーグースの「クックロビン」を思わせる不気味な詩。

五月の毒

     阿賀 猥
  
私の五月に誰かが毒を流す
私も負けずに毒を流す
  
鳥の不幸
魚の不幸
草の不幸
アナタの不幸
チマタに流れるアマタの不幸
アマタの中のアナタの不幸
  
「あれは誰のせい?」
「誰かが流した毒のせい?」
  
不幸は不意に落ちてくる
天から
アナタから
鏡から
ほら コロリ
優しさは毒、甘さも、退屈も毒
そんなに毒につかっていると
今に不幸に狙われるぞ!
  
ほら ごらん
チマタのアマタの毒の群
あちらもこちらも毒まみれ
アナタも私も全身くまなく毒ダルマ
「これは誰のせい?」
「卑猥なる五月の毒を誰が流した?」
「私が流した
 針より小さい幸福(シアワセ)のために、私が流した
 皆揃って五月に流した」


           阿賀 猥
  
私がガンであるかどうか
とはいえ、たとえガンにせよ
私は死なない
マイルド・セブンにセブンスター、イギリス葉巻に香港煙草
紫煙の渦の中にいても
なお
飽かずたゆまず紫煙を吐き、紫煙を吸う
が、
私は死なない 私は若いから死なない
悪人は若死にができない
しかし世間のガンである私がガンにならなくて何でこの世に正義があるだろうか
とはいえ
こんなにふてぶてしい私がガンやそこらで倒れるはずがないではないか
アノヤロウ、アノヤロウ、と
奴等が怒っているのが、この窓からは見える
奴等は死ね
私は死なない

(詩集「ラッキー・ミーハー」1993年思潮社刊より)

  支倉隆子・井上・宮地智子支倉隆子・井上・宮地智子
 支倉隆子が真神博さんと読んだ「絲蔵」は情緒たっぷりの芝居を一つ見たような趣。 「KITSUNE (Ki-tsu-ne)」(J.MAYNE訳)は、画家で英語の先生でもある井上さんの、落ち着いた低い朗読を基調音にして、支倉隆子のしっとりした、かと思うとどすの利いた日本語の「きつね」が続く。宮地智子の流麗なフルートが重なる。ちょっとぞくぞくしました。

 真神博さんは自分の詩を暗記している人で、原稿を見ずに朗誦した。詩は短いから確かに覚えようと思えば出来るけど、わたしはとても自分の詩をそらんじる気になれない。賢治や中也や朔太郎なら暗唱できるけど。

日の出桟橋日の出桟橋からベイブリッジを見る
 さて、リーディングは二時間ほどで終わって、近くの日の出桟橋から船に乗り、浅草まで40分の隅田川くだりコース。涼しい夕方の風を楽しむのもつかの間、支倉さんと宮地さんとわたしは船内でさっそくビールである。浅草の居酒屋でアル中治療中の小文吾クンに酒を勧めるオネエ支倉に対し、敢然とコップを取り上げるママゴン阿賀。おっとりした風でいながら歯に衣着せぬ宮地智子と、プロ詩人としてのプライドをかけた支倉隆子との対決もあって、観客としては楽しめました。

さて、このアジトは秘密でも何でもなくて、月一回の集まりには誰でも訪ねていって詩を朗読できるスペースであった。思い切って出かけてみよう。大姉御たちは口は悪いは気は優しい。若い男など大歓迎である。安心して行ってらっしゃい。

ART SPACE & POETICAL SPACE 岡姫堂+3(の3乗)

日時 毎月第3日曜3:00pmより Poetry Reading
場所 東京都港区海岸2-6-33エクセルジオール502 tel.03-3457-1852
   JR線浜松町駅(南口)から徒歩8分 ゆりかもめ線日の出駅から徒歩2分
8月のみ14日(土)3:00pmから

8月14日は5:00PMぐらいからお台場で花火大会が行われる。アジトの屋上で花火見物というのはいかが? そのときはぜひとも阿賀猥の抱腹絶倒の詩人罵倒大花火を聴きたいものだ。


  

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