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vol.16

豊田俊博遺稿詩集『彗星』より 6

 

原っぱ


継ぎの当たったズボンをはいて
バッタを追いかけていると
トランクを提げた小父さんがやってきて
店を開いた
  
飛行機売りだ
人さらいみたいなハンチングを被っている
  
頭の上で腕を回すと
指先の紐が翼に結ばれていて
青空の下
飛行機は旋回を始める
  
「ハラッパからヨーロッパ」
売り声をかけながら
小父さんは腕を回し続ける
友達に混ざって見ていたが
誰も買わない
みんなは飽きて別の遊び場へ行ってしまった
  
僕ひとり草に座り
小父さんは何時までも腕を回し
飛行機は同じ空を飛ぶしかなかった
  
小父さんの足下に
赤まんまの花穂がたわんでいた



家族


満開の桜の下に僕を立たせ
父は買ったばかりのカメラのレンズを向けた
一緒に写ろうとして近寄る母を
僕は両手で押しのけた
  
シャッターは切られ
半ズボンをはいた僕が
睨むような目つきをしている
写真の端には
離れそこねた母の
片足だけが写っていた
  
今でも写真を見ることがある
母の靴底がひどく磨り減っている
  
小学校へ入学した日だった
明るすぎる陽射しを浴びて
父と母と僕が天体のように
離れながら引かれ合っている
あの写真の中にしか
家族はないのだ


「原っぱ」1993.3 「家族」1993.4 

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