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vol.16

豊田俊博遺稿詩集『彗星』より 7

 

深まる秋


母のまねをして擦ったマッチの火が
障子に燃え移った
素手で消そうとする
大人たちの慌てぶりに驚いた
自分の犯した罰から広がってゆく
お祭りのような華やぎ
マッチハコドモノテノトドカナイトコロヘ
僕は言葉を理解したが
罰せられることはなかった
あの火の色から前
何も思い出せない
  
生まれたばかりの僕を
擦れ違うように死んだ祖父が
じっと見つめていたという
結核なので僕を抱けなかった
寝巻を着て床に伏していた祖父
記憶にはないはずのその光景が
思い浮かんでくる
  
古畳の部屋に
傾いた陽が差し込んでいる
祖父と僕は
襖一枚に仕切られ
仰向けに蒲団から首を出し
目を瞑っている
ひんやりとした風が額を撫でる
半分 口を開いて
一人は眠っている
一人は死んでいる



「深まる秋」1993.7

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