vol.17
雨季
関 富士子
固い子房が |
赤らむと |
桜の実は |
ぱらぱら落ちる |
杏の実も |
黄色くなると |
ぽとぽと転がる |
小道に |
雨が降りつづく |
李の実も |
甘酸っぱくにおって |
落ちてくる |
小道の苔は |
水をたっぷり |
吸っている |
桜や |
杏や |
李の実がいっぱい |
散らばって |
通れない |
枝にいるキジバト |
翼の付け根にくちばしを入れて |
白い柔毛を |
あんなに抜いてしまって |
虫がいるのだろうか |
小道は川のなかのように |
水浸しだ |
向こうまで |
青くゆがんで見える |
頭上から |
たえまなく落ちる |
桜や |
杏や |
李の実 |
泳ぐかたちで |
足を踏み出す |
ぐしょぬれの靴は |
ずるずる滑る |
薄い靴底に |
桜や |
杏や |
李の実がつぶれて |
固い種が土踏まずを |
痛くする |
地面にめりこむ |
桜の種は小さい |
杏の種は中くらい |
李の種は大きい |
薄い皮と |
果肉が崩れて |
腐りかけたにおいに |
酔ったみたい |
仰向けに滑って |
幹にすがりつく |
樹皮から水がしたたって |
髪の先まで濡れるのに |
喉はからから |
幹を抱きしめて |
水を吸う |
桜や |
杏や |
李の実に打たれて |
交わりたい |
桜の幹はすべすべ |
杏の幹はざらざら |
李の幹はでこぼこ |
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<詩>雨の街(布村浩一)