
vol.28
かおりの重さ
土のかたち
愛のしるし
かおりの重さ
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| 店で空のダンボール箱をもらって
| 抱えて歩くと
| 鼻先にりんごのかおりが漂う
| JA津軽平賀ふじりんご36個
| りんごはこの箱に入れられて
| スーパーに運ばれ小分けにされて店頭に並び
| 客に買われて食卓で剥かれただろう
| しゃりしゃり
| 口のなかを北の国の冷たい風が吹いたか
| 空になった箱は折りたたまれて
| わたしが家まで運んでいく
| りんごが残した見えない物質はやや重い
| 深く吸いこんで裕福にふくらんだ胸のあたりで
| 棚から本を下ろして受けとめる
| 古ぼけて埃くさいけれど大事なものたちを
| 少しだけ移動させるために
| 箱に入れる
| 残り香がページに移るように
| きちんとふたをして
部屋の隅に重ねる |
紙版「rain tree」no.28 2004.2.22発行より
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<詩>土のかたち(関富士子)
土のかたち
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| 赤いトラクターが路地を行く
| 地響きを立てて
| プールから上がった選手のように輝いて
| 湿った土のにおいをふりまく
| 川向こうの畑を耕してきたばかりだ
| ハンドルを握る髭づらの男は
| 得意げに顎をやや上に向けている
| 前面に取り付けられた巨大な鋤
| トラクターは行ってしまう
| 路地に真新しい黒土がこぼれている
| 太いタイヤのすべり止めの溝にめりこんだ畑の土だ
| かぎ型模様をくっきりと象ったまま
| それはミニチュアの畑のようだ
| 川とその両岸にひらけた土地の起伏を表す精巧な模型から
| かちりと外された畑のパーツ
| 段丘の片隅のかぎ型の土地で
| 土は天地を返されて湿った黒を日にさらされ
| いちめんに湯気を立てる
| 子鬼が落とした赤い角のような
| 穫り残しのニンジンが散らばっている
| かぎ型に耕された新しい畝に
| やがて種が蒔かれる
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紙版「rain tree」no.28 2004.2.22発行より
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<詩>愛のしるし(関富士子)
<詩>かおりの重さ(関富士子)
愛のしるし
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| 12月13日未明に
| タロウは永眠いたしました
| 享年23
| 生前かわいがってくださった皆様
| 有難うございました
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| 工場の犬が死んで
| 小屋のまわりは花束が絶えない
| タロウという名も年齢も知らなかったが
| 毎晩散歩の途中で立ち寄ると
| あばらが鳴るほどやせこけていたが
| よろけながら立ちあがって
| 見えない目をむき出す
| 鼻を寄せてみるとだらしなくおしっこをもらす
| わたしに気があるようなので
| まだ死なないと思っていた
| タロウのにおいは洗い流されて
| 花束は絶えない
| 散歩仲間の飼い主が持ってくる
| においがないのはがまんならない
| 毎晩花束におしっこをかける
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紙版「rain tree」no.28 2004.2.22発行より
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<詩>欠片を踏んで(関富士子)
<詩>土のかたち(関富士子)