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                心を癒す7つの習慣 5.先人の声を聞く

 5.先人の声を聞く

 1.ソクラテスもプラトンも悩んで大きくなった?
 むかし、「ソクラテスもプラトンも、みんな悩んで大きくなった」という、野坂昭如の歌が流行したことがあった。たしかお酒のコマーシャルだったと思う。
 心を癒すには、「外部」からの新鮮な風がぜひとも必要である。外部というのは、自分以外の人からの影響ということになる。
 心に傷があって思い悩んでいる人は、ひとり自分だけの頭のなかで「ああでもない、こうでもない」と、堂々巡りを繰り返している場合が多い。けれども、心を癒し現状を打開するには、違ったものの見方、新鮮な発想や考え方が必要なのだ。
 そのためには、だれか他の人との交際(当然それは、前向きな考え方の持ち主でなければならない)を通してよい影響を受けるとよい。その必要性はすでに他の項目で触れた通りである。
 しかしながら、そのような人がすぐに見つかるとは限らないので、そのためにお勧めしたいのが、過去の先人、偉人や聖人といった人たちの伝記や、彼らが残した言葉や著作などを学ぶ習慣をもつことなのである。

 2.先人たちはいかにして苦悩を克服したか
 彼らとて人間である。いくら偉いといっても、自分と同じような悩みや苦しみを経験していたことがわかる。というより、そのような苦悩を経てきたからこそ、彼らは偉人と呼ばれるようになったのだ。まさに、ソクラテスにしてもプラトンにしても、ニーチェやサルトルも、みんな悩んで大きくなった♪わけである。
 しかし、彼らはただむやみに悩み苦しんだのではない。大切なのは、それをどのように受け止め、どのようにすばらしいステップへのチャンスとしたかである。それを学ぶことに、心の癒しへの偉大なヒントが隠されている。何といっても、彼らは架空の存在ではなく、実在していたということが心強い。時代は異なっても、人間の苦悩の質はそう変わっていない。彼らの受けた苦しみと、そこからの打開策は、現在に生きる私たちにとってなお、活き活きとした教訓を与えてくれるだろう。
 そして、彼らが教えてくれるもっとすばらしい教訓は、「逆境のなかにこそ、すばらしい発展のチャンスがある」ということだろう。
 そこで、次のようなパラドックスが生じる理由も理解できるだろう。すなわち、自分は成功し幸福になるという信念をもって努力しているのに、まるでそれをあざ笑うかのように、困難や失敗や不運や挫折が起きる傾向があるという事実である。

 3.成功のためにあえて失敗することがある
 潜在意識は、信念の通りに運命を形成する強い力を秘めている。成功を確信してそのビジョンに溢れているのなら、その通り成功の実現に向けて自動的に作動する。なのに、なぜ失敗や挫折や苦境が訪れるのか?
 その理由が、「逆境の中に存在するチャンスをつかむため」なのである。ベートーベンの願望はすばらしい音楽の創造であった。なのに、音楽家にとって致命的ともいえる「難聴」になってしまった。表面的な現象だけを見るならば、これは何という悲しい皮肉であり、逆境であろうか。「おまえなど、音楽家になる資格はない」とでもいわれているようではないか。
 だが、そうではないのだ。彼こそ偉大な音楽家になる資格があるがゆえに、潜在意識は、自らこうした逆境に飛び込んでいったのである。そうして彼は、その苦悩によって第五交響曲、そして人類最高の遺産といわれる第九交響曲を作曲したのである。もしも彼が難聴にならなかったら、こうした名曲は生まれなかったであろう。そこそこの作曲家にはなったであろうが、私たちは、あの魂を揺さぶる偉大な恩恵を失ったことになるのだ。彼は逆境の中からチャンスをつかんだのである。

 4.チャンスをつかむために逆境が訪れる
 このような例は他にいくらだってあげることができる。チャイコフスキーは不幸な結婚が、ベルリオーズは不幸な恋愛がなければ、『悲愴』や『幻想』は生まれなかった。ヘレンケラーは、あの三重苦を受け、その意識を内面に向けなかったら、あれほどの精神的深みのある思想と社会活動は生まれなかった。O・ヘンリーは犯罪を犯して過酷な牢獄生活がなければ、あれほど人の心を敏感に描写した文芸作品は書けなかったであろう。アメリカの偉大な思想家エマソンは愛妻の死によって宗教的境地が開かれ、心理学者のジェイムズや作家のヘッセはうつ病に苦しみ、その経験から偉大な思想と文学が生まれた。エジソンは小学校低学年で「低脳」と決めつけられて退学。だが、杓子定規の学校教育を受けなかったことで、あのような自由な発明の発想力を得ることができたといえる。手足を失った中村久子などは、そのハンデを見事に肯定的に活かした。
 人生とは、二律背反的な糸で編まれているように思われる。それは私たちにとって、しばしば皮肉や不条理のように見えることもある。だが、苦しみと逆境のなかにこそ、偉大な成功と幸福へのチャンスが存在していることを、先人たちは教えてくれる。潜在意識はそのことを知っているがゆえに、あえて苦しみと逆境のなかに飛び込んでいくのである。

 5.先人の教えを聴いて苦境を乗り越えよう
 したがって、もしもあなたが、自分だけの利益ではなく、人や社会の利益にもつながるような高い目標を抱いて努力していて苦境に陥ったら、それはうまく物事が進行している証拠だと思って喜んでもいいのだと思う。それは試練であって、試練であれば必ず乗り越えられる。そして、その試練の期間を励ましてくれるのが、先人の残した言葉であり、生きざまなのだ。
 それから、もうひとつ、こうして先人の教えに耳を傾けることの意義がある。それは、先人の残した言葉や本などに意識を集中していると、先人たちの「魂」というか、時空を越えた彼らの「意識」と直接的なつながりが生まれ、英知に満ちたすばらしいアドバイスが直感的に与えられるというものだ。これは、にわかに信じがたいことかもしれないが、私は事実あり得ると思っている。
 このことは「3.祈る」の項目と関連するのだが、自分の敬愛する偉人と内面を通して話しかけるのである。そして悩みの相談を打ち明けるのだ。すると、自分の「頭」の中にあるとは思えないアイデアやアドバイスが与えられることがある。文字通り、それは外部から“与えられた”のである。
 先人の「声」を聴こう。

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