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飲茶店「クレオール」考 <悼む・寺門仁氏>
太陽のまだらな 夜明けの点滴が
甘く 残されている
小さな富士山はこの街にもあるが
つねに美貌であるって辛いものがあるはず
おおひとつらねの
歴史の服を ぱんぱんとはらってたたむとき
朝帰りの光線は ことさら すてき
わたしはそれを低いところから見ている
さて
場末ビルに恒例のゴミ缶二つ 屹立だ
それが店の合図で 海へ向いている
生き物はどれも必死に陰れたがったけれど
猫のみは咀嚼のタップを踏みつつ 椅子で
危い現われかたをするこの世へ
*
ながながし夜尾夜尾 などてかもねむか
わたしのいのちが猫の中核のハンモックで
粗粗しい方舟のごとく揉まれると
おうとつ
中国袖の少年が凹凸のテーブルへ
灰色粒子コーヒーを運んでくる
ペット
(夜通し喇叭の先端に
青い蝉がとりついていると細く訴えて)
店で中断している クネクネ通りよ
置き忘れのボロ洋車のかげで
大柳の葉はふり乱れ そこから
ネグリジェの少女が前をひらいたような
き め
新鮮な不幸の肌理がかすんで過ぎた
(シンガポール迄 来ているタイフーン)
店員たちが瞬間かたまった
ラジオへの愛
電源の ごく薄い枯れかた
わたしはそれを低いところから感じている
(*あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜を独りかも寝む)
(gui no.52より 1997年)