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vol.6 「gui詩gui詩」 Poetry Reading
南川 優子
注射器
苦しみの処理法は 幼いうちに
しっかりと身につけました
たとえば
治療という正当な理由のもとに
注射器をつきつけられるとします
そんなときはすぐさま
自分の腕を瀬戸物にして
ガラス戸に入れ 眺めるのです
あとは
洗濯のりに固められた看護婦の四肢と
医師の鼻孔に心を据えるのです
すると
脱脂綿の儀式のあとに
針のひとさしが
賞状のように授与される
かくして
絵画になった自分の姿と
日だまりのように訪れる復活を
目の奥に見るとき
キリストは
動脈を貫く頑なな釘に
生の確かさを感じたのでした
この方法を利用すると 突き飛ばされそうな想いは 前もって
在りし日の物語となり
無気力が我慢強さとして
ほめ讃えられる
けれどもときどき思うのです
体外に放りきれなかった苦しみが
赤いまなこで襲ってくるとき
鈴虫が鳴く程度でよいから
痛みを小出しにしていれば
その体積がしなびたのではないかと
(未発表)
喫茶店で
ま四角なテーブルの対角線の交点に
コーヒーカップを座らせてみた
それは 眠たそうなすき間に
とりあえず生えてくる
夏の草花のように 見えた
「きみは今なにを考えているの?」
きのうの夢のなかのあなたが
わたしの目の前で
じっとり汗をかいている
「今週何か変わったことあった?」
職場でのささいなセクハラや
久しぶりに会った友人の体型を
無造作に
テーブルの上にばらまいてみる
それを あなたは わたしだと 思う
テーブルは無言のまま
あなたの実用的な好奇心に
埋め尽くされてゆく
いっそ指紋をべたべたつけて
わたし自身のテーブルにしてしまいたい
「きみの本当の気持ちを 聞かせてほしいんだけど」
猫の おなかの あの やわらかいぶぶんが
胸にこみあげてきて
返事さえできない
(未発表)
芋づる詩 十二編
朗読 南川優子 朗読はrealPlayer5で聴くことができます。download
雨が降る ソファに雨が降る
体はわせてヒトデがぬぐう
一仕事終えたとため息つくと
お嬢様はお婆さまに変わってた
★
店の前をふさがないでくださいっ!
UFOは着陸目前
群がる観客 客寄せの好機
なのに猿の店長は 血圧上げて顔真っ赤
★
ライオンどんぶりいっちょう
酔っぱらいおやじ気炎を吐く
楊枝の先からいでたるは
奥歯につまった流れ弾
★
雨戸だぜ 雨戸なの
今日からふたりはお向かいさん
わたくしヤです あなたなんかと
ちくしょう、こうなりゃブチ当たるしかない
★
人間引き際が肝心です
磯辺に浸透する教訓
カニのコーラスグループも
幕開け前にひきあげた
★
きみの胸は
予定外収入のように大きい
銀行に預けてもいいかな
5%増しは保証するよ
★
地震の揺れをアレンジして
ジャズのリズムにのせてみました。
サックス持って舞台にのぼれば
メンバーvol.6も聴衆もがれきの下
★
あたしはプラクティカルな女
ゆで卵を産むめんどりです
奥様の手間を省くため
目玉焼き産もうと企画してるの
★
なすびのへたから
蛍光灯が香る
におい消しにはらっきょうが最適
今日も調理場 ゼロ・アンペア
★
ミツバチ女王のお産部屋
おれの子供だ 一目会わせろ
使い古しには会いたくないの
関係者のみ立入禁止
★
ハワイのとある島
ひなびた温泉町
今日はマグマの吹き出しが激しい
入浴はひかえたほうが良さそうですね
★
汗だくで並べた馬と月
名句はいっこう浮かばない
体力にまったく自信がなし
僕もう詩人は廃業です!
「gui」no.44 1995年南川 優子(みなみかわ ゆうこ)
guiに参加して早くも五年。詩人がどんな人達なのか未だによくわかりません。私はお腹がいっぱいになって眠たくなる頃詩句を思いつきます。
作品が、rain ree vol.8gui20周年フェスタ 南川優子にあります。
南川さんのホームページができました。そふと 新作詩。第一詩集「ポフウェル氏の生活」の紹介もあります。
四釜裕子 ルリユールの話/詩「傾向」
青木栄瞳「夏の少女とバランス感覚」「(LESSON1)産卵」
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