野詩趣
ペンペングサ
一つずつ 丁寧にひきよせたつもりでした あなたを
耳元で鳴ったのは 空耳でしょうか
きき耳をたて 無口になった 雪兎に
ぺんぺん草よ 恋を ささやかないで
オオイヌノフグリ
出逢った時の
青ざめて 小さくなった 野辺の心をごらんなさい
風がそよぐだけで 恋しくて
小刻みに ふるえています
レンゲ
田んぼ一面 薄桃や紫に染め 菜の花畑と色を連ね
春の野山を 霞がとかしていきました
沙を拡げた一時 季節の色調は
忘れたくはないのに 忘れたい あなたの面影と似ています
オドリコソウ
いつからか 唇形の花が寄りそって
原っぱのすみずみを揺らします
アロンジェのポーズに キッスの雫がかかり
苦おしく舞う 妖精たち
シロツメグサ
摘みとってしまった 恋しい香を編んで
光のてのひらに返しましょう
傷みを覚えた人の胸は いつか
赤詰草に 咲き変わるでしょう
ホタルブクロ
あなたへの想いが ふくらみすぎて 恥ずかしく
顔もあげられませんでした
炎を包んで
うなだれて
隠し通したい 恋なのでしょうか
ネジバナ
そっぽを向いたまま
ねじれにねじれた 想いをどうしたらよいのでしょう
螺旋の悩みは 末端まで 咲かせられるでしょうか
文字ずりともいうのなら 捩っても伝えたい 異言語のあなたへ
ニガナ
苦い乳汁を巡らせた体内で 人知れず花を咲かせることは
誇りでしょうか
罪でしょうか
虫くい葉をそよがせ 黄ばんできた 私の誕生花よ
ツユクサ
にぎりしめたまま 消えた
朝露の まなざしを想うでしょう
あざやかな
それでいてはにかんだ 秋空に 出合うと
アカマンマ
おどけたような名が
誰をも幼な子にもどし
なつかしい人を 呼びたくさせます
自分を励まし 赤く赤く つながっていく 胸の奥の拳
ミゾソバ
湿地帯に生えた 涙の粒ではないでしょうか
あなたが見つめなくても
あなたを想う花の粒が 湿り気を払い
咲き広がっていきます
ノジギク
寒々しい崖で
命をつなぐのはなぜですか
雪を待つように 異国を見つめるように
白い身を 波風に 差し出してまで
かざりばね
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ふくろうの飾り羽を |
耳かとばかり・・・ |
わすれな草 |
ライラックも |
名こそ知れど・・・ |
あなたの年齢や国籍 FAX |
既婚の有無など |
知りたかったのではないのですが・・・ |
たとえば |
樹木や草花 |
曲の旋律や香りのどこかに |
気配を感じたかっただけで・・・ |
妖精であるかのように |
羽を忘れ(ライラック) |
筏に乗れるかのように |
水辺を恋し(カタツムリ) |
ふくろうの耳を疑わなかった頃 |
一人が少女だったこと |
もう一人が少年だったことを |
ほんとうの耳を図鑑で認めた瞬間の |
あの発見をしたかったのかも・・・ |
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「私はあなたのまなざしの海から誕生したヴィーナスである」 |
などと詩の一行を閃かせ |
「水の泡にすぎなかった私が |
成人した女性の肉体をもち |
空中に湧きあがったのだ」などと詩行を重ねてみたくて |
「あなたとはほほえみをかわさなければ |
自分の存在さえ気付かなかった |
二人で黄泉の国をさまよった日があったような |
不可思議なほほえみ あなたが私に与えたまなざしの魔力」と |
際限もなく語ってみたかったのです |
ふくろうは聞いたでしょうか |
あのかすかな見えないほどの耳で |
枯れ葉が日をめくる音 |
赤く黄色く茶色に想い出を染めかえた音 |
枯れ葉が奏でるのは幻の曲をききとる一瞬ずつの連続 |
ふくろうの飾り羽は |
私のつぶやきの泡を聞いたふりする粋な耳 |
耳ではなくても飾り耳であり |
耳ではないme身なのでした |
向かって右から高橋昭八郎・森原智子・吉田仁・岡崎英生・山中真知子
山中 真知子(やまなかまちこ) 1981年第一詩集「どうぞあの初めのアリアを」ワニプロ。思い返せばguiに15年間もおじゃまさせていただいておりました。その間、結婚・出産・退職など経験したはずですが、ちっとも詩作に生かされず、相変わらずで、お恥ずかしく、皆様、おゆるし下さい!!
作品が、rain ree vol.6 gui詩gui詩にあります。
D.W.ライト 三つの詩南川優子「独り歩き」「キモチ」"gui20周年フェスタ"もくじ "rain tree" バックナンバーvol.8もくじへ"rain tree" 表紙へ"rain tree"もくじへふろくへ
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