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vol.8
 gui20周年フェスタ Poetry Reading 

山中 真知子






野詩趣



ペンペングサ
一つずつ 丁寧にひきよせたつもりでした あなたを
耳元で鳴ったのは 空耳でしょうか
きき耳をたて 無口になった 雪兎に
ぺんぺん草よ 恋を ささやかないで

オオイヌノフグリ
出逢った時の
青ざめて 小さくなった 野辺の心をごらんなさい
風がそよぐだけで 恋しくて
小刻みに ふるえています

レンゲ
田んぼ一面 薄桃や紫に染め 菜の花畑と色を連ね
春の野山を 霞がとかしていきました
沙を拡げた一時 季節の色調は
忘れたくはないのに 忘れたい あなたの面影と似ています

オドリコソウ
いつからか 唇形の花が寄りそって
原っぱのすみずみを揺らします
アロンジェのポーズに キッスの雫がかかり
苦おしく舞う 妖精たち

シロツメグサ
摘みとってしまった 恋しい香を編んで
光のてのひらに返しましょう
傷みを覚えた人の胸は いつか
赤詰草に 咲き変わるでしょう

ホタルブクロ
あなたへの想いが ふくらみすぎて 恥ずかしく
顔もあげられませんでした
炎を包んで
うなだれて
隠し通したい 恋なのでしょうか

ネジバナ
そっぽを向いたまま
ねじれにねじれた 想いをどうしたらよいのでしょう
螺旋の悩みは 末端まで 咲かせられるでしょうか
文字ずりともいうのなら 捩っても伝えたい 異言語のあなたへ

ニガナ
苦い乳汁を巡らせた体内で 人知れず花を咲かせることは
誇りでしょうか
罪でしょうか
虫くい葉をそよがせ 黄ばんできた 私の誕生花よ

ツユクサ
にぎりしめたまま 消えた
朝露の まなざしを想うでしょう
あざやかな
それでいてはにかんだ 秋空に 出合うと

アカマンマ
おどけたような名が
誰をも幼な子にもどし
なつかしい人を 呼びたくさせます
自分を励まし 赤く赤く つながっていく 胸の奥の拳

ミゾソバ
湿地帯に生えた 涙の粒ではないでしょうか
あなたが見つめなくても
あなたを想う花の粒が 湿り気を払い
咲き広がっていきます

ノジギク
寒々しい崖で
命をつなぐのはなぜですか
雪を待つように 異国を見つめるように
白い身を 波風に 差し出してまで



かざりばね

  
ふくろうの飾り羽を
耳かとばかり・・・
わすれな草
ライラックも
名こそ知れど・・・
あなたの年齢や国籍 FAX
既婚の有無など
知りたかったのではないのですが・・・
たとえば
樹木や草花
曲の旋律や香りのどこかに
気配を感じたかっただけで・・・
妖精であるかのように
羽を忘れ(ライラック)
筏に乗れるかのように
水辺を恋し(カタツムリ)
ふくろうの耳を疑わなかった頃
一人が少女だったこと
もう一人が少年だったことを
ほんとうの耳を図鑑で認めた瞬間の
あの発見をしたかったのかも・・・
  
「私はあなたのまなざしの海から誕生したヴィーナスである」
などと詩の一行を閃かせ
「水の泡にすぎなかった私が
 成人した女性の肉体をもち
 空中に湧きあがったのだ」などと詩行を重ねてみたくて
「あなたとはほほえみをかわさなければ
 自分の存在さえ気付かなかった
 二人で黄泉の国をさまよった日があったような
 不可思議なほほえみ あなたが私に与えたまなざしの魔力」と
際限もなく語ってみたかったのです
ふくろうは聞いたでしょうか
あのかすかな見えないほどの耳で
枯れ葉が日をめくる音
赤く黄色く茶色に想い出を染めかえた音
枯れ葉が奏でるのは幻の曲をききとる一瞬ずつの連続
ふくろうの飾り羽は
私のつぶやきの泡を聞いたふりする粋な耳
耳ではなくても飾り耳であり
耳ではないme身なのでした

向かって右から高橋昭八郎・森原智子・吉田仁・岡崎英生・山中真知子

山中 真知子(やまなかまちこ)  1981年第一詩集「どうぞあの初めのアリアを」ワニプロ。思い返せばguiに15年間もおじゃまさせていただいておりました。その間、結婚・出産・退職など経験したはずですが、ちっとも詩作に生かされず、相変わらずで、お恥ずかしく、皆様、おゆるし下さい!!

 作品が、rain ree vol.6 gui詩gui詩にあります。
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