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vol.8
 gui20周年フェスタ Poetry Reading 

D.W.ライト



今アンソロジーを作ってる。沢崎順之助さんと、江田孝臣さんと、森邦夫さんと四人で。今読みたい三篇はそのアンソロジーからとったんです。わたしの日本語でわからないかもしれないと思うから、プリントを作った。発音がおかしくてもわかるように。










ロバート・ダンカン Robert Duncan
森邦夫訳



根と枝 Roots and Branches


   あるいは上昇しあるいは下降する、モナークよ、飛べ。
おまえは春の華やかな市場のオレンジ色の商人だ。
三月の使者は便りを運ぶ暖かい気流に乗って
   香りの領域へとひらひらと飛んで
眼に見えない感覚の根と枝を大気のなかに描き出す。
   ぼくは心ではその感覚を共有する。
細い糸が織られ、解きほぐされるその世界が
   ありふれているが確かなものに、光をあてるのかもしれない。
  
   今朝のおまえのふるまいには ぼくの本質の反響がある。
おまえは何と完璧にぼくの精神を実現しているのか。
   一心でいて軽やかな
豊穣なモナークよ、おまえは飛びまわることで
   諸法則のもとにある全生命の
想像の樹木を、ほとんど完全によみがえらせてくれ、
ものの内面を見る喜びを目覚めさせてくれる。
 (注)モナーク(Monarch)は黒とオレンジ色に白い斑点の入った蝶。北米原産で、秋にメキシコまで渡る。







ジャック・ギルバート Jack Gilbert
訳・沢崎順之助




覆われたものを覆うもの The Container For the Thing Contained



男は、女のブラウスの奥になにを捜しているのだろう。
男は、この七年女のからだのそばにいながら
いまなお女のすらりとした脚の曲線に
驚いている。いまなお女の背骨を
念入りに熱心になぞっていって、
骨盤帯に辿りつくとその骨を探っている。
女の肌は、上体を前後に動かして眺めると、
陽光に輝いたり翳ったりする。晩年の版画で、
グロテスクな画家として描かれているピカソは、
ベッドで股をひろげている若いスペイン女を
じっと見つめており、女の脇に黒服を着た
付き添いの老女がいる。ピカソは六十年毎日
はだかを見てきていながら、いまなおそこになにを
見つけようというのだろう。それでもなおピカソは
その遠い、遠い光の断崖に近づくことが嬉しかったのだ。
二階の奥の部屋でそっと弾かれるピアノの曲に似ている。
その音楽はごく身近に思われながら、実はそうではない。






ポール・ブラックバーン Paul Blackburn
訳・森邦夫

儀式 Ritual


           「フィエスタは
              事件を祝うのではない
              事件を再現するのだ」
            時間はこのように姿を現す ・
  
町の通りを巡るキャンドルを持った行列 ・・
小さな炎を守るために手を持ち上げてまるめる
          永遠の仕草は
          そのゆっくりとした
          歩みに似つかわしい
本通りに沿って教会から二つ目の店に向かい
               それから左に曲がり
               坂を下って
     カンの泉のそばを通り下って
     もっと低い通りに向かい
     さらに低い家々へと下る ・
通りはゆるやかに上って街道に入り
カフェ
仕立て屋
      階段
          商店と続く
              白いシャツに黒いスーツの
男たちの行列、黒い
衣服、黒いショール、ヴェールの女たちの行列
うつむいて ・ 自分たちの足の動きを見ながら
         ゆっくりと ・ ゆっくりと ・ ア・
             ヴェ ア・ヴェ
             アヴェ マ・リ・ア
             ア・ヴェ ア・ヴェ
             アヴェ マ・リ・ア
驚くべき率直さで
一人の女性旅行客が
女たちの行列の最後尾に加わり ・ 唐突に
旅行者の角張った姿が
     ロザリオの代わりに白い
      ハンドバッグを持って ・ 人目をひいた
  
そのドイツの文化人類学者は
               どんなに
自分が異様に見えるかわかっていただろうに、ただ 彼女は
行列の最後尾に、なりふりかまわず、自分を加えたのだ
  
わたしは
夜明けの光のなかに 半ば眠った
恋人をのこしたまま
            木曜ごとに
            子牛を殺して
            肉を食べる
                     四時半にバスで郵便が届き
                     五時にミルクが届く
白いハンドバッグを持ったドイツ人女性 ・
地上の諸民族の永遠の行事の最後尾 ・



向かって右から、吉田仁、小中陽太郎、山口真理子、ライト、国峰照子、遠藤瓔子、徳弘康代

D.W.ライト 作品と紹介が、rain ree vol.6 gui詩gui詩にあります。
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