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 歌仙ってなあに? 11  天女・解酲子・芥子

天女から解酲子へ  99.10.16

前略 
十月というのにこの暑さ、地球はいったいどうなってしまったのでしょう。
さて昨日、渋谷の観世能楽堂への道々、あの下着姿でポックリ沓の女の子たちがのろのろと歩き、私はと言へば彼女たちをかき分けながら身をよじり、飛ぶような気持ちでたどり着いたのでした。普通なら駅を出て十分足らずなのに、二十分近くもかかって。
 そして、能を観ながら・・・あの子たち、何か似ているなア、夏雲雀に、と。

A,揃いの沓で道中でござる    天
B,遠流の人の歌を思へば     天

 これは前句を承けての本歌どり(とは言わない?)ですが。(うらうらにてれる春日に雲雀上り情(こころ)かなしもひとりし思へば 家持)
 飛べない雲雀と、家持の身の上を重ねた、私にしてはすっと素直に出てきた付句です。というようなことで。ご判断ください。



解酲子から天女へ 1999.10.16

前略 付句拝受いたしました。人という言葉が差し合いになるので「卿」に置き換えましたが、むろん句の姿としては元のほうが抜群に優れています。それにしても、帰去来の句といい、今回のツケといい、このところの天女さんの格調の高さには目を瞠るものがありますね。書や観能、それに焼き物といった「正しき老後」の造詣のしからしむるところでもありましょうか。天女さんの次の番では「秋近きこころ」を詠まれることとなると思います。では。匆々 99.10.16  解酲子
天女さま



解酲子から芥子へ 1999.10.16

前略 天女さんの付け句が来ましたので申し送ります。資料と膝送り表の句とでは違いがありますが(遠流の卿の歌を思へば)、ご覧のとおり、人が差し合いになるので天女さんの了解のもと、かくはいじった次第です。家持は名家の出ですが、官位という点からいえば比較的不遇で、越中守などの田舎回りなどをしたすえに、万葉集という偉大な仕事を成し遂げたほかは、現世的には家名を上げることもなく没した詩人であることはご承知のとおりです。その境涯と家持の代表的な歌とを夏雲雀に仮託した悲歌が天女さんの今回のツケで、個人的にはこううのが大好きです。

次の芥子さんの句、ちょっと注文をお願いしたいのですが、雑の句で少し滑稽の雰囲気があるもの、というのはどうでしょう。初折裏一句目の、ひきとめて、の句を読んで芥子さんにはけっこうそういった素質があるのではないかと思ったのです。もっとも、滑稽の句は手練れの連句詠みでも難しいものがあるので、ご無理のようでしたらそうでない句でもかまいません。では、よろしくお願いします。匆々 99.10.16  解酲子
芥子さま



 歌仙ってなあに? 10  天女・解酲子・芥子

天女から解酲子へ  99.9.21

前略 恋離れもなかなか出来かねて(?)、あれこれと数日考えていました。ありきたりですが、軽快に「スワニー」を弾いていた若い手指が、いつしか孫のセーターなどを編むような作業手になってしまった……と。
毛糸編む隠居暮しも身について
そろそろこの先、宗匠の人情あふれる句にお目にかかりたいものです。 天女  99.9.21
解酲子さま



解酲子から芥子へ 1999.9.21

前略 ヤボ用でばたばたしているうち、天女さんのが来ていたにもかかわらず、かくも遅くなってしまいました。申し訳ありません。資料に付け筋のことが書かれていますが、このような、前の句とは対照的な、反対のコト・モノを詠み込むようなツケを対付けといいます。
季はこの場合、三冬(初冬、仲冬、晩冬の全部に通じる冬)で、季語は「毛糸編む」です。冬と夏はこれ一句で捨ててもかまいませんが、最大三句まで続けることができます。わたしとしては冬はこれ一句で捨てて、雑の句を詠まれることをお勧めします。可能性としては夏の句でもよいのですが、冬の後に夏ではやはり遣りにくいのではないでしょうか。
では付け句、お待ちしております。匆々 99.9.21  解酲子
芥子さま



解酲子から芥子へ 1999.10.13

前略 拙句ツケに少し苦労しました。最初はおとなうモノ(庭の小皿を訪なふものあり)ということで、やや唐突に平家を討てとのご白河法皇の詔勅がやって来たという句をひねってみましたが、よく考えてヤメにして、このような句とはなった次第です(あはれさや人には寄らぬ夏雲雀)。やはり鳥は外せませんからね。付け筋は資料のとおりです。芥子さんの次の番では恐らく雑の句をお願いすることと思います。
ようやく秋らしくなってきました。今夜明日と、横浜の街で繰り広げられるジャズ祭に行ってくるつもりです。それでは。匆々 十月寒露  解酲子
芥子さま



解酲子から天女へ 1999.10.13

前略 毛糸編むにこのような二句がツキました。芥子さんの付け筋は、彼女も最近は隠居ぐらしのような日常が続いていて、娘さんがパリでお土産に買ってきた給餌筒を庭に出して小鳥を誘う生活を送っている、というような説明がありました。「女庭師」とでも呼びたい芥子さんらしい句だと思います。
対して拙句は、誘うものがあればそれを拒むものもいるということで、羽が抜け替わって天心で囀ることもしなくなった夏雲雀(練雲雀ともいいます。季は晩夏。)にあわれさを感じると同時に、警戒して人に近づかないそのさまにも一入の晩夏のあわれさを想っている、というところです。
天女さんの次のツケは雑、ないし晩夏か三夏でお願いしたいと思います。それでは。匆々 99.10.13  解酲子
天女さま



 歌仙ってなあに? 9  天女・解酲子・芥子

芥子から解酲子へ  1999.9.3

お電話ありがとうございました。「再会の声が野太い早生まれ」をお送りしましたが、「早生まれは」は季語にないので、ぜひ春の季語を入れるようにとの仰せですね。何となく「早生まれ」で春の感じが出るかと思っていたのですが、なるほどそういうことでしたか。不粋なもので手元に歳時記がないのですが、辞書の付録の季語一覧をめくってみましたら、「葱坊主」というのを見つけました。中学生の少年の青々した坊主刈りなど想像されて、なんだか愉快な気分です。
再会の声が野太い葱坊主」99.9.3 芥子
解酲子さま



解酲子から芥子へ 1999.9.5

前略 付け句拝受。美しいおみやげの葉書、ありがとうございました。いろいろとご無理をお願して申し訳ありません。
いただいた句は、葱坊主のところに俳があって、なかなかけっこうなものです。歳時記で見ますと、葱坊主に対して芥子坊主というのがあったので、思わずにやりとしてしまいました。
私のツケ(「こひうれしくて「スワニー」を弾く」)は、野太い声に呼び止められた女の側のときめきを詠んだ句で、これから先は実体験とは離れてゆきます。

恋の句はもつれがちになるんで、ガーシュインの明るい歌(ピアノ伴奏の)に助けを借りたことは資料にあるとおりです。女性である芥子さんが男の句を詠めば、男である解酲子は女の句を詠む、といった具合に、この運びがテレコの構造になっているというところにちょっとした遊びを入れたつもりです。では。匆々 99.9.5  解酲子
芥子さま



解酲子から天女へ 1999.9.5

前略 芥子さんからのツケが届きましたので、愚生のツケとともにお送りします。詳しい付け筋は芥子さんのほうから送られるのではないかと思いますが、この夏に彼女は郷里の福島に帰ったとのこと、そこでかつて「きゃしゃな首筋のきれいな少年だった」幼なじみに出会ったそうで、いまではすっかり野太い声のおじさんになったその彼に対して嬉しいやら恥ずかしいやら・・で、この句とあいなったわけだそうです。葱坊主にいがぐり頭の少年の面影を掠めたところに俳があると思います。

葱坊主の季は晩春で、この句は恋の句となります。私のツケはそれに対して、芥子さんの句が女の側から見た男の句であるとしたら、いわば男の側から見た女の句、ということになります。当然恋句です。恋の句はどうしても湿りがちになるので、思い切り明るいガーシュインの歌の助けを借りてみました。「スワニー」は昔、雪村いずみなどが歌っていましたね。もともとはピアノ伴奏の曲です。天女さんの次の句の季は夏ないし雑、こころああたりでひと運びぐらい冬季を入れてみてもいいかもしれません。恋の句でも当然かまいませんが、恋離れの句でもいいかと思います。ではよろしくお願いします。。匆々 99.9.5  解酲子
天女さま



 歌仙ってなあに? 8  天女・解酲子・芥子

解酲子から芥子へ 1999.8.5

前略 付け句(夜更けのメールながながと巻く)拝受。軸とくれば巻く、とは当意即妙ですね。例の「ながながし夜をひとりかも寝む」の面影もあるようです。やや字余りですが、それがかえって句の内容に沿っている点も見どころだと思います。なにか、別れを惜しんでいるかのようではありませんか。ただ、運びが夜や薄明をさまよっているみたいで、ここのところはちょっと一考を要します。ひとつ、次の花の座で天女さんにはなやかに裏切ってもらいましょう。芥子さんの次の番は名残折表第一句(これを折立(おったて)といいます、恋を仕掛けてきてもかまいませんよ。折りしも季は春です。では。匆々 99.8.5  解酲子
芥子さま



解酲子から天女へ 1999.8.5

前略 芥子さんのツケが届きましたので申し送ります。軸をマキモノと捉えたところに機知を感じます。ここのところ、夜や薄明の句が続いているので、(月の座をはさむところなのでいたしかたない面もあるのですが、)天女さんの花の座で大きく脱してください。座が花なので比較的容易ではないでしょうか。月の別れのあとには巡り合う春(花)もある、というところです。それでは。不乙  99.8.5  解酲子
天女さま



天女から解酲子へ  99.8.17

暑いですね。私は少々バテぎみです。例によってあれこれ考えすぎましたが、こんなところに落ち着きました。

夜更けのメールながながと巻く  芥子
1 花疲れ帯とく昼の憂ひかな 
  2 登り来て吉野の果ても花朧

1 花に酔い帰りきてとく花見帯、ああ、まだ日は高いのに。
軸を巻いて、また解いて、という流れは何となく重いのではないかと思うのですが。御判断ください。
2 下千本から中、上、奥へと登れども登れども花ざかり、奥千本のその先は、果てなき空の霞か雲か。長いメールが届くといいのですが・・・。   99.8.17 天女
解酲子さま



解酲子から天女へ 1999.8.20

前略 付け句拝受しました。二つあるなかで花朧のほうをいただきます。おっしゃるとおり、巻いてまた解くというのはいかにもモツレ気味であるのと、ここで憂いという言葉は避けたいからです(句の姿は天女さんらしい、とてもよいものなのですが)。

花朧のほうを採ったもっと積極的な理由というのは、この句で一挙に眺望が開ける感じがするからです。 ただし問題なのは、必ずしも連句の作法ではないのですが、古い連歌書などを読みますと花に吉野、紅葉に竜田を合わせてはならないという一条があることです。もっとも芭蕉七部集の「ひさご」には「花咲けば芳野あたりを欠け廻(かけまはり)」という曲水の句があったりするので一概には言えませんが、この場合も吉野を芳野と書き換えたりしているので、作者の頭の中には当然この作法が意識されていたと考えられます。

そこで、大変僭越ながら「吉野の果」を、吉野山の果てに広がる紀伊山地、別名「はてなし山」に変えさせていただきました。
登り来てはてなし山も花朧
ながながとしたメールは、果てではなく、果てしないところに届く、というわけです。対する私のツケ
春の仲居に心付けする
は、花を賞玩するあまり、吉野の宿の仲居さんにいつもより心付けをはずんでしまった、という花朧の余情ともいうべき遣句です。仲居も若やいで見えるということで、恋の呼び出しの句と言うべきかもしれません。それでは。匆々 99.8.20  解酲子
天女さま



解酲子から芥子へ 1999.8.20

前略 お待たせしてしまいました。天女さんの付け句と私のそれができましたので、お送りします。天女さんの句を不遜にも一か所変えてしまった理由は資料のとおりです。

天女さんの花の余情が吉野の宿の仲居さんに心付けをはずませる結果になったというのも、資料にあるとおりですが、春の女性が出てきたということで、ここで初めて恋の呼び出しということになりました。ちょっと仕掛けてやろうという気になったのです。これをまともにお受けになられるか、それともはぐらかしてしまうかは、御判断にまかせます。いずれにせよ、このあたり少し人事の句を挟みたいと思いました。季は春ということで、ではよろしくお願いします。匆々 99.8.20  解酲子
芥子さま



芥子から解酲子へ  1999.8.26

夏休みはいかがお過ごしでしたか。
わたしは墓参りなどもあって、ひさしぶりに故郷に帰りました。
古い知り合いにばったり出会ったりするとうれしいものですね。
その変わりように驚いたり、変わらなさに安心したり。
野太い大声で呼びかけてくるおじさんが、なつかしい幼なじみではずかしいやらうれしいやら。
かつてはうなじのきゃしゃな少年で、早生まれのせいかクラスメートよりひときわちびで、弟みたいに思っていたものでしたっけ。
その野太さも好もしく、恋でも仕掛けられたくなるではありませんか。
再会の声が野太い早生まれ
まあそんないいことはありませんでしたけれど、家族が自宅に帰るのを見送って、岩手や青森など東北の森を 歩きました。
まったくの一人旅は独身時代以来のことです。
でも少しも淋しくなくて、ゆったりと楽しい数日を過ごしました。  1999.8.26  芥子



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