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三井喬子の詩 |
黒い海岸
あらゆる細部まで 黒々と 濡れ 蹲る僧形であろうか 月光に震える岩礁海岸 嵌め込まれた太古の疑問形が 不意に岩塊を割って出る 明日はまだか 亀裂になだれこむ波が痛い…と 夜は小さな叫び声をあげる 間断なく
渚
波が寄せくるたびに崩落することを 失う と いうのであれば 得る というのは 残る(残される)ことと同じだろうか 渚の人よ 変貌しつつある海岸線の 引き 返す ゆるやかな斜面の 身をのりだした二枚貝に聞け というが わたしが聞きたいのは あなたの答えなのだ
なぎさ
「物語」の声がしなくなり 静止を強いられた画像またたいて 殺されるかもしれない と 逃げるのよ 何処へ 布団にもぐり壁とタンスの間隙に滑り込み いない わね 捕捉への道筋は粘液質の輝きを増し ありありと漂う 臭いの証拠 焼いた鰯の頭部とか 茹でた豚肉のアクだとか 腐ったメロンのわただとか 偏見に満ち満ちた骨牌をシーツの上に並べ 狙撃手は鼻を鳴らす 険悪な指先で痕跡をなぞり 何処だ
ナギサ
「物語」ハ イナクナッタ アラカジメ定メラレテイタヨウニ ぎゃあトモ言ワズ 消滅ノ際ノ立チ会イハ御免コウムル トハ 言ワナカッタガ人知レズ イタコトト イナカッタコトノ間ニハ 尻尾ノ影ガ アル 検証ヲ重ネテモ 固有ノ名前ガ噴キ出スワケハナイガ おるがすむすノ捩レハ 心ニモアラヌ言葉ヲ口走ラセ 尖ッタ虚構作品ヲウルマセタ 「物語」ノ痕跡ノ 行キ方知レズノ光跡ニ アソビツツ 消エヨ! 逆光ノ 渚ノ 独リ人
『青の地図』 1996.3.3 より *<>は原文では( )です。
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