原始の呼吸
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| 木立によって分けられた
| まぶしい光の条のなかに
| 躰がぐっぐっと埋まってゆく
| ふいに射し込む午後の陽射し
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| 「その時さぁ、考えてみたんだけど」
| あなたの声の続く中
| 急に眼を閉じて
| 壁を這う手のパントマイムを
| ふと思い出しながら
| どこかの海の中に射す
| 午後の陽射しを感じている
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| 「けれどもね、それは間違っている」
| コップに付いた水滴がツッーと流れ
| また喫茶店のテーブルに
| 水の輪を広げる
| 静かに時は動いている
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| 「きのう、そのことに気づいたんだけど」
| また眼を閉じて
| 濃いブルーと 光の条のなかに
| 微睡んでいる
| どこかの海の鯨のことを考える
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| 「それを話していいかしら」
| 大きな躰がゆっくりと揺れ
| 尾鰭が少しうごき
| 青い海底に音楽が流れ
| ゆるやかに満ちてゆく
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| 「目を開けなさいよ」
| (原始の呼吸がある
| そこに流れている)
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| 「まず、こう考えたの」
| 静かなパントマイムの壁の中で
| まぶしい光に包まれた
| 躰はそのまま
| 何ごともなかったように
| あなたの言葉を聞きながら
| またコーヒーを口に運び始める
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| 「目、開けてるね」
| (原始の呼吸がある
| 静かに流れている) |
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