| |
|
|
| 大きなキノコのスカスカの繊維の間を
|
| 風の子が ひとり スッと通り抜けてゆく
|
| 繊維の複雑なしなやかさが
|
| 風の子の頬に スッと残る
|
| そこから 細かい苔の林を吹き抜け
|
| 大きな岩のあるところで
|
| 近くからたくさん集まってきた
|
| 風の子たちと合流する
|
|
|
| 岩の上で舞いながら
|
| それぞれの冒険をひととき語り合い
|
| 風の子たちは
|
| そこから近くの大きな樹木に沿って
|
| いっせいに吹き上がり
|
| 梢のたくさんの葉を揺らし
|
| 上空へと舞い上がる
|
|
|
| その森は カナの森
|
| 大きな樹木から舞い上がる仲間達は
|
| グングンと上昇し
|
| 別の樹木から舞い上がってきた風の子たちと
|
| 空の中でワクワクしながら 待っている
|
|
|
| 「また仕事だよ」
|
| 「そうだね がんばろう」
|
| 「カナの森のすごさを示そう」
|
| 「今日はイルクの森の子たちも加わるようだよ」
|
| 「よし がんばろうね」
|
|
|
| カナの森と少し離れたイルクの森の
|
| たくさんの風の子たちは
|
| その上空に みんなサワサワと舞い上がり
|
| 高い空から二つの森を眺めながら 仕事に使う袋の仕度をして
|
| 遠くのサラク山からすごい早さでやってくる
|
| 風のオサたちの呼び声に 少し緊張して
|
| 一気にオサたちに融合する瞬間を待っている
|
|
|
| 二つの森が大きくざわめき
|
| 森の生き物たちは木陰にスッと身を寄せて
|
| 大きな風を見上げている
|
|
|
| 山頂にたくさんの大きな岩が座している
|
| サラク山の風のオサたちに導かれた
|
| 麓に広がるたくさんの森の風の子たちは
|
| 思いっきり頬を膨らまし 手をつなぎ合って
|
| 森の歌 空の歌を歌いながら
|
| オサたちの大きな手の中でグングン加速をつけてゆく
|
|
|
| 連なるひとつの尾根を越え 更なる尾根を越え
|
| 吹き行き 吹き渡り たくさんの連なる山を越え
|
| 丘を越え 野原を越え
|
| 谷を越え 小さな山の連なりを包み越え
|
| 森の連なりを包み越え 野原の連なりを越え
|
| そこに大きく広がる緑の田圃を全員でいっせいに吹き渡り
|
| それぞれに 瓦の屋根を吹き上がり 銀杏の木を吹き上がり
|
| モダンな屋根を吹き上がり 神社の階段を吹き上がり
|
| そのままスーとその上空へ全員が吹き渡り
|
| さらに広がり
|
| いろんな色の建物の上空を走りゆき
|
| お陽さんの陽をあびながら
|
| そこから遠くの海を見渡し
|
| すぐ下を見渡し
|
| 風のオサたちは大きく呼び合う
|
|
|
| 「さあ 今日はこの辺りをやりましょう」
|
| 下に広がる灰色の石の街 小さな生き物たちが
|
| サッと思わず見上げている
|
|
|
| 青空の光の粒に見守られ
|
| やって来た 無数の風の子たちは
|
| そこに漂う黒い塵や 薄い破片や
|
| 固く小さな何ものかを
|
| 素早く動いて ひとつひとつ拾っては
|
| 伸びる袋に詰め込んで
|
| せっせ、せっせと仕事を始める
|
|
|
| その下に広がる石の街からは
|
| ドンドンドンドン何かが上がり
|
| 風のオサたちも時間と共に次から次に仲間を呼び出し
|
| そこは大きな戦場だった
|
| カナの森の仲間たち イルクの森の仲間たち
|
| 素早く動き 黒いもの 銀のもの 透けるもの
|
| 真っ赤なもの 巻き込んだもの 変てこなものを
|
| 伸びる袋に放り込み
|
| 放り込んでも 下からはドンドンドンドン
|
| 汚い空気と 無数の塵らは吹き上がり
|
| カナの森 イルクの森の仲間たちは
|
| 少しずつ息が苦しくなっていく
|
| 肩から下げた伸びる袋は大きくふくれ
|
| ちょっと苦しく息を吐くと
|
| 風の子たちはスーと下に流れてしまう
|
| そこは大きな戦場だった
|
|
|
| 「オサ、オサ、サラク山のオサ、袋が一杯です」
|
| 「すぐに次の仲間に変わりなさい」
|
| 「オサ、オサ、サラク山のオサ、息が苦しくなりました」
|
| 「サラク山の火の子、水の子たちのもとに、袋を持って、すぐにお帰り」
|
|
|
| 小さなピューという高速音がゴウゴウという音の上に
|
| ひとつ抜け
|
| 一杯になった大きな袋を肩に背負い
|
| カナの森の風の子たちは 上空にゆるやかな逆風を作り
|
| サラク山へと戻ってゆく
|
|
|
| その中の少しの風の子たちは
|
| 闘い続ける風のオサの強い息吹に巻き込まれ
|
| そのままスーと海まで運ばれ
|
| しっかりと肩にかかえた袋は離さずに
|
| そこから海風のオサの指示に従い
|
| 風の道を ひとりゆっくり帰ってくる
|
|
|
| 石の街に広がる 灰色の空気たち
|
| その上空からゴウゴウと強い風たちが
|
| 吹き込み 吹き渡り
|
| 風の子たちの素早い動きとともに
|
| ひとつの層がきれいになり
|
| 青空の光の粒がピッとそこにおりてゆく
|
| 一粒一粒 ピッ ピッとおりてゆく
|
|
|
| 戦い続けた
|
| 風の子たちの帰り道は遠く長く
|
| カナの森 イルクの森の生き物たちは
|
| 夜の中 もうすっかり眠っている
|
| たくさんの野原 谷 尾根を越え
|
| 大きな袋を肩に下げ カナの森の仲間たちは
|
| いつの間にか ひとつの緩やかな風となり
|
| ゆっくりとカナの森の上空に近づき
|
| さらにカナの森 斜め向こうのイルクの森の上を越えて
|
| サラク山の麓を目指す
|
| 空は夜明けの星空だ
|
|
|
| 風の子たちは
|
| それぞれに一杯の袋を肩から下ろし
|
| サラク山の 火の子 水の子たちに
|
| 大きく膨らんだ袋を渡している
|
| 夜明けの光が少しずつサラク山に差し始め
|
| そこから朝日の眩しい光の粒たちとともに
|
| 火の子 水の子たちの仕事が始まる
|
|
|
| 風の子たちは
|
| 大事な仕事をいっぱいこなし
|
| また ひとり ひとり
|
| 朝の気持ちのいい空気をたくさん吸いながら
|
| ひととき休み 草々の間や 柔らかい土の上を気ままに渡り
|
| 働き始めた アリたちの触覚にぶら下がったり
|
| かぶと虫の起こす 羽の風の中をスッと横切ったり
|
| 次のサラク山のオサたちの呼び声を
|
| カナの広い森の中で待ちながら
|
| のんびりと 小さな風になって
|
| 休み休み 吹いて行く
|
| カナの森の風の子たち
|