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vol.24
<詩>「植物地誌」レンゲソウ(関富士子)へ縦組み縦スクロール表示横組み縦スクロール表示

宗清 友宏 の新作詩3

横組みのみ



カナの森の風の子たち



  
  
大きなキノコのスカスカの繊維の間を
風の子が ひとり スッと通り抜けてゆく
繊維の複雑なしなやかさが
風の子の頬に スッと残る
そこから 細かい苔の林を吹き抜け
大きな岩のあるところで
近くからたくさん集まってきた
風の子たちと合流する
  
岩の上で舞いながら
それぞれの冒険をひととき語り合い
風の子たちは
そこから近くの大きな樹木に沿って
いっせいに吹き上がり
梢のたくさんの葉を揺らし
上空へと舞い上がる
  
その森は カナの森
大きな樹木から舞い上がる仲間達は
グングンと上昇し
別の樹木から舞い上がってきた風の子たちと
空の中でワクワクしながら 待っている
  
「また仕事だよ」
「そうだね がんばろう」
「カナの森のすごさを示そう」
「今日はイルクの森の子たちも加わるようだよ」
「よし がんばろうね」
  
カナの森と少し離れたイルクの森の
たくさんの風の子たちは
その上空に みんなサワサワと舞い上がり
高い空から二つの森を眺めながら 仕事に使う袋の仕度をして
遠くのサラク山からすごい早さでやってくる
風のオサたちの呼び声に 少し緊張して
一気にオサたちに融合する瞬間を待っている
  
二つの森が大きくざわめき
森の生き物たちは木陰にスッと身を寄せて
大きな風を見上げている
  
山頂にたくさんの大きな岩が座している
サラク山の風のオサたちに導かれた
麓に広がるたくさんの森の風の子たちは
思いっきり頬を膨らまし 手をつなぎ合って
森の歌 空の歌を歌いながら
オサたちの大きな手の中でグングン加速をつけてゆく
  
連なるひとつの尾根を越え 更なる尾根を越え
吹き行き 吹き渡り たくさんの連なる山を越え
丘を越え 野原を越え
谷を越え 小さな山の連なりを包み越え
森の連なりを包み越え 野原の連なりを越え
そこに大きく広がる緑の田圃を全員でいっせいに吹き渡り
それぞれに 瓦の屋根を吹き上がり 銀杏の木を吹き上がり
モダンな屋根を吹き上がり 神社の階段を吹き上がり
そのままスーとその上空へ全員が吹き渡り
さらに広がり
いろんな色の建物の上空を走りゆき
お陽さんの陽をあびながら
そこから遠くの海を見渡し
すぐ下を見渡し
風のオサたちは大きく呼び合う
  
「さあ 今日はこの辺りをやりましょう」
下に広がる灰色の石の街 小さな生き物たちが
サッと思わず見上げている
  
青空の光の粒に見守られ
やって来た 無数の風の子たちは
そこに漂う黒い塵や 薄い破片や
固く小さな何ものかを
素早く動いて ひとつひとつ拾っては
伸びる袋に詰め込んで
せっせ、せっせと仕事を始める
  
その下に広がる石の街からは
ドンドンドンドン何かが上がり
風のオサたちも時間と共に次から次に仲間を呼び出し
そこは大きな戦場だった
カナの森の仲間たち イルクの森の仲間たち
素早く動き 黒いもの 銀のもの 透けるもの
真っ赤なもの 巻き込んだもの 変てこなものを
伸びる袋に放り込み
放り込んでも 下からはドンドンドンドン
汚い空気と 無数の塵らは吹き上がり
カナの森 イルクの森の仲間たちは
少しずつ息が苦しくなっていく
肩から下げた伸びる袋は大きくふくれ
ちょっと苦しく息を吐くと 
風の子たちはスーと下に流れてしまう
そこは大きな戦場だった
  
「オサ、オサ、サラク山のオサ、袋が一杯です」
「すぐに次の仲間に変わりなさい」
「オサ、オサ、サラク山のオサ、息が苦しくなりました」
「サラク山の火の子、水の子たちのもとに、袋を持って、すぐにお帰り」
  
小さなピューという高速音がゴウゴウという音の上に
ひとつ抜け
一杯になった大きな袋を肩に背負い
カナの森の風の子たちは 上空にゆるやかな逆風を作り
サラク山へと戻ってゆく
  
その中の少しの風の子たちは
闘い続ける風のオサの強い息吹に巻き込まれ
そのままスーと海まで運ばれ
しっかりと肩にかかえた袋は離さずに
そこから海風のオサの指示に従い
風の道を ひとりゆっくり帰ってくる
  
石の街に広がる 灰色の空気たち
その上空からゴウゴウと強い風たちが
吹き込み 吹き渡り
風の子たちの素早い動きとともに
ひとつの層がきれいになり
青空の光の粒がピッとそこにおりてゆく
一粒一粒 ピッ ピッとおりてゆく
  
戦い続けた
風の子たちの帰り道は遠く長く
カナの森 イルクの森の生き物たちは
夜の中 もうすっかり眠っている
たくさんの野原 谷 尾根を越え
大きな袋を肩に下げ カナの森の仲間たちは
いつの間にか ひとつの緩やかな風となり
ゆっくりとカナの森の上空に近づき
さらにカナの森 斜め向こうのイルクの森の上を越えて
サラク山の麓を目指す
空は夜明けの星空だ
  
風の子たちは
それぞれに一杯の袋を肩から下ろし
サラク山の 火の子 水の子たちに
大きく膨らんだ袋を渡している
夜明けの光が少しずつサラク山に差し始め
そこから朝日の眩しい光の粒たちとともに
火の子 水の子たちの仕事が始まる
  
風の子たちは
大事な仕事をいっぱいこなし
また ひとり ひとり
朝の気持ちのいい空気をたくさん吸いながら
ひととき休み 草々の間や 柔らかい土の上を気ままに渡り
働き始めた アリたちの触覚にぶら下がったり
かぶと虫の起こす 羽の風の中をスッと横切ったり
次のサラク山のオサたちの呼び声を
カナの広い森の中で待ちながら
のんびりと 小さな風になって
休み休み 吹いて行く
カナの森の風の子たち
<詩>「カナの森の風の子たち」横組み表示のみ

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