魚の類――父へ
 
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 |  | 裏木戸を少し開けて
 |  | くぐもった空気越しに挨拶を送ると
 |  | 距離を隔てて人は
 |  | 礼儀正しい
 |  | 吹きさらしの山を両手に抱えて
 |  | こちらに顔を向けた
 |  | 笑っているように見えたがあれは
 |  | 気のせいかもしれない
 |  | 充足から怠惰へ
 |  | 怠惰から充足へ脚を折って
 |  | 魚をつかまえる
 |  | 肋骨が海に浮かんでいるが
 |  | その海はこちらには見えない
 |  | 近すぎるのか遠すぎるのか
 |  | 西域では匂いで夏を知る
 |  | 十年も前に死んだ犬の匂いが
 |  | 一瞬の夏を伝える
 |  | 水浸しの板を渡って
 |  | 忘れていた手をついばむ
 |  | 相手はだまってうすい皮を剥ぐ
 |  | 目の前で手と足がとれていった
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  (詩集『耳さがし』1983年花神社刊より)
 
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