rain tree homeもくじ最新号もくじ最新号vol.29back number vol.1- もくじBackNumberふろく執筆者別もくじ詩人たちWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など
vol.29

関富士子の詩 vol.29-1

飯店ゲーム秋の光釣果


飯店ゲーム


     
  
寸陰
ラオチューの氷砂糖をなめながら
彩管をふるう人々
針葉の筆は犬の尨毛ほどにも使えませんね
ぬけた夏毛をはらう手つきだ
 ・初あらし耳ふさがれて沈黙す
略筆ですがこの形で
さし出されたカードに五・七・五とある
広東なまりの実学の使徒が料理を運んでくる
七・七のあいだジャーを取らない
 ・面高ばかりなびく山鼻
座食して詩韻を待つ
人面獣心のわたしたち
中華鍋の麻婆を思って
 ・焼き印を捺された月の甘さかな
その皿をこちらにもください
ゴシップをつつきまわして
美麗な種だけ吐き出そうとする
 ・鱈に出目なし闇に雲あり
かた無しの着崩れた首を伸ばし
スープの雲をつるりと飲む
落ち札いただきます
 ・淵の亀あぶくも立てず泥を吐き
手持ちのピースがぎざぎざで合わない
時貸しの催促がやいのと迫るので
経絡を案じる人にかの亡妻がささやく
 ・竜待ちす病むステゴザウルス
簾のむこうの路地に雨つぶが落ちる気配だ
短日の傾きに人々は座を立つ
テーブルの上のことば屑を掃く


『千年紀文学』52号2004.9.30発行より
「飯店ゲーム」
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tubu<詩>秋の光(関富士子)<詩>三月が耳をぬらすので(関富士子)へ


秋の光


  
  
  
金色の光を濡れたように浴びながら
畑を鋤く男と
野菜を穫り入れる女がいる
二つの白髪頭が黒々と起こされた土に垂れている
その聖画のような光景に近づくと
  
男は皺ぶかい顔を上げて腰を伸ばす
上背のある大きな影になって
わたしが提げた山葡萄の蔓を見る
  良いのを見つけたな
  宝石のようだね
  
思いがけなくも男に称えられた山葡萄の実
それを美しいと思って手折ったのはわたしだった
一つとして同じ色はない
白から濃い藍まであらゆる青や紫に輝いている
  
男のかたわらで
小柄な女は丸々とした白菜を
赤子のように両腕に抱いている
街から来た見知らぬ者に親しくうなずく
ほほえみあい会釈を交わして川のほうへ向かいながら
わたしは二人をふりかえる
  
男の悪い噂を何度か聞いた
  若いころに牢屋に入った男
  仲間と強姦沙汰を起こした男だ
わたしは土地をとうに離れたが
噂は語り継がれ半世紀がたっても
ここに住むかぎり罪は赦されることがないだろう
  
荒れ地のすみの畑で土を耕し種を蒔き野菜を育て
季節の光をことごとく浴びて老いた男は
ともに老いた女と二人
頭を垂れて
秋の実りを称えている
  
宝石のようだ と


「歴程」2004.10号より
「秋の光」
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tubu<詩>釣果(関富士子)tubu<詩>飯店ゲーム(関富士子)


釣果


  
  
  
橋の下の川べりで
ふくれっつらの女が釣りをする
竿を両手で不器用に持つ
いやに着ぶくれた中年女で
風に吹かれて髪もふくれあがり
蛍光色の風船みたいに揺れている
浅瀬に魚の姿は見えない
たくさんの小さい波がきらめく
  
女の後ろに男がしゃがむ
いかにも釣り師らしい恰好の
日焼けして皺の深い中年男だ
ごろた石に腰を下ろして一服する
かたわらの砂利が浅く掘られ
水たまりに魚が数匹囲われている
十数センチの鮎のようだ
  
しかし女はふくれっつらだ
女は概して釣りに興がわかない
思いがけず竿を持たされて
男の興に付き合っているが
濡れて冷たい生き物は自分だけでたくさん
すぐに飽きて放り出すだろう
  
男は目を細めて流れを見ている
女を連れてきたのをやや後悔して
鮎五匹で満ち足りる自分をいぶかしむ
ほおの縦皺が傷のように翳る
まぶしげなしかめっつらだ


川端進個人詩誌『釣果』19号2004.12.1発行より
「釣果」
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tubu<詩>7月に至るいくつかの理由(関富士子)<詩>秋の光(関富士子)
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