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 2022年10月の独想録


 10月19日 影(シャドー)の消し方
 
まずは報告とお知らせから。
 今月のイデア ライフ アカデミー哲学教室は、「ケン・ウィルバーの思想」というテーマで行いました。万物すべてを「統合と進化」という観点からひとつにまとめようとする彼の考え方は、どのような分野においても必要であり、大変に重要です。ぜひダイジェスト版をご覧ください。
 動画視聴
 来月は「イグナチオの瞑想法」について紹介します。瞑想というと東洋的なものを思い浮かべますが、西洋の瞑想法には東洋にはないよさもあります。ぜひご参加ください。
 
 では、本題に入ります。
 今月のイデア ライフ アカデミーの授業動画「ケン・ウィルバーの思想」でも紹介していますが、私たちの心の深層には、およそ誰でも、大なり小なり「影(シャドー)」が存在していると言われています。これはユングが提唱した理論ですが、影とは、感情や概念などが深層意識にまで抑圧され、そのために無自覚(気づかない)になったものです。すると、その影は、外部に投影されます。
 具体的に説明すると、怒りが湧いたとします。しかし「怒ってはいけない」と強く思いました。しかし、それだけで怒りは消えません。その怒りは、無意識層へと抑圧されるのです。そのため、怒りの自覚がなくなりますので、自分は怒っていないと感じられます。しかし、怒りは深層意識に潜んでいるのです。そして、その怒りを外部に投影します。
 その結果、「人々は自分のことを怒っている」ように見えてしまうのです。怒っているのは自分なのですが、他者が怒っているように思えてしまうわけです。しかし、すでに述べたように、本人は怒っているという自覚がありませんから、怒っていないかのように振舞います。それを仮面(ペルソナ)と呼びます。
 たとえば、父親に対して強く憎しみを抱いている子供は、それを抑圧させて、そのまま成人になって会社に勤めたとします。すると、根拠もないのに「上司は自分のことを憎んでいる」と思ったりするわけです。
 このような影があると、当然、人間関係はうまくいかないでしょう。まさに自分の人生に暗い「影」を落とすことになりかねません。

 では、この影(シャドー)を消すには、どうしたらいいのでしょうか?
 優秀なセラピストの助けを受けることができれば、それが一番確実かと思いますが、なかなかそのようなセラピストと出会えるとも限りません。したがって、自力で影を消していくことになります。
 もともとなぜ影ができたかと言えば、それを抑圧させたからですが、抑圧させたのは、その感情なり思いを否定して「なきものとした」からです。
 例の場合で言えば、「怒ってはいけない、自分は怒るような人間ではないのだ」という思いが抑圧させたのです。
 ここで注目しなければならないのは、「自分は怒るような人間ではないのだ」という思い込みです。さらに言えば「自分は怒るようなレベルの低い人間ではない。もっとレベルの高い人間なのだ」という、ある種のプライドと言いますか、高慢さや自惚れが潜んでいることが多いのです。
 怒りだけではなく、悲しみも同じです。「自分はこれくらいで悲しむほど弱くはないのだ」、つまり「自分は強い人間なのだ」という自惚れがあるのです。
 なので、「怒っている自分」、「悲しんでいる自分」を認めたくないのです。見たくないのです。だから抑圧してしまったのです。

 しかし、影を消すには、どうしてもこの影と対峙しなければなりません。そういう感情や思いが自分から生じたことを、素直に認めなければならないのです。つまり、「自分は怒っているのだ、怒るような人間なのだ」ということを認めなければならないわけです。それは辛い経験です。なぜなら「自分は怒るようなレベルの低い人間なのだ」ということを認めるわけですから、プライドが傷ついてしまうからです。人はプライド、言い換えれば「自己肯定感」を支えに生きているようなところがありますから、プライドを捨てるというのは、相当な勇気と覚悟がいります。

 しかし、人間的に、さらには霊的に、成長するには、このようなプライドは捨て、影を消していかなければなりません。
 
それはいっぺんには難しいでしょう。少しずつ、プライドを捨てていくようにするのです。たとえば、自分を見せびらかしたり、自慢したりする傾向がある場合は、それをやめることです。そして、あらゆる面において、謙虚の美徳を優先して生きることです。どんな人にも威張ったり、上から目線になることなく、どんな人と接するときでも、「相手の方が自分より偉いのだ」と思って接するようにすることです。
 こうしたことを、忍耐強く続けていくことで、影は消失していきます。その結果、病的な投影も消失し、人間関係や人生が好転していくようになるはずです。
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