天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第6話『野球チームを届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「正広の誕生日は軽井沢で泊りがけの仕事だった由紀夫。不機嫌に仕事をしていたが、そのホテルに腰越人材派遣センター関連グループの社員旅行ご一行が到着したのだった」簡単すぎる…(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「野球チームメンバー」届け先「溝口正広」

「優雅ね…」
某イタリアンブランドのガウンを優雅に羽織り、牧場を見渡せる部屋のベランダに置かれているのロココ風のテーブルで、目覚めのミルクティを某イギリスブランドの紙のように薄いティーカップで口にしている腰越奈緒美(年齢不詳)は呟く。
朝の高原は、夏とはいえひんやりとした空気に満ち、涼しげな風が頬をかすめて行く。朝食は、イギリス式のブレックファースト。薄いトーストに、フルーツがたっぷり。作りたての半熟卵は、銀のエッグスタンドの上で、可憐に震えている。
部屋の、キングサイズのダブルベッドでは、昨夜一緒に過ごした男が眠っていて、奈緒美はふとその事を思い出す。軽い頭痛は寝不足のせいであろうか。新鮮なフルーツを口にして、小鳥のさえずりに耳を…!

「う…うるさぁーいっ!!!」
我慢も限界に達したナオミは、ベランダの手すりからホテルの庭にいて大騒ぎしている7人に向かって怒鳴った。
「ねー、奈緒美さんもやろうよぉー!」
その中でも最年少の少年が、頬に土をつけたままニコニコ笑顔で見上げてくる。
「あんたたちっ!なんでこんなとこまで来て三角ベースなんかやってんのよっ!」
「あらぁー。やってみると面白いもんよー?ねぇ、ひろちゃん」
「面白いって絶対―!簡単だからぁ。奈緒美さんもできるってぇ」
「できないって言ってないでしょ!やりたくないっつってんのっ!」
「なぁんでぇー?」
不服そうに言う正広に、ジュリエット星川が言う。
「年取るとね、酒飲んだ翌日なんて、二日酔いもあって動きたくないもんなのよ」
「誰が年寄りよ!誰が!」
「ひろ!盗塁っ!」
由紀夫の声がして、ボールを持ったままマウンドを離れてた正広は、慌てて振り返り声がした方にボールを投げる。受け止めた由紀夫が野長瀬をアウトにして、ちょうどチェンジに。
「兄ちゃんナーイス!」
二人してパンとハイタッチして、ベンチに戻った。

腰越人材派遣センター関連グループの社員旅行は二日目となっていた。初日の夜はお定まりの宴会である。奈緒美がプチホテルのスィートルームを自分の部屋にしたため、その大きな部屋で、総勢9名が飲んで食って騒いだ。防音のしっかりしてるホテルでよかったってなものである。
「朝っぱらからうるさいよぉー?」
ベランダの奈緒美に言われ、由紀夫は小さく呟く。
「たって、もう11時来るじゃん」
「何っ?なんか言ったっ?」
「…中途半端に年寄りだよなぁ…」
体力はねぇくせに、耳だけはいいんだから…。あ、後朝も早かねぇか。
「兄ちゃんだよー!」
そんな事を考えてた由紀夫はニコニコと手招きする正広に笑いかけ、バッターボックスに入る。敵チームのピッチャーは千明。
「今度こそ、三振―っ!で!あたしが勝ったら、デートしてねぇー!」
「勝っ、たら、なっ」
スパーン!と第一球が外野野長瀬の頭を超えて行き、由紀夫今大会4本目のランニングホームランをGET。
「イエーッ!兄ちゃん、かっけーっ!」
「おーっ!」
もう一人のチームメイト菊江と3人で手を取り合って喜んでる早坂兄弟をベランダの上から眺めながら、二日酔いによる頭痛と闘う奈緒美。ちなみに、豪華なスィートルームのベッドで寝てるのは、夜行性動物の田村だった。夜が更ければ更けるほど元気になり、由紀夫に歌わせながら、狂ったようにおもちゃのギター(ZO3ってやつ)をかき鳴らした田村は、夜明けの光とともにエネルギーが切れた。

「もー、うち絶対ハンデばっかりなんだから…」
「自分のこと?」
「何言ってんですか!あなたですよ!あなた!」
「しょうがないじゃなーい、ジュリエットさん、とし、あ…、ねぇ?」
菊江に同意を求めた千明は、星川にはたかれ、野長瀬の悲鳴を浴びた。
「あんたもでしょーがぁー!何がピッチャーは任せろなのーっ!」
5回を投げて、被本塁打6、被安打21、四球12、死球3。
「おもしろかったねー」
「そりゃ、ひろちゃん圧勝だったもんねー」
野長瀬チーム唯一の運動神経保持者、典子がにっこり言うと、正広はそうだ!と口を開く。
「典子ちゃん、めちゃめちゃ野球うまくない?なんかしてた?」
「あたし?中学の時、ちょっとだけソフトやったけど」
「だからかぁ!すっごいよね。女の人じゃないみたいだった」
「あのチームにいたから目立っただけでしょ」
ケラケラ笑いながら、後ろで低次元な争いをしている3人を指差す。常日頃あれだけ転んだり、怪我してる野長瀬にも運動神経はないらしく、グーパーで分かれた由紀夫チームVS野長瀬チームは、49対2というなんの試合だ、という点差で決着がついている。MVPは正広で、5回を投げて2失点ながらも、うち二つとも味方のエラー。ストレートの速球が素直に真っ直ぐに入る正広は、ほとんどバットに当てさせなかった。打っては、走れない分、文句なしの柵越えホームランを2本と、全打席、何らかの形で出塁という素晴らしい記録を作った。ちなみに、正広も千明の死球を一度受けたが、指をかすった程度のデッドボールに、激怒した由紀夫が乱闘騒ぎを引き起こそうとしてえらい騒ぎになったのもいい思い出である。
「でも、菊江ちゃんもー!スポーツとかしなさそうなのに!」
守備はともかく、バッティングと足の速さには驚くべきセンスを発揮した菊江は、いつもの静かな微笑みを浮かべるだけでうなずく。
「すごいなー、ねぇ、すごいよなぁ、兄ちゃ…!」
「はしゃぎすぎ」
菊江と典子の間を行ったり来たりしてた正広が、石畳に足を取られて転びそうになるのを受け止めた由紀夫が、軽く頭を叩く。

「あ!奈緒美さん!」
叩かれて、ちょっと舌を出した正広が、ホテルの玄関にいる奈緒美を発見する。
『軽井沢』らしいワンピースに、ここはアスコットか?という帽子を被り、汚れた一同を睥睨していた。
「着替えなさい、着替えなさいっ」
「社長!どっか行くんですかっ?」
「蕎麦!」
「あぁ!はいはいはいっ!」
奈緒美の性質をよくよく解っている野長瀬は、はい急いでくださーい!と全員のお召替えを急がせる。
その甲斐あって、わずか30分後には、シャワー、化粧、お召替えを済ませた一同が奈緒美の前に集合。もちろん、田村は寝たままである。

奈緒美が予約を入れていたのは信州蕎麦の名店で、正広以外は酒まで飲みながら少々上品に蕎麦をいただく。
「ちょっと待て。こいつ、飲んでもいい年なのか?」
千明を指差し由紀夫が言うと、千明がプぅと膨れる。
「もおー、由紀夫ったらぁ。あたしの年、知らないのぉー?」
「知らねぇよ。あっ」
「んとね?あたしはぁ、セブンチーンでぇ、…由紀夫っ?」
その頃、由紀夫は、横から自分のお猪口に手を出そうとしようとしてる正広を止めていた。
「や・め・ろぉー」
「一、口、だけぇー…!」
思いっきり伸ばした手の先にお猪口を持った正広の体を、由紀夫は背中から羽交い締めにしてジャマをする。置いてかれた千明は、指をくわえて、ポッツーン…とそれを眺めるしかできなかった。

少々酔っ払った一同は(結局由紀夫に奪い取られた正広は、最終的に一滴も飲ませてもらえなかった)、奈緒美に引率され、次の目的地に向かう。

「何だここ…」
「軽井沢高原教会」
教会の正面で、当たり前のように奈緒美は言った。
「何で教会?なんか懺悔?」
「あら。そりゃもう、結婚前の乙女としてはねぇ、やっぱり憧れじゃないの」
「結婚前だろうけどさ…」
「何よっ」
「…乙女って意味解ってんの…?」
「うるさいわねっ!ここには、かの松田聖子がザ・ベストテンの中継で、この教会で歌った時に着たというウェディングドレスがあるのよっ!」(作者注:作者が修学旅行で行った時そんな話だったので、そんな恐竜が歩いてた時代と今は違う可能性97%)
「ふ、ふっるーっ!」
星川が崩れ落ちる。
「あんた!ベストテンでの松田聖子って何十年前よ!」
「何十年って、せいぜい十数年でしょ?」
「ひろちゃん生まれてないかもよ!」
ふいに言われた正広が、きょときょとしながら首を傾げた。
「べ、ベストテン…?」
幼い頃からテレビといえばナイターという正広は、当然のようにザ・ベストテンを知らず、奈緒美の心を何気で傷つける。
「どーせ、どーせ…」
「社長って、松田聖子好きでしたっけ?」
典子が何気なく聞くと、当たり前でしょう!と奈緒美が胸を張る。
「出来た元夫、可愛い娘、ありあまる才能、巨万の富!あぁー…!美貌は変わらないのにぃー!」

さ、帰るか。と正広の腕を取る由紀夫と、自主的にターンをかました、千明、典子、菊江はその場を去る。あまりのセリフに呆然としてる星川は、瞬間的に凍り付き、解凍した途端崩れ落ちて大爆笑。野長瀬が必死にフォローしていた。
「社長!社長にだっているじゃないですか!出来た部下たちに、可愛い息子の由紀夫ちゃんとひろちゃん!ありあまる金もうけの才能に巨万の富!」
「やかましいっ!」
ミラクルパーンチっ!
野長瀬は、晴天に吸い込まれて行った。

「ねぇ、ねぇ、由紀夫ぉー」
ガイドブックを片手に千明が寄ってくる。
「ここ!乗馬クラブなんだってぇー、行かない?行かない?」
「乗馬?」
好きかな?と正広を見ると、顔色がやや変わっている。
「正広?」
「ひろちゃんもやろっ!」
強引な3人に引っ張られ、乗馬クラブに連れ込まれる由紀夫と正広。
「絶対似合うと思うのー!」
何時の間に予約を入れていたのか、そのままロッカーに放り込まれた由紀夫たちは、ブリティッシュな乗馬服に着替えさせられた。

「お待たせいたしましたぁー、97年夏、最新乗馬ファッションショー!まずわぁ、あたし、脱いでもすごいんですぅーなお兄様―、早坂、ゆっきおちゃんでぇーすぅ」
「あのな…」
「きゃあ!」
「由紀夫、すっごぉ〜いーっ!」
すでに乗馬服に着替え、ムチをマイクにしたままの千明が馬場で飛び上がる。
「すごい、すごい!似合ってる、似合ってるぅー!ねぇ、典子ちゃん、菊江ちゃんっ!」
「ホント!似合ってます、由紀夫さん!」
「…似合ってねぇ!」
「ひろちゃん」
驚いたように目を見開いたままだった菊江がぽつんと言う。どーしたらいいの、俺―!な顔の正広がロッカーから顔だけ覗かせてた。
「あっ!続きまして!イギリスは、おぼっちゃまの香り〜!あんまり細いとムカつくじょー、な溝口まっさひろちゃーん!」
「やめてよ、千明ちゃーん…」
多少着崩してる由紀夫とは対照的に、首元まできっちりボタンをはめた正広は困った顔で呟く。
「こんなの、俺、似合わないぃー…」
「似合う、ひろちゃーん…。イートンで寄宿生活―…」
菊江の読書傾向が知れる発言であったが、いかんせんそういった単語を知ってるような連中ではなかった。
「馬乗りましょー!馬!」

由紀夫は、着せられてるものはともかく、馬に乗る事自体は面白そうだったんでそこまで逆らう気はなかったが、馬のそばまで引っ張って来られた正広は絶対やだ!とかたくなに言い張る。
「何で?何でぇー?お馬さん可愛いよぉー?」
「やなの!俺、やだからねっ!」
「正広」
もしかして?と由紀夫が尋ねた。
「ひょっとして高所恐怖症?」
「そりゃ俺はチビだけど!そんなんじゃないーっ!」
「じゃあ…、馬?」
う。と正広が黙り、お、図星と由紀夫が納得する。
「怖くねぇよ、ほら」
正広の馬は、大人しい年寄りのメスで、上品な栗毛の、優しい目をしている。由紀夫はその馬の額に手をやって、優しく撫でる。
「可愛い目してるー」
千明に背中を押されて無理矢理近寄らされた正広は、大きな動物なんてすっごく怖いのに、もっと怖い3人の動物が背中にいるため、おそるおそるその馬に触れた。
恐怖心の伝染で、その馬がふいに動く。声もなく慌てて逃げようとする正広は、まさしく4人がかりで抑えられた。
「怖がったら、余計に動くから!」
「でも〜…!」
正広は半泣きになりながら、上目遣いにじっと兄を見上げる。ちょっと笑ってしまった兄は、とりあえず自分だけでも、と自分用に準備された葦毛に乗って見せる。

由紀夫はやさぐれた生活をしていた割に姿勢がいい。黒の乗馬服を着て、馬の上でピンと背筋を伸ばしてる姿に、係員を含め、全員が声を失った。
「俺、こーゆーんじゃなくって、なんかもっとこう…」
「由紀夫ぉ、乗馬したことあるのぉー?」
「ねぇよ!でも、なんかやだな、やっぱこれ」
「何でなんでっ?似合ってるよ!ねぇひろちゃん!」
「…似合ってるー!兄ちゃん、かっけーっ!」
でも、これより、ロデオとかの方が…。裸馬とか…。ブリティッシュより、ウェスタンな由紀夫はぶつぶつ言いながら、係員の人に何か尋ねている。はい、はい、と何度か係員にうなずかれ、由紀夫は正広たちの方に近寄った。
「カワイー!馬ってカワイーねぇ」
はしゃぐ千明たちに混じって、ホントにかっけーや…。と馬が怖いのも忘れてボーっと眺めてたら、その兄with馬が、どんどん自分の方に近寄ってくることに気付いて硬直する。
「な、何…っ?」
「俺と正広ぐらいだったら、二人で乗れるって言うから。ほら、手」
「ええぇーっ?」
「あたし、乗りたぁいーっ!」
「一人で乗ってろ!ひろ?」
馬は怖い。でも、兄ちゃんはカッコいい。そばで見たいような気もする。うううーっ!とジレンマに陥った正広は、「乗ってしまえば馬は見えない!(かもしれない)」と自己を納得させ、ギュっと目をつぶったまま由紀夫の手を取る。
由紀夫の腕と、係員に後ろから押される力で、何度かバランスを崩しながらも正広は、由紀夫の前に座ることができた。
「ひろ?…大丈夫か?」
「ん…、た、多分…」
ギュっと目をつぶったままの正広が、そっと薄目を開ける。
「わぁ」
いつもとは全然違う視界が気持ちいい。馬の後頭部は全然見えてるけど、これは意外に平気で。
「すごい。高いねぇ!」
「はい。あんま大声出さない。馬がびっくりしますー」
慌てて両手で口を抑え、思い出したように脅える正広。千明たちもそれぞれ乗せてもらい、馬場をのんびりとぽくぽく歩く。

その馬場から、もっと広い場所まで案内してくれるコースだったため、しばらく練習した面々は、森の中を揺られて行く。
正広が大人しくしてるだけなのか、硬直してるのか、顔が見えないため判別のつかない由紀夫は、「正広?」と声をかけてみる。
由紀夫にもたれるように背中をくっつけていた正広は、ニコニコと嬉しそうな顔で振り向いた。
「何?」
「あ…。いや。固まってんのかなって」
「ん?あ、大丈夫。なんか平気!」
しばらく乗ってるうちに、別に馬が自分に何をする訳じゃないとなんとか理解した正広は、多少落ち着いてきていた。
「だったら、1人で乗ればよかったな」
「いや…、それはぁー…。それはちょっと…」
背中のぬくもりがなくなったような気がして、急に正広は気弱になってしまい、それがおかしく、由紀夫は小さく笑う。
「兄ちゃんっ?」
怒ったように振り返る正広に、「ごめんな」と由紀夫は言った。その真面目な調子に、正広が首を傾げる。
「え?」
「誕生日プレゼント。用意できてなくって」
「え・え?貰ったよ?」
四つ葉の…と言おうとする正広に、軽く手を振る。
「あんなじゃなくって、ちゃんとしたプレゼント。みんなから貰ったろ」
「ん…。なんか…、俺いいのかなぁって思って…」
こりゃ、相当貰ったな?という発言をする正広。
「情けねぇな。俺、一応兄弟なのにさ。正広のプレゼントって思った時に、んー…、野球ものなぁー…くらいしか思えなくって」
「兄ちゃん?」
「正広の好きなもんも知らねぇし」
言いながら、そうだ、と小さく手を叩く。
「でも、嫌いなもんだったら知ってる」
「嫌いなもん?」
「とりあえず馬だろ。ナス、セロリ、ひじき」
「兄ちゃ〜ん?」
「好き嫌い多いよなぁ。おまえが料理作るようになってから、うち、一回もナス出た試しねぇもん。後、寝起きすっげぇ悪ぃの。起きない、起きない。学校行かない身分でよかったな」
からかわれてるっと思った正広は前を向いてしまったが、ふと聞いてみる。
「後は?」
「後?」
「後、俺って、どんな?」
「正広?んー…、寝起きは確かに最悪なんだけど、寝顔は相当可愛い。写真撮っとこうかって思うくらい。後、焼き魚食べるのがうまくって、文鳥が好きで、結構几帳面だよなー。歌はあんまり上手くない」
たずなを握ってる由紀夫の手をぱしっと叩く正広。
「野球はかなりうまいけど、時々ノーコン。足も速いよな。あぁ、あれもクセかな。うなずく時に、なんか、全身でうなずかない?ちょっと肩上げて。なんか困ったり、お願いごととかあると、やたらと上目遣いになるし。あれ計算?あれやると、奈緒美とか、野長瀬とか、絶対言う事聞くだろ。大体包丁で切っちゃうのは、左手の人差し指で、しかも爪」

そうやって。ずーっと兄が自分の事を喋ってるのを、くすぐったいような気持ちで正広は聞いていた。十分、俺のこと知ってると思うけどなぁ…と笑いたくなる。
「なんか、でも、欲しいもんねぇの。…って聞かれるって困るよな」
「だから、もう貰ったっつってんのに。兄ちゃん年?耳遠い?」
「人を奈緒美と一緒にすんなよ」
「奈緒美さん、めちゃめちゃ耳いいよ!あのね、事務所で悪口なんて言おうもんなら、必ず背中にいるから!」
二人してケラケラ笑う。森を抜け、広い牧場についた一同は、一度馬を降りて休憩する。かなりかっくんかっくんしてた千明も、その割に楽しそうにしていた。

「でも、やっぱ野球だよな」
帰りはあたしが一緒に乗るぅー!と言った千明を菊江と典子に取り押さえさせ(某和菓子屋の一日限定50個だけしかない栗のお菓子と引き換え)、めでたく二人で帰る事になった由紀夫が帰り道で言った。
「グローブはこないだあげたばっかりだから、バットとか、スパイクとかって思ったりもしたんだけど…。後、野球のゲーム?」
「…消える魔球のできるヤツ?」
「…おまえホントに17か?」
「俺―…、俺さぁ」
「ん?」
「俺ね、野球のチーム作りたいなーって思ってて。だから、それできたら兄ちゃん入ってくれる?」
「野球チームー?」
「ちょうど、今日9人なんだよね。俺と、兄ちゃんと、野長瀬さんと、奈緒美さんと、星川さんと、千明ちゃんと、典子ちゃんと、菊江ちゃんと、田村さん」
「…野球ってのは、頭数さえ揃えばできるわけ?」
「ダメかなぁ」
「今日見ただろー?少なくとも、奈緒美、野長瀬、星川、千明、田村は話になんねーって!」
「でも、野長瀬さん、バッティングすごいよ?」
「当ればな」
「そっかぁ…」
「それに、草野球って、大体早朝だろ?あいつら試合に出そうと思ったら、前の夜から寝させないようにしとかなきゃいけないし」
「んと、とりあえず、早朝野球は止めようと俺も思ってんだけどさ」
未来のキャプテンは困ったような顔で考え込む。俺と、兄ちゃんと、典子ちゃんと、菊江ちゃんと、んー…、野長瀬さん、とぉ…。
「森先生は?あの人運動神経よさそうだし」
「そだ!それに、香取先生にー…。ね?兄ちゃん、絶対入ってよ?副キャプテンにしたげるからさぁ」
「あ、そうなの?じゃあ、キャプテンは正広なんだ」
「そだよ。俺、エースで4番だもん」
馬の上で胸を張る。
「そりゃそーだな」
「そんで、チーム名も考えてんだぜ?」
「何?」
「ヤンキー・モンキー・ファンキーかぁ、マッピー」
「…」
「兄ちゃんっ?」
「…チームメイトが決まったら、全員で考えた方がいいかもな」
「なぁんでぇー。いーじゃんよぉー、マッピー」
「あのー、あれ」
ほらほら、と、何かを指差すように由紀夫の指が動く。ちょっと振り返った正広に由紀夫は言った。
「ネーミングセンス変わってるよな、おまえ」
「うっわ信じらんねー!兄ちゃん、嫌―い!」
「あっそお?じゃあ、俺、おりましょうかぁー?」
「…嘘ですっ。ごめんなさい!」
すっかり馬の上にいたことを忘れていた正広は、急に駆け足にさせられて、慌てて鞍にしがみつく。

たずなを持ったままの由紀夫は、馬を並足に戻し、額を正広の茶髪の後頭部に当て、ぐりぐりと押した。
「相当カッコいい」
「えぇっ?」
くすぐったそうに正広が声を上げた。
「野球やってる正広は、相当カッコいいわ」
振り向いて、正広は誇らしげな笑顔を見せる。
「じゃあ約束!」
小指を出して。
「兄ちゃん、絶対、一緒に野球しようね!」
誕生日プレゼントなんだから、絶対だよ?と上目遣いで言われ、実際のところ、奈緒美や野長瀬じゃなくっても、これやられたら、なんか言う事聞かなきゃいけないって気にさせられるよなぁと由紀夫は思った。
小指をからめ合って、「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら、針千本、のーますっ♪」って声が浮かれて森に響いた。

東京に戻ってから、早速スカウト活動に入った正広は一週間でメンバーを集めてしまい、副キャプテンである兄と、現在対戦相手を探している。

<つづく>

兄バカ由紀夫復活編って事で、第一版より、少々加筆訂正あり。…でも、いつかと同じように、どこが?とか言われんねやろね(笑)すまーん!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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