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vol.12
執筆者紹介  

 駿河昌樹の詩 3 

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舟 旅

  
どのひとも
わびしい小舟
あおい炎
うすももいろの炎
あわあわと
頬に
うなじに
鼻先に
遠いものへの
消息のように
ひとときも
たやすことなく
  
  
どのひとも
遠い
遠いところから
ひとりで
たったひとりで
来た
  
  
どのひとも
遠い
遠いところに
地図も
太陽も
置いたまま





また寄りますね 地球さん

  
春のひと わたし
すこし寒くて もすこしあったか
うめ もも さくら
みんな似合って
  
  
夏のひと わたし
こんがりと つよがりの海
高波しら波 髪ぐっしょりと
夕方の縁でスイカぱっくり
  
  
秋のひと わたし
澄む水の ながれたどって
紅 赤 黄 しずかに心
ひとみも染めて
  
  
冬のひと わたし
吹くかぜの かわきの
底によみがえる 遠い輝き
終幕のちらちらの雪
  
  
四季のひと わたし
どのひとも どの土地も 時も
わたし わたし
ありがとう
また寄りますね 地球さん



 
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ひかりのページとは

  
つごうのわるいことから
あのひとさえ顔をそらした
きょうは肌がかわく
革命の本を書架に戻す
八月の陽光を思う
  
  
顔をそらしたあのひとから
顔をそらしていくわけにもいかない
そらしてもべつのあのひと
そらしたところに
  
  
すべてが馬鹿げているとはいわない
ほとんどが馬鹿げているとはいっても
このまま倒れかかるように生きていく
先におそらくちっぽけな終末
濃霧の外には
出られるか
  
  
黙っていれば使われるだけで
ちがうといえば後ろ指さされる
遁れても遁れるべきところに出る
どのひともどのひとも
卑劣なだけのこと
  
みな勝手な夢を見て
けれど型にはまった凡庸な夢で
ようするに安楽へ流れていくだけのこと
うなずくのをやめれば ふいに
鮮烈な断絶
  
  
きょうは肌がかわく
疲れるわけはつかみきれず
  
  
本の文字はさらさらと浮く
流れ去り
白から白へ移る
ページ
  
  
ひかりのページ
とは
いわないほうがよいか



 
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咲いたよ

  
咲いたよ
咲いたねといわれて
ことしもぼくは
おちつかなくなる
青空を背にあんなにほんのりと
まったくいたたまれなくしてくる桜
お花見してなにをそんなに
日本人は埋めたいのか
散りはじめる前から
過去も未来も桜、桜で
池のおもてに落ちる
満開の枝の影を見つめて
ようやくなにか
つかんだ気になるのだが
  
  
あゝ、いま咲いている
いま咲いている
苦しい花
いま咲いていなければ
桜は桜ではないから
  
  
咲いたよ
咲いたよ
といわれて
だれもが確かめる
ほんとうになにが咲いたか
ほんとうは
なにを咲いたか






べきのほうへ

  
ちっぽけな役割なのに
大きな組織に入って昂然とするひとの
かわりゆく月々を見てきた
いくども いくども
  
  
そのたびに
食事は味を失ったような気がする
かわっていくひとの
かわるさまを見ているだけで
世の中すべてが
ぼくに閉ざされる
  
  
閉ざされる、で終えない詩と
生があるべきだ
とにもかくにも二行三行
四行と
べきのほうへ
べきのほうへ






あなたとはなんなのですか

  
居場所のないのはつらい
どこでもひとはえらそうで
知識だの経験だのを競う
見ているのもそばにいるのも
どれもぼくにはつらい
  
  
きょう一日中ここにすわって
タンポポの黄色を見ていたいと思う
好きにしていれば、とだれもがいう
べつにいいんだよ、と
だって自由なんだからね、と
  
  
でも きょう一日タンポポを見ていれば
いつか一日 やがては何十日も
ぼくはもっと居場所をなくすことになる
だれかがぼくのいたはずの場所に居座って
えらそうにしたりしなかったりする
  
  
どこの国も時代も居場所をめぐって
ひとはひとをはじき出してきただけだったか
それはぼくひとりのかなしい考えすぎだ、と
いくらなんでも そんなひどいもんじゃないよ、と
言ってくれないあなたとはなんなのですか



 
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はじめないかのようにばくぜんとはじまりに



          真に重要なことは、まだなにひとつ起こっていない。
              世界の最後の言葉は、まだ、語られていない。
                            ミハイル・バフチン


  
ばくぜんと
しあわせを求めるのは
よいこと
ばくぜんと
というのが
大事なのだった
  
花のひみつをさぐりすぎたかもしれない
花びらは海上に舞い散って
きみはいまでは絶壁に立っている
さいわいなことには
青い海のひろがり
青い空のあかるみ
ばくぜんと見ることを
きみは覚えた
まだなにもはじまっていないと
白い波が言っていないか
鳥の白が唱和し
沖遠い
船の白が唱和している
  
まだなにもはじまっていないと
きみは思い
まだなにもはじまっていないと
きみに言うきみ
はじまりの合図は
いつもこんなふうだ
  
はじめないかのように
いま
ばくぜんと
きみは
はじまりに立ったところ



 
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雨のあがった夜更けにマンホールのわきで

  
雨のあがった夜更けにマンホールのわきで銀貨をひろって幸福だ
自動車がぜんぜん来ないんだぜ
街灯がとおくまできれいにならんで濡れたアスファルトは滑走路のようで
それだけで最高にすてきだって気持ち、きみにわかるかな
ひろった銀貨はこの国のじゃなくってどこの国のかわかんなくって
それってすてきだってこと、きみにわかるかな
  
思い出は雨あがりの濡れたアスファルトみたいなもんだ
ほかのものはなにもいらなくってひとりでも孤独じゃなくって
風景がなつかしいだろ
死んでんのかな、おれ、って思うよ
靴の底が道になじんでいくのがわかる
靴の底がおれの足になる
だから道も足だ
晴れてちゃ、こうはいかない
  
泣いて泣いて涙がとまらなかったってこと、あるかな、きみには
気づいたらテーブルが涙のうすい沼のひろがり
雨あがりの夜更けはそんな雰囲気もあって
こころの新しいはじまりって、感じなわけよ
  
人生なんてことば、口にするなよな、そんなとき
人生ってことば、なんでもまとめようとしやがる
括るってのをやめれば
はじまるものがあるだろ
はじまりを待つしかないって時がある
はじまりを待つしか、賭けるものがないって時がある
  
街灯がとおくまできれいにならんで濡れたアスファルトは滑走路のようで
離陸、なんてつぶやいてもしょうがないけどさ
雨のあがった夜更けにマンホールのわきで銀貨をひろって幸福だったわけよ
幸福、と思ったわけ
幸福、と
じぶんにいってみたかった



 
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野本さん

  
──新茶だねえ
──あゝ、新茶だねえ
そんな会話しか交わさなかったが
野本さんが逝ってから
ひとりで支えているなにかがあって
──新茶だねえ
と、ひとり つぶやき
──あゝ、新茶だねえ
と、ひとり
また つぶやく




うちの猫のしっぽに

  
うちの猫のしっぽに
こないだ
包丁おとしたのね
・・・・!
まっぷたつの
包丁
  
どうして こうなの
世の中って




どら焼きをかじったら

  
どら焼きをかじったらボルヘスが出てきて
背中の痒い時代だといって
ガス管をくわえかけた
いいえ
いいえ
と呼びかけると
「だから『三四郎』を読めってのに」




マリー・アントワネット

  
その後マリーは故郷にかえり
ながい静養し終えると
ナポリに移って再婚し
元気でいたずらな子らを得て
ほとんど百までながく生き
数十人の孫にかこまれ
海のしずかな晴れた日に
おだやかに事切れたとか




Dデイ

  
虹増し歯♭わ♭♭磨きが本州な
オレン◎ジた巻きにょねてす
斬新ロベーしル今宵も木津信
金魚蜂はっのぴー(んで、苦しく
弦表も号登時頂、いや盗聴
Υ・・・・・・・・代ハッスルハッスル
ざから、水がの戸)番子だれ?
器が浮市→も襟菌一九五、う〜ん
邪道ジャドうshadow▼
無花果の花すびらが磨き
スル番も虹ぐ増しレレレレッレ
菌んで弦し来くール市浮←が器れ
わ買った香る弧の書く死痔
千源詩のた個々櫓味ふ非譜碑ひっ火



 
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