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閑月
99・2・1せ
誰かがみそ蔵で資本論を読んでいる よく通るうら声で漢字を間違えながら 2・11ひ 木戸の留め金がきしんで 風ではないものの気配がある 2・28せ おだやかな春の日の浅い夢のなかで 繰り返す悪寒に幾度も揺りおこされて 3・15ひ 未完の主人公はさすらう 金壷まなこに砂が吹くスクリーンの破れめを 3・28せ 今の今迄そこにあった眩い宝石の山が 次の瞬間はもう鯨の腹へと消え失せ 4・22ひ 鯨の鬚は地ねずみにかじられ 地ねずみの齧歯は瞼のうえに散乱する 5・9せ 左の手に塩の結晶を白く握りしめたまま 絹と貨幣で贖える幸福のことを考えると 6・22ひ 指が六本あれば札束がつかめる 二つ目よりも輝く三つ目の瞳 7・4せ どの古い世紀の地図にも略奪の跡は残り 雲雀たちの声さえ領土を言い募る 8・23ひ ひからびた皮袋を捨てよ 目覚めのかわきを贖うことはできない 9・17せ 空の岸から野原をわたる声に耳をふさいで 言葉だけで夢の続きにあらがうために 11・16ひ 戸障子のあかるみの向こうに 待っている忙月の影を呼ぶ 11・19せ