庭園設計
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| まだどこにも存在しないわたしの庭の
| 植物を育てたことのない土
| そこに初めて植えられる樹木の名を記すとき
| 一枚の紙の上に光が差し風が吹き雨が降り
| 種がこぼれる
| わたしの庭に現れる初めての木の芽は
| ある方角に少しかたむいて
| 南を向いているのだと知れる
| 方位記号を記すうちに春になるので
| わたしは大急ぎで
| 知るかぎりの草木の名を書く
| それらはたちまち芽を出し
| 根を張り茎を伸ばし花を咲かせる
| 湿りを好む草の名を書くと
| 土は窪んで湿地をつくる
| 日向に茂る草の土は
| みるみる隆起して丘になる
| まだどこにも存在しないわたしの庭に
| 広がっていくはるかな起伏
| わたしが記す名のとおりに
| 植物はきりもなく繁茂して
| 形づくられる海と河と山と野原
| そのどこか
| だれも知らない隅っこに
| 一人の庭師が住んでいる
| 彼の人生を想像してみるが
| なにも思い浮かばない
| 生まれたときからわたしの庭に住み
| ひたいを緑に染めたまま
| 草のあいだにしゃがんでいる
| 葉を広げ実をつけ種を散らして枯れる
| 一部始終を見ているうちに
| たくさんの季節が過ぎていく
| まだどこにも存在しないわたしの庭に
| 植えられるだろう一本の木の
| 名を書き始め書き終える
| そのあいだにも時間はめぐって
| 木の芽は枝を伸ばし
| 彼の上に大きな影をつくっている
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