rain tree homeもくじ最新号もくじ最新号back number vol.1- もくじBack Numberback number27 もくじvol.27ふろく執筆者別もくじ詩人たちWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など
vol.27

関富士子の詩vol.27

庭園設計


庭園設計


まだどこにも存在しないわたしの庭の
植物を育てたことのない土
そこに初めて植えられる樹木の名を記すとき
一枚の紙の上に光が差し風が吹き雨が降り
種がこぼれる
わたしの庭に現れる初めての木の芽は
ある方角に少しかたむいて
南を向いているのだと知れる
方位記号を記すうちに春になるので
わたしは大急ぎで
知るかぎりの草木の名を書く
それらはたちまち芽を出し
根を張り茎を伸ばし花を咲かせる
湿りを好む草の名を書くと
土は窪んで湿地をつくる
日向に茂る草の土は
みるみる隆起して丘になる
まだどこにも存在しないわたしの庭に
広がっていくはるかな起伏
わたしが記す名のとおりに
植物はきりもなく繁茂して
形づくられる海と河と山と野原
そのどこか
だれも知らない隅っこに
一人の庭師が住んでいる
彼の人生を想像してみるが
なにも思い浮かばない
生まれたときからわたしの庭に住み
ひたいを緑に染めたまま
草のあいだにしゃがんでいる
葉を広げ実をつけ種を散らして枯れる
一部始終を見ているうちに
たくさんの季節が過ぎていく
まだどこにも存在しないわたしの庭に
植えられるだろう一本の木の
名を書き始め書き終える
そのあいだにも時間はめぐって
木の芽は枝を伸ばし
彼の上に大きな影をつくっている

「庭園設計」縦組み横スクロール表示へ縦組み縦スクロール表示
真神博編集詩誌『現代詩図鑑』2003年9月号より
tubu<詩>リボン(坂輪綾子)
<詩>甦る9月(関富士子)
rain tree homeもくじ最新号もくじ最新号back number vol.1- もくじBack Numberback number27 もくじvol.27ふろく執筆者別もくじ詩人たちWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など
vol.27
関富士子の詩vol.28へvol.26へ