
vol.27
リ・サイクルな子ども
悲しい話
無色透明な夢
リ・サイクルな子ども
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| ひざを折ってひざを折って、近づいてくる
| よいにおい
| あなた
| よい
| 春だから
| うきうきしているのかと…
| ほほをゆるめる
| 泣けりゃあそ れでも
| じれったそうな風をひと刷け
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| じまんにしていた子ども
| いなくなって
| 春になって
| また市ヶ谷の並木を歩く
| 子どものことはとにかく
| 私のいないあいだ私のこと
| 好きでいたかしら
| はじめてあなたに会ったときの
| 紙に落としたコカコーラのような気持ち今は
| どこにあるんだろう
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| 等間隔にきざむ弦楽器の音
| 不安なこころに手のひらをあてる
| ほがらかにうたうあなたを不思議に思って
| 見上げる日もあった
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| A型のひとをさがしたり
| こっけいな旅でしょう
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| スカートの裾が
| 前ばかり短くなる
| 私もうたっていた
| (だった)ね
| 手をあててうたっていた
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| とどいた手紙には
| よい
| ことが書いてあるのに
| 泣けてくる
| 涙の音に
| 同情したりして
| しずかに夜にとつ入する
| 今からは夜なので
| あなたの肩を押し、戻す
| ここからは夜なのでふれず
| 夜なので
| ひとりになって帰ってね
| ひざを折ってひざを折って、踊っているように
| よいにおい
| 遠ざかっていく
| ほんとうに好きだったの
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<詩>悲しい話(坂輪綾子へ
<詩>リボン(坂輪綾子)へ
<詩>(関富士子)へ
悲しい話
| いい匂いのする銀行の前を通り過ぎる
| いちど吸ってから吐いたような春の空気が
| 駅前を霞めている
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| 悲しい話のはじまりは悲しいとは限らない
| あなたのことをとても気に入っている し さわり たいの と
| 同じくらいき
| き?
| きりがない
| 今すぐに逃げ出したい
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| 体をかがめて靴紐を結び直す
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| はやく走ったり
| お腹いっぱい食べてねむる
| できたての皮ベルトのようなあなたの人生
| あたたかくしなっている
| 私にはさわれない
| 切望する
| 私は泣きながら目を覚ました
| わるい夢は私の一部だ
| 深く食い込んでいてはがすことができない
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| あなたの腕にさわる
| こんなに会いたいのなら
| 会わなくてもよかった
| 言葉を使い切らないようにゆっくり歩く
| 手を伸ばせばとどく
| けれどもそんなふうにこと足りてはいけない
| 座面のまだかすかにぬくもる椅子に座る
| あなたと話をする
| 悲しい話ではない
| 国道は真新しい臓器のように光っている
| 春の夕暮れを耐える
| 悲しい話のおわりは悲しいとは限らない
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<詩>無色透明の夢(坂輪綾子)へ
<詩>リ・サイクルな子ども(坂輪綾子)へ
無色透明の夢
| 眠りをあごまでひっぱり上げても
| みることのできない
| 無色透明の夢
| 声やにおいや手ざわり熱でできている
| まぶたをどけても夜は続く
| ざああああ、と
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| あなたや彼女やあのひとは
| へんとつくりのように
| こくこく姿をかえ現われる
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| 手のひら
| 大きなでっぱりとへこみ
| 指先
| 小さなぎざぎざ
| その中間にあるでこぼこ
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| メガクラム
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| 色つきには
| きっと
| 目が眩む
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| あなたは無色透明の夢をみたいと言う
| 一度でいいから
| みてみたいなあ
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| 私の前で行ったり来たり
| ステレオで
| みてみたいなあああ
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| パチン
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| 私は手さぐりでほほえむ
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<詩を読む>詩のリアリティを求めて―森原智子の詩「飲茶店『クレオール』考」を読む(関富士子)へ
<詩>悲しい話(坂輪綾子)へ
<詩>甦る9月(関富士子)へ