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vol.27

坂輪綾子の詩2 詩集から

リ・サイクルな子ども悲しい話無色透明な夢


リ・サイクルな子ども


ひざを折ってひざを折って、近づいてくる
よいにおい
あなた
よい
春だから
うきうきしているのかと…
ほほをゆるめる
泣けりゃあそ れでも
じれったそうな風をひと刷け
  
じまんにしていた子ども
いなくなって
春になって
また市ヶ谷の並木を歩く
子どものことはとにかく
私のいないあいだ私のこと
好きでいたかしら
はじめてあなたに会ったときの
紙に落としたコカコーラのような気持ち今は
どこにあるんだろう
  
等間隔にきざむ弦楽器の音
不安なこころに手のひらをあてる
ほがらかにうたうあなたを不思議に思って
見上げる日もあった
  
A型のひとをさがしたり
こっけいな旅でしょう
  
スカートの裾が
前ばかり短くなる
私もうたっていた
(だった)ね
手をあててうたっていた
  
とどいた手紙には
よい
ことが書いてあるのに
泣けてくる
涙の音に
同情したりして
しずかに夜にとつ入する
今からは夜なので
あなたの肩を押し、戻す
ここからは夜なのでふれず
夜なので
ひとりになって帰ってね
ひざを折ってひざを折って、踊っているように
よいにおい
遠ざかっていく
ほんとうに好きだったの

詩集『クモラス』思潮社2001年刊より
「リ・サイクルな子ども」
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tubu<詩>悲しい話(坂輪綾子へ
<詩>リボン(坂輪綾子)へ
<詩>(関富士子)へ


悲しい話


いい匂いのする銀行の前を通り過ぎる
いちど吸ってから吐いたような春の空気が
駅前を霞めている
  
悲しい話のはじまりは悲しいとは限らない
あなたのことをとても気に入っている し さわり たいの と
同じくらいき
き?
きりがない
今すぐに逃げ出したい
  
体をかがめて靴紐を結び直す
  
はやく走ったり
お腹いっぱい食べてねむる
できたての皮ベルトのようなあなたの人生
あたたかくしなっている
私にはさわれない
切望する
私は泣きながら目を覚ました
わるい夢は私の一部だ
深く食い込んでいてはがすことができない
  
あなたの腕にさわる
こんなに会いたいのなら
会わなくてもよかった
言葉を使い切らないようにゆっくり歩く
手を伸ばせばとどく
けれどもそんなふうにこと足りてはいけない
座面のまだかすかにぬくもる椅子に座る
あなたと話をする
悲しい話ではない
国道は真新しい臓器のように光っている
春の夕暮れを耐える
悲しい話のおわりは悲しいとは限らない

詩集『クモラス』思潮社2001年刊より
「悲しい話」
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<詩>リ・サイクルな子ども(坂輪綾子)へ


無色透明の夢


眠りをあごまでひっぱり上げても
みることのできない
無色透明の夢
声やにおいや手ざわり熱でできている
まぶたをどけても夜は続く
ざああああ、と
    
    
あなたや彼女やあのひとは
へんとつくりのように
こくこく姿をかえ現われる
    
手のひら
大きなでっぱりとへこみ
指先
小さなぎざぎざ
その中間にあるでこぼこ
    
メガクラム
    
    
色つきには
きっと
目が眩む
    
あなたは無色透明の夢をみたいと言う
一度でいいから
みてみたいなあ
    
私の前で行ったり来たり
ステレオで
みてみたいなあああ
    
パチン
    
    
私は手さぐりでほほえむ

詩集『かんぺきな椅子』1996年東京美術刊より
「無色透明の夢」
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<詩を読む>詩のリアリティを求めて―森原智子の詩「飲茶店『クレオール』考」を読む(関富士子)へ
<詩>悲しい話(坂輪綾子)へ
<詩>甦る9月(関富士子)へ
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