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 2013年11月の独想録


 11月25日 時間と霊性の進化
 スピリチュアルの教えによれば、人間はこの地上に戻らなくてもすむくらいに霊性を進化させるまで、何回も生まれ変わりを繰り返すという。その数は何百回にも及び、何千回と主張する人さえいる。そうして、この人生でさまざまな経験をし、さまざまな教訓を学んでいった末に霊性が進化し、地球から卒業できるというのだ。私は若い頃、なぜこんなにも生まれ変わらなければ、人間の霊性は進化しないものなのかと疑問に思った。人生、平均寿命でいえば80年もある。80年といえば、かなりの時間である。それだけの時間があれば、さまざまな経験を積み、さまざまな教訓を十分に学ぶことができるのではないかと思っていた。
 しかしながら、初老と言われるような年齢に入りつつある今、80年という歳月は、そう長いものではないのだということがわかってきた。人生というものは、20歳までは長く感じるが、それ以後はどんどん時間が立つのが早くなっていき、気がついたら30歳、いつのまにか40歳、50歳、そして60歳となっていく。
 もちろん、霊性が進化するような生き方ができる環境に身を置いたならば、たとえ80年でも十分なのかもしれない。しかしながら、少なくとも今日の日本の一般的な社会システムでは、霊性を進化させるという点できわめて不利ではないかと思う。
 その大きな理由は「時間」だ。先日、ある大手企業が「残業廃止運動」をしているというニュースをテレビで放映していた。8時以後は残業してはならないという社会規則ができたのだ。この時代、9時から5時までしか働いていないという人は珍しいであろう。多くの会社が8時、9時と残業し、さらには10時、11時まで毎日のように残業していたりする。しかも、週休二日ではなく、週休一日であったり、休日出勤までしていたりする。
 こうなると、会社がある日は帰宅しても入浴して寝るだけしかできず、休日も疲れを癒すために半日くらい寝ていなければならなくなる。こんな生活を20代から定年まで続けるとなると、人生の時間の大半は仕事で費やされることになってしまう。
 だが、これでは霊性が進化するはずがない。これでは、何百回も何千回も生まれ変わらなければならない理由もうなづける。
 仕事帰りには、友人と夕食でもしていろいろ語り合うことができることも大切であるし、コンサートや演劇など芸術を鑑賞したり、家族と語り合ったり、本を読んだり、趣味を楽しんだりといった、さまざまな経験が、霊性進化には必要なのである。そして休日にはのんびりと家庭菜園や庭いじり、あるいはハイキングなどをして、自然に接するということも必要なのだ。だが、そのようなゆとりのある人はどれだけいるだろう。
 もちろん、仕事を通して霊性が進化させられる機会は少なくない。仕事は、霊性を進化させるうえでもっとも効果的なチャンスであることは否定しない。しかし、それだけでは偏った人間になり、心はまるでロボットのようになってしまう。
 こうした、人間としてもっとも大切なことを理解している企業家はどれだけいるだろうか? ただ経済効率だけを考え、社員を働かせて疲弊させているのではないだろうか? 
 もっとも、この問題は企業家だけに責任があるわけではないことも確かである。もし残業をやめてしまったら、会社の競争力が落ちてしまうかもしれない。最悪、倒産ということもあり得るかもしれない。残業をさせないために人員を増やすゆとりがある会社は多くないだろう。
 こう考えると、仕事ばかりして霊性の進化が促進されにくいこの社会システムの責任は、日本、いや世界の一般的な人類の意識にかかってくるように思われる。人類の多くが、金やモノの豊かさよりも、霊性を進化させることが人生でもっとも優先され大切にされなければならないという価値観を持たない限り、この社会で霊性を効率的に進化させていくことは、きわめて難しいと言わざるを得ない。
 そんな中で、残業廃止運動を起こした某起業は(残業廃止の目的や意図はわからないが)、人類の霊性改革に対するひとつの大きな挑戦であるという側面も持っていると言えるかもしれない。


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