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 2014年1月の独想録


 1月20日 母の認知症がひどくなる
 先日、母(83歳)が入居している施設から連絡があった。飲食物を受け付けなくなり、数日、点滴だけで過ごしているという。施設の職員がいうには、「毒を盛られる」といっているらしい。そして、点滴だけでは状態が悪化しそうなので、入院させることになり、施設の人が病院に連れていってくれた。私もすぐにその病院にかけつけたところ、今度はその病院のドクターから「たった今、おむつ交換をしたら、大量の下血があった。うちでは処理しきれないので別の病院に移します」といわれ、私は母と一緒に救急車に同乗して別の病院へ行った。そして、そこにしばらく入院することになった。
 その病院は、(近くに入院できる部屋の空いている病院が見つからなかったので)自宅からクルマで1時間もかかる田舎町の山にあるが、非常に大きな病院で患者数も多く、検査も順番待ちの状態で、母の精密検査も来週になると言われた。下血は今のところとまっており、小康状態を保っている。
 肉体の方は、けっこう衰弱しているものの、思ったよりひどくないので安心したが、認知症の方がひどくなっているのに驚いた。入居している施設の職員がいうには、昨年の暮れくらいからひどくなったという。意味不明なことを言うようになり、夜中に突然着替えて玄関に行き、「これから息子(私)が迎えに来て出かけることになっている」などと言っていたこともあったという。
 施設に入居する前あたりから、ときどき意味不明なことを口にすることはあったが、今回は面会している間中、ずっとおかしなことを言うようになっていた。自分は霊能者であり、何でもわかるのだと言って、私に向かって「東大に合格したわよ。家に帰ってごらんなさい。合格通知が来ているから。私にははっきりとわかるの」などと真顔で言ったり、「昨日の夜、女の子が殺されそうになったから、私が行って助けてあげたの(車いすなしでは一人で移動もできないのに)」だとか、「今日、餅つき大会があるから、食べていって(そんな催事はまったくない)」などという。他にも次から次へと意味不明なことを言い、「それは事実ではない、妄想だよ」といっても、まったく受け入れようとしない。「私は霊能者だから何でもわかるの。見てなさい。必ず当たるから」との一点張り。なので、何を言ってもまともな会話ができなくなってしまった。
 この一ヶ月あまり、このように、急激に認知症がひどくなり、困惑している。施設の職員からは、精神科を受診してくださいと頼まれている。妄想がひどいので、これが認知症によるものなのか、それとも認知症(高齢)とは直接には関係のない精神病なのかはわからないが、とにかく人間というものはこうなってしまうのかと考え込んでしまった。まともな会話ができないので、母の肉体はそこにあっても、母そのものはいなくなってしまったような感覚を受けてしまう。
 妄想の症状を呈する代表的な精神病と言えば、統合失調症だが、妄想を抱く人は、心の中で浮かんだことと現実との区別がつかなくなるようである。確かに健康な人でも、自分に都合のいいように物事を解釈してしまう傾向は持っている。ニューエイジの精神世界などでは、頭に浮かんだ思いを「守護霊や宇宙人からのチャネリングだ」などと思い込んでいる人さえいるようだ。だが、こうした傾向がひどくなると、結局、妄想という精神病に領域に入り込んでしまうのではないだろうか?
 だとすれば、普段から、しっかりした根拠のないことをそれが事実であると思い込んでしまうクセや傾向がある場合は、注意した方がいいのではないかと思った。要するに、自分がそうに違いないと思っただけでそれが事実だ(あるいは嘘だ)と安易に判断する傾向というものは、歳を重ねて脳の機能が全般的に低下してしまうと、ついには自分の思いと現実との区別がつかなくなって、妄想という症状となって現れるようになってしまうのかもしれない。
 安易に白黒を決めつけるのはやめよう。何かを判断するときは、慎重に理性を働かせて、その根拠をしっかりとさせた上で、そのようにしよう。それでもわからないなら、「わからない」ままにして、そのことをを認めよう。どんなことも、安易に信じるのはやめよう・・・。
 母の変わり果てた姿を見て、私はそう思った。
 
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