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vol.19

木村恭子の新作詩 1

旅支度しがつく四月踊り場の暗がりから兄は黄砂気象通報訓練みせの名前メール春の帽子の作り方



旅支度



 八時半出発のバスは駅前から出ます。旅支
度を整え 急いでバスのステップを登ると 
もうあらかたの客は それぞれの席に着いて
険しい顔で前を向いています。やっと棚に荷
物を載せました。これでよし。まだバスは出
発しそうにないので あわてて家に取って返
します。走りながら振り向いて 古都桜巡り
・竹の子御飯食べ放題 というパネルがバス
の正面に掲げてあるのを 確かめます。
  
 戻ると 子供が朝食をとっていました。そ
うそう 布団も上げて 掃除もしておかなく
ては。腕時計をチラッと見ます。悠久の都・
遥かなる歴史の旅は午後出発ですから まだ
時間はたっぷりあります。旅支度をしなくて
は。古都桜巡りに 一番大きい鞄を使ったの
で天袋の中を覗いても 四泊用の鞄がありま
せん。それに 新調した桃色のワンピース等
旅行中の着替え 化粧ポーチ カメラ スタ
ンプ帳 財布といった物も 八時半に間に合
うように持って行ってしまったので 家には
ないのです。おかしい。昨夜遅くまで ニイ
ハオ シェイシェイ と練習しながら整えた
のは悠久の都への旅支度ではなかったでしょ
うか。
  
 そうなのでした。午後出発の四泊の旅支度
を整え やっと眠りに着き それよりも一泊
桜巡りの出発の方が早いのだから そっちを
先に支度しなくちゃあと 真夜中に気づいた
のでした。それで 眠たいなあと思いながら
鞄を逆さにして中身を全部出し 一泊用の小
さめの鞄に入れ替えようとしたのですが チ
ャックがどうしても閉まらないので 傍にあ
った一番大きい鞄に詰め それを今朝 バス
の棚に載せた来た訳です。
   
 そんな事を考えていましたら 御飯粒をほ
っぺたにつけた子供が おかあさんどうした
のと聞きます。おかあさんはこれから ゆう
きゅうのたびにでかけるんだよ と答えます。
ゆうきゅうってなあに と言いますので き
のうのずっときのうのまえから あしたのず
うっとあしたのさきまでのこと と言ってや
りました。それより 早く食べて学校に行き
なさい。おかあさん ホラ まどになにか 
と言いますから 又 ごまかしてと悲しくて
そっちを見ると 桜巡りに出発しますが と
犬の姿をしたバスがそう言いました。ハイハ
イどうぞ 待たせて悪かったとつくづく思い
ました。
  
 鞄も財布も着替えもないし 仕方なくスー
パーの袋の中に下着だけ入れます。時間があ
るので 天気予報を見るためにテレビをつけ
ました。春爛漫の日よりです と綺麗なアナ
ウンサーが言っています。桜の花が見事に咲
いて その下で沢山の人々が 御弁当を開い
てニコニコ笑っています。ずうっと大写しに
なって 私がいます。竹の子御飯をほっぺた
につけた子供に何か言っているようなのでし
た。
  
 ああ ちゃんと着いたんだわ これで安心
して悠久の旅に出かけられると思いました。


<詩>「旅支度」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>蛍(木村恭子)<詩>午後の光(関富士子)<詩>河の風景(関富士子)


 




 電車が鉄橋を渡る音が響き そうして目覚
めます 渡りきってしばらくすると ゴトン
ゴトンというしめやかな音に混じって ズゥ
スィー トュルッ ズィーというかすれた音
が 床の方から聞こえてきます 見ると 少
し離れた席にすわっている人が 杖の先で床
に文字を書いているようなのでした あ 詩
なんだと思い ピアニストは何本ものキーを
使うのに あの人は一本の杖で詩を書く事が
できるなんて と そう思い 誰かを橋の上
から見ている詩 なのだと分かりました
  
 市街地を離れて行くのでしょう 家々のあ
かりはもう消えて 窓の外の深い暗がりの向
こうへ 誰かが歩いて行きます 追いかけな
くてもいいのですか ええ いいのです 杖
の人は目を伏せてうなずきます それからも
う一度 両方の靴を揃え ズゥスィー トュ
ルッ ズィーと 握り締めた杖の先を ゆっ
くりひきずり 散歩をするように詩を書き続
けます
  
 * きみは川べりにそって歩いて行く。い
  つ家を出たのか、覚えていない。夜にな
  ろうとする時間に川べりを歩いているの
  に気付く。
  
 やがて 杖の言葉は 私に向けてはなしか
けられているようなのに気付きました 
  かわべりを ただあるいているそのひと
  をみることで そのころのわたしは な
  ぐさめられたものでした
  
 杖の言葉の声は ひとの眠りのようで 泡
の混じった吹きガラスのようです 揺れる電
車の中では天井から 時々 水滴が落ちてき
ます 薬草の匂いもするそれは 蛍 という
ような一粒の名詞だという気がしました
  
  いったい そのひとがどんなかんじであ
  ったか もうおもいだすことはできませ
  ん わたくしもすっかりとしをとりまし
  たから でもはじめてあったひのことは
  おはなしできます さいしょのかなしみ
  のひに いまはどこにもないばしょで
  
 今はどこにもない場所で と言った時 離
れた席のその人の杖が 床からそっと持ち上
げられて 小さな円を描いたのを覚えていま
  
 あの時 頬をかすめた 水薬の雫のような
ものは 澄んでゆく という動詞のようなも
のではなかったかと 後になって ボンヤリ
と思ったりもするのですが


*水沼靖夫詩集『水夫』「館」より引用
<詩>「蛍」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>しがつく四月(木村恭子)<詩>旅支度(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)




しがつく四月



正連寺の裏庭に
沈む夕日
下着を取り込む奥さん
仕事をなくした人が
下を向いて挨拶する
しばらくでした
しっぽの長い三毛猫が
所在なさそうに歩いている
  
シカゴを出た
白髪のハリー氏は
 しは怖くないが と
忍び足の三毛猫トントに語り
 し線のさなかの苦痛こそ と続け
 しは他人に分かるが
 しの痛みは他人には分からない とも
しばたく老眼でつけ加えたのだ
  
知らん顔して夕餉に向かう
正連寺の三毛猫はトントであり
人生は大いなる暇つぶしである と
芝居がかった手紙をくれた
私立高校の日本の先生は
しについて語るハリー氏である
  
正連寺の夕闇のなか
信徒会館にあかりが灯り
し者をねぎらうために
精進料理を運ぶ人々の
静かな影が
障子に映る
  
下手をまわると
史跡の説明板のまわりに
羊歯がごっそり根づいており
下の干からびたところから
新芽が匿われながらも
しっかりと直立し
茂っていく気負いを示している
失業も
失恋も
疾病も
し でさえも
失敗には値しない とささやいて
  
四月である


*印 映画「ハリーとトント」より
<詩>「しがつく四月」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>踊り場の暗がりから兄は(木村恭子)<詩>蛍(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)




踊り場の暗がりから兄は



 消防署の北側 陸橋の階段の踊り場中程。コンクリートの床が剥がれたり穿
たれたりして 雨の後は水が溜まり 夜間の冷え込みによってそれが凍る事が
ある。ビルと階段の位置関係により 踊り場には一日陽が差さない。陸橋が白
く乾く午後になっても そこだけはまだ染み氷のままで しゃがみ込んで見る
と薄いガラスのような破片の姿を 暗がりの中でとどめてさえいる。          
                      
  暗がりの中 楽屋から舞台に通じる廊下を渡りきると階段。それはほんの
 数段であるが 上がると舞台の床面が始まる。天井から黒く厚いカーテンが
 垂れていて スポットを浴びる舞台と 階段を上がったばかりの踊り場のよ
 うな床面との しきりを果たしている。踊り場に兄が立っている。その横に
 は すがるように兄を追って来たわたし。階段を照らす遠い場所からの鈍い
 光源におされて 二人の影がカ―テンに写っている。カーテンの襞に揺れる
 ように 頭の方がひどく大きくゆがんだ形になって とてもボンヤリと・・。
 擦り切れた袖口から出ている兄の両の拳の影は 襞に邪魔されて小さな手袋
 のようでもある。    
                     
 手袋を脱いで氷を取り出すと 破片から水滴がつ―っと手首に伝わる。氷は
誰かに踏まれたかして端が尖って それは何にも媚びないで小さくそそり立っ
ている。今 手首に刺せば斬れもしよう。階段の上から誰か下りて来る。                 
                      
  誰か市民ホールの舞台中央から下がって来る。次に上がって行く兄は こ
 れから血族を裏切って秘密を暴き自らを晒し者にするために 黒い厚いカー
 テンの奥で もうじきわたしを振りほどくのだ。今朝早く 母はわたしに泣
 くようにして命じた。行くのはヤメテ そう言って兄さんを止めておいでと。               
  
 そこ 凍ってるよ と声をかけて止める。階段を下りて来たのは 汚れた自
転車を抱え歯を食いしばって耐えている若い男。陸橋のあちら側からこの人は
やはり重たく濡れた自転車えを抱え すきっ腹から唸り声をあげながら階段を
上がって来たのだ。その人はけれども私をちらっと見ただけで 胸を反らせて
過ぎて行った。
  
  そう。傲然と胸を反らせ頭を上げて。そのように 兄は踊り場の暗がりか
 ら舞台の 明るみへと出て行ったのだった。抱え切れない程重たいものをず
 うっと引き摺りながら・・。裾のほつれた短いスカートを着た妹を残して。


<詩>「踊り場の暗がりから兄は」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>黄砂(木村恭子)<詩>しがつく四月(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)




黄砂



 午後のコンビニは閑そうで 髪にピンを一杯つけた店の人が こちらをじっ
と見ているようなのです 楽譜を二枚 それと短編小説の一頁を コピーしま
す 少年が主人公の小説で 一家の暮らすアパートの上の階に いかがわしい
職業の 美しい女の人が住んでいて その沈黙や喧騒を 詩的に綴った どち
らかと言えば 喜劇に近いと言えるでしょう 店には新しいコピー機が備えら
れていて わたしの後から 知らない人が 何か一枚の 紙を持ってやってき
ました わたしは コピー機の扱いがよく分からないので お先にどうぞ と
言います いいえ たくさんありますから 知らない人はそう言って微笑みま
す いそいで 機械の扱い方の説明シートも読まないで わたしはコピーしま
す 本当に いそいで
  
 そのあと 花屋に寄ります 黄桃色と薄紫の菫の苗を五個ずつ買います 麻
雀屋の入り口にあるその店は 南向きなので お花がよくしおれています 店
の女の人は 長い髪の お化粧をしない人です 裾がかっぽり浮いたような 
Vネックの畝編みセーターの中で汗をかいた乳首が上を向いているようなので
した 財布を出していると その人が きょうはすごい黄砂で と話し掛けま
す ホラ 窓山があんなに でもわたしの方は 財布がなかなか出てこないの
でした 足元に チューリップを浸けたバケツが置いてありました 後ろから
されている時の 白いうなじのようでした
  
 陸橋を渡りながら 窓山を眺めました 稜線がけぶって 中腹にある植物園
は しだいに黄砂に埋もれていくようなのでした ふと気になって コピーし
た楽譜を取り出してみました 思った通り 紙のサイズが間違っていて 楽譜
の最後は 二枚とも途切れていました これがわたしなのです 自分のこうい
う性格のため わたしは今も だれかを悲しませているのだと そう思いまし
た どこか ずっと遠い わたしの知らない場所で 


<詩>「黄砂」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>気象通報(木村恭子)<詩>踊り場の暗がりから兄は(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)




気象通報



傘 と一言メモしてある
まるで 覚えがない
  
  あなたの詩は
  長くて湿っぽいのね
朗らかな妹は
そう言って
一日中 ずっと
ラジオ第二放送を聞いている
行き届いた簡潔な言葉を
頭に入れるのに
  とてもいいわ
  
大島 南南西の風 風力五 にわか雨 
 一三ヘクトパスカル 十度
御前崎 北北東の風 風力二 雨
 一三ヘクトパスカル 五度
ハバロフスク 南西の風 風力三 曇り
 十五ヘクトパスカル マイナス十七度
ウラジオ 北の風 風力三 雨
 二十三ヘクトパスカル マイナス一三度
ソウル 西北西の風 風力一 曇り
 二十七ヘクトパスカル マイナス6度
ウルルン島 北東の風 風力四 雨
 十九ヘクトパスカル マイナス一度
  
妹は
左耳の入り口に
新五百円硬貨を 立てて突っ込み
耳の穴を縦長に広げ
昨夜も 熱心にメモを取っていた
ボーと眺めているわたしに
  早く ポイントだけ書く練習を
と 急がせたのだ
良く気がつく妹は
このようにして 尚更
風通しが良くなるのだろう
  
さて 傘 である
  
届けに行くつもりなのだろう
か わたしは
行き先は
大島か 御前崎か
ハバロフスクか ウラジオか
ソウルなのか ウルルン島なのか
  
わからない
ので
最初の切符が買えない
  
誰かが 部屋から出られなくて
わたしを待っている と 言っているのに


<詩>「気象通報」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>訓練(木村恭子)<詩>黄砂(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)




訓練



  
初めて出会った野良犬が
ずっと ついて来て
音吉 かね子
フランソワーヌ ビクター
そのほかにも呼んで
そのたびに 尾を振る
  
これから 千年たっても
ちいさな子は
いないいない ばー が好きかしら
いろんな名を持つ
この小犬も
やっぱり
そういうのが好きかしら
  
スッと 身を隠した壁の縁からうかがうと
いつまでも
じーっと
もういない私を見つめている
  
やかましくこっちを呼び立てて
やっと口をつぐんだ
と 思ったら
急に居なくなりゃーがって
と 思ってるかしら
音吉は
  
ヘンな人だったよ
でも、たまにつまらない時には
ああいう人もいいもんよ
って 友達に話す?
かね子は
  
あたいに
何もくれないで
もう戻っては来ない
と フランソワーヌは
詩を作ってる?
  
ビクター 聞こえる?
  
これはね
訓練なんだよ
永い 永い
不在に耐えるための
  
見えなくなっても
ホラ
匂い や 気配
を まだ
感じることができるでしょう


<詩>「訓練」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>みせの名前(木村恭子)<詩>気象通報(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)


みせの名前



西国街道 草津にある
大石餅屋本舗跡には
参勤交代の頃の
店の 隆盛を伝える石碑が
今も 残っている
という新聞記事を読んで
電車が一日ストをした日
徒歩での帰りに寄ったことがある
  
大石餅屋本舗跡では
石碑の横に
巨きな石があくびをして転がっていた
  
   惣右エ門お国という夫婦者
   餅商を始めし時
   店頭に大石ありしにより
   名付けたるものなり
  
石碑の中程には そのように刻まれ
苔むした あくび石は
   これが その石です
という板書きを添えられて退屈していた
  
立ち去ろうとする私の背に
高校生が自転車で近づき
片手運転の制服の袖から
朱いセーターの袖口をのぞかせて
通り過ぎて行った
闇のようなものも
遅れてついて来ていた
  
街道沿いの軒の低い
うだつを並べる家並み
黒塗りの長い板塀
春宵の風鈴
  
  
  
ところで
今朝 私は
山中ピアノ店 
という 活字を見た
  
今度 
行ってみよう
  
冬枯れの 野をよぎり
梢をわたる 風の道をくぐり
リュックを背負って
  
山の 中の
ピアノ の
店へ


<詩>「みせの名前」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>メール(木村恭子)<詩>訓練(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)


メール


冬の最初にやってくる
白い翼の小さな鳥について 調べているうちに
あなたのホームページに辿り着きました
わたしは あなたのページの
小鳥の写真がとても好きです
メールを送っていいですか
私は海辺の保育園で 給食を作っています
  
お返事ありがとうございました
お仕事 ずいぶん忙しそうですね
今日 保育園では お遊戯会がありました
私の大好きなリュウ君は
ダブダブの狸のぬいぐるみを着せられて
舞台の端から端へ
トコトコと歩いて行くだけの役でした
お鼻の下がただれて赤くなっていましたが
でも とっても 可愛らしかったです
  
お返事ありがとうございました
お風邪の具合はいかがですか
暖かくなさって ゆっくり休んでください
今日 リュウ君は
両方の手を包帯で グルグル巻いていました
保母さんに聞くと
「もう あそこの親は!
リュウを焼肉屋に連れてったら
鉄板の上にリュウが手をついたんだって
どうせ ろくに見てやしなかったのよ」
って 怒っていました
かわいそうなリュウ君
  
お熱は下がったのでしょうか
私へのお返事はいりませんからね
今日 リュウ君の包帯が真っ黒だったので
勝手に救急箱から新しい包帯を出して
代えてあげました
すると どうでしょう
リュウ君の手のひらは
皮がずる剥けて 膿んでいました
保母さんに言ったら
「そこまで責任を持つ事ではないし
まして あなたの仕事ではない」
と言われました
でも お母さんには注意してくれるそうです
リュウ君は泣かなかったけれど
帰る途中 海を見ていたら
私は泣けて仕方ありませんでした
  
ゆっくり休んでいらっしゃいますか
私がリュウ君を好きなのは
リュウ君が 朝 チョコチョコっと
給食室に一人でやってきて
私をじっと見つめて笑ってくれるからです
「この子は 朝御飯を
食べさせてもらっていないから」
って 捜しに来た保母さんが言います
リュウ君が私に会いに来てくれるのは
それだけだからかなあ
  
海からの風は冷たいですが もうじき春です
鳥が 帰って行く準備をしています
お返事がなくて 二ヶ月たちました
入院なさっていらっしゃるのかなあ と思ったり・・・
私の一番大好きなリュウ君は
ここのところ 保育園に来ません
保母さんに聞くと 連絡がとれないそうです
帰りに リュウ君の両親が住み込みで働いていた
パチンコ屋へ行ってみました
でも 中には入れませんでした
  
お元気でいらっしゃるのでしょうか
もし 何かで留守にされているのなら
帰られた時 ご連絡下さらないでしょうか
リュウ君は退園して行きました
やっと 連絡がついた日
「もう そこには行けない
遠い所に行くから」
と お母さんが電話を切ったそうです
帰り パチンコ屋に行ってみました
お店は閉まっていて
待っていても 誰も出て来ませんでした
  
五月になりました
海はゆるんで 人々が潮干狩りにやってきます
どうしていらっしゃいますか
私はとてもさみしいです
あなたのページは十二月のままです
お元気になられて
鳥の写真を撮るために 遠い国を
旅し続けておられるのでしょうか
あなたへのメールは
これでもうおしまいにします
私も リュウ君を捜しに出かけます
見つかったら
又 連絡しますね


<詩>「メール」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>春の帽子の作り方(木村恭子)<詩>みせの名前(木村恭子)


 

春の帽子の作り方


冬の硝子が昏く削がれ
薪の火もふっと消えました
  
 もっとおより こっちへ
 さあ
 美しい絵本を読んであげよう
 おまえのような
 愛らしい 令嬢のお話を
  
 いやよ おとうさま
 ロウソクのともしびだけでは
 お胸の茂みの
 青い疵が
 よく見えなくてよ
  
そこで
彼は
シーツを落として立ち上がり
埃の匂うカーテンを
スルスルと開けます
  
 こわいわ おとうさま
 だれかが見ている
 それに
 とってもさむくてよ
  
 もっとおより
 さあ もっと
 おまえの胸の
 白い小さな丘の上の
 ローズ色した
 ふたつの
 春の帽子を
 さあ
 みせておくれ
  
月は 息をのんで
目を伏せて
眠ったふりをしています



執筆者紹介(きむらきょうこ)へ
<詩>「春の帽子の作り方」縦組み横スクロール表示縦組み縦スクロール表示
tubu<詩>非常口(木村恭子)<詩>メール(木村恭子)<詩>河の風景(関富士子)
rain tree indexもくじback number19 もくじvol.19back number vol.1- もくじBackNumber最新号もくじ最新号ふろく執筆者別もくじ詩人たちWhat's New閑月忙日rain tree から世界へリンク関富士子の詩集・エッセイなど詩集など