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 2003年10月の独想録


 10月5日 もっと愛があったなら
 私はホスピスにカウンセラーとして勤めているが、心の病に悩む外来患者さんや、入院している余命いくばくもない癌患者さんの相談相手をして、しばしば心に浮かんでくる言葉は、「もっと愛があったなら」であった。
 もっと愛があったなら、こんなにも心がズタズタにならずにすんだに違いない。
 過食にも拒食にも、引きこもりにも、鬱にもならなかったに違いない。
 そしておそらくは、癌という病気にもならなかったのではないか?
 私は、カウンセラーとして患者さんに接することに、どこかに後ろめたい気持ちを抱えていたように思う。私からいわせれば、患者さんの苦悩のほとんどは、直接的であれ間接的であれ、愛の不足から来ているというのに、いったいカウンセラーという「職業」の立場から、患者さんの苦悩を和らげることのできる唯一の解毒剤である「愛」を、どうして与えることができるというのだろうと。
 愛は無条件であるはずなのに、カウンセラーの立場から「愛」を語るとしたら(つまりお金をもらって愛するマネをするのだとしたら)、それは「精神的な売春」ではないのか?
 私からいわせれば、カウンセリングの「技術」で人を癒せると考えるのは幻想である。もちろん、技術が不必要だというつもりはない。技術は大切であるし、一所懸命に学ばなければならない。だが、技術はあくまでも愛の表現手段のひとつとして用いられたときにのみ効果を奏するのであって、技術そのものが全人的に患者さんを癒すことはないと思っている。


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 10月24日  UFOキャッチャーの達人
 もうずっと若い頃のこと、私はあの「UFOキャッチャー」の達人であった(“達人”という言葉は少し大袈裟かもしれないが)。UFOキャッチャーが上手だと、ぬいぐるみなんか取ってあげて女の子に人気が出てくるので、男性読者のために、ここでその秘伝を特別にご紹介させていただこう。
 UFOキャッチャーを成功させるコツは、いくつかある。
 まず、「欲しいモノ」をめがけて取ろうとしてはならない。プロ(?)は、最初から「取れるモノ」しか取ろうとしない。そのとき、女の子から「あれ取って!」とせがまれて、それがどうみても取れそうもない場合、「無理だ」といっては男が下がるので、「あんなものはくだらないよ、それよりこっちの方がかわいいよ」といって、女の子の気持ちを別の取れるモノに向けさせなければならない(笑)。そういわれた女の子は、「それもそうね」といって、新しい対象が気に入ることも多い。自分が本当に欲しいものが何であるか、案外、わかっていないのだ。
 では、どのようなモノが取れるのかというと、形体的にアンバランスなものは、まず取れない。UFOキャッチャーのアームはとてもすべりやすいので、摩擦によってぬいぐるみを支えることは期待できないからだ。ただ、ぬいぐるみの重心にアームをうまくすべりこませて、そのまま投入口に移動させるだけである。そのため、重心にあたる場所にアームをひっかけるようなものが見あたらないようなものは、まずあきらめた方がよい。
 物であれ人であれ、アンバランスなものは扱いにくい。「こうすればこの人とうまくいきそうだ」と思っても、次に会ったときには、それが通用しないことがある。結局、こういう人は、しまいには相手にされなくなってしまうに違いない。
 次に、一回の操作で取ってやろうとは思わないことだ。最初の一回か二回、場合によって三回くらいは、アームがもっともすべりこませやすい位置になるように、ぬいぐるみをころがすだけの作業を行う。多くの人が、せっかちになり、いっぺんにゲットしようとする。それではダメなのだ。物事には段取りというものがある。ときには捨て石となるようなものを最初に配置しながら、計画的にやらないと、欲しいものはなかなか手に入らない。
 こうしてぬいぐるみが見事にゲットできても、決して大喜びしてはいけない。まるで当然のごとく、表情を変えずに、それを女の子に渡さなければならない。このとき大喜びしたら、大変な苦労をしてようやくゲットしたことがバレてしまい、人間の器が知られてしまう。人生というものは、苦しみながら一所懸命に努力しているときは、案外カッコがいいものだ。ところが、成功して油断したときに、醜い姿をさらけ出してしまうのだ。そして、今までの苦労がいっぺんで台無しになる。うまくいったときこそ、気を引き締めなければならない。
 最後に、ゲットに成功した時点でやめなければならない。何事もそうであるが、引き際というのが大切である。成功したままやめれば、「やればまだいくらだってゲットできるのだ」という印象を相手に与えることになる。宇宙には波があり、いつまでも勝ち続けるということはない。達人はその波を読みとり、ピークのちょっと前でやめる。ピークまでやれば、確かにまだもう少しゲットできるのだが、そこまでやると、人生の他の部分に歪みが生じることが多い。「腹八分目」ということわざがあるが、成功についても、8割くらい達成したら引いた方がよい。欲をかいてそれ以上のことを求めると、たいてい、あとでしっぺ返しがくる。かつてのバブル経済がそのいい例だろう。
 さて、こうした達人でも、調子の悪いときもある。そういうときは、さんざんな結果に終わる。しかしこのようなときでも、決して沈んだり、落ち込んだ態度を見せてはいけない。女の子によっては、ぬいぐるみが取れない男に失望し、不満な顔つきとなって、二度とデートしてくれなくなるかもしれない。
 しかし、うまくいかない場合でも平然としている男の態度に惚れて、自分から腕をまわしてくる女の子も、世の中にはいる。そして男の自信を回復させてくれるような、優しい励ましの言葉をかけてくれたりする。そういう女の子こそ、真に愛すべき女の子だ。大切にして、絶対に手放してはならない。人生はうまくいかないことも多く、落ち込むことも多い。だが、ぬいぐるみなんかゲットできなくても、もっともっとすばらしいものをゲットできることもあるのだ。うまくいかないときだからこそ!

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