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 2009年3月の独想録


 3月5日 もっとも好きな季節
 私は3月が一年のうちで一番好きだ。
 本当に好きなのは、実は春まっさかりの4月と5月なのだが、その頃になると、なんとなく暖かさに慣れてしまって、案外、喜びというものは少ない。それに、もうすぐ一年でもっとも嫌いな梅雨になるかと思うと、少しがっかりするのである。
 なので、まだ冬から完全に抜け出しておらず、冷たい雨や雪が降ったりもするが、これから春になるという3月が一番好きなのである。たとえ雨や雪が降っても、もうすぐ目の前に春が待っているんだと思えばぜんぜん苦にならない。そして、ときどき春の匂いがする風が吹いたりすると、もう嬉しさでわくわくしてしまう。
 人生においても、幸せな状態であるときよりも、幸せになることが気配として感じられるようになる、その直前の状態が一番好きだ。
 そして、そんな状態にある人が一番好きだ。
 なぜなら、そんな人にはまず、苦しみを最後まで耐え抜いたという気高さがあり、自信と明るさとゆとりを感じるからだ。まだ不幸のどん底にある人は、やはりどうしても暗いし悲壮感が溢れているし、ゆとりのようなものも、自信もないことが多い。嘆いたり不平を叫んだりする。もちろん、それは無理もないことだし、ある意味で、そのような状態になることも必要というか、意味があるようにも思う。けれども、やはりそういう状態は、あたかも調理の途中の食材のように、まだおいしいと感じるようなものではない。
 かといって、幸せまっさかりという人も、それほど魅力を感じない。幸せになってしばらくすると、人間はつい、その幸せが当たり前のように思えてきて、ありがたみが薄れ、欲が出てきて、いろいろと何癖をつけて文句や不平をいうようになる。かつて今の幸せが訪れたときのすばらしい喜びを忘れてしまったかのように。そんな人間もまた、あまり気分のいいものではない。
 やはり、苦しみを乗り越えた直後の人間というものが、おそらくもっとも美しい。そんな人にはなんともいえないすばらしい笑顔がある。まるで、冬の冷たさに耐え抜いた末に開花する桜のような笑顔が・・・・・・。


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 3月25日 人の痛みを理解すること
 不況で職を失う人が増えているということもあってか、ここ最近、ホームレスの人を取材したニュース報道をよく目にするような気がする。家を持たないホームレスの人たちにとって、冬はまさに命がけのサバイバルであろう。
 私はホームレス生活の経験があるわけではないが、若い頃、ある理由で、テントと寝袋をかついで四国を放浪したことがあった。あるときは駅のベンチで寝たり、公園や河原でテントを張って寝たりした。なので、ホームレス生活をする人がどのような気持ちなのか、ほんの少しだがわかるような気がする。まず頭に浮かぶのは、いかに食べるかであり、次にいかに寝るかということで頭がいっぱいになる。寒さをしのぐのも厳寒の冬の場合は命がけの課題となる。それらがなんとかなると、次に襲ってくるのはひどい孤独感だ。たったひとり、長い夜を沈黙と共に過ごす。誰も声をかけてくれるわけでもない。本当に孤独は辛い。空腹は食物を手に入れればなんとかなるが、孤独を癒すのは簡単ではない。ホームレス生活で一番辛いことは、もしかしたら孤独感かもしれない。
 自動車業界などの大企業が、不況を理由に派遣労働者を解雇して路頭に迷わせている。大企業の幹部連中など、それこそ十分に贅沢ができるほどの高給をもらっているのだから、そういう給料をカットして、せめて派遣社員が次の職が決まるまで住む場所と食料くらい世話をするということが、なぜできないのかと思う。自分の生活を破綻させてまで人を助けるべきだなんていうつもりはない。そんなことができるのは聖者くらいだろう。だが、少しの間だけでも贅沢をやめて人を助けるくらいのことが、なぜできないのか?
 おそらく、そういう幹部の偉い人たちというのは、路頭に迷って外で一夜を過ごすということがいかに辛いことであり、人間の尊厳を奪ってしまうものであるかということが、まったくわかっていないのだろう。
 人の痛みを理解することは難しい。しかし、人の痛みを理解できない人がこの世に増え続けていったら、この世は地獄のようになってしまうに違いない。たくさんの難しい教科を子供達に教えるのもけっこうだが、一番教えるべきは、人の痛みを理解することではないだろうか。しかし、教師自身が人の痛みを理解できなければ、それを子供達に教えることなどできるはずもない。
 もし私が文部大臣で何でも決められる権限があったら、学校の先生になるには次のような科目の体験学習をしなければならない4年生大学を出なければならないとするだろう(半分冗談で半分本気です)。
 1.厳しいノルマを課せられた営業(セールス)活動を1年間。
 2.一日12時間昼夜二交代の工場労働を1年間。
 3.お年寄りや障害者の下の世話をしたり入浴介助をするヘルパーを1年間。
 4.葬儀屋を1年間。

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