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vol.19 

<詩を読む>


このごろ読んだ詩集など


関 富士子

『屋上への誘惑』小池昌代・『蒼茫』斉藤圭子・『心配の速度』四釜裕子・『夏のラクダ色の猫』佐藤恵美子・『韓国現代詩小論集』佐川亜紀
屋上への誘惑』 小池昌代 2001.3.7 \1500E 岩波書店

詩集ではないが、小池昌代の初めてのエッセイ集。個人詩誌の『音響家族』に載るエッセイをおもしろく読んでいて、まとめられるのを楽しみしていた。"rain tree"10号に書いてくれたものも3篇(「沈黙家族」改め「ことばの出てくるところ」母の怒り言葉のない世界)収められていて、とてもうれしい。高見順賞を取った詩集『もっとも官能的な部屋』にも、"rain tree"に猛然と書いてくれた作品がたくさん収録されて、編集者としてとても晴れがましい気持ちだったものだ。
初出一覧を見ると、書下ろしも結構あって初めて読むものも多数。彼女のエッセイの良さは、無骨なほど一つのものをじっくり見つめて考えを深めていくところか。才気があるのに才気走った感じがない。それが送られてきた蟹のこととか、ウインドウを拭く女性の仕草であるとか、酔っ払いの詩人のこととか。ごく何でもない日常の事物がしげしげと眺められ、後ろからも前からもひっくり返されて底の方からも見つめてじっくり書き進めていく誠実さがある。
そこには必ず彼女の詩にあるような彼女だけの発見があって、それが独り善がりにならずに納得のいくまで思索され、読者に手渡される。
 無骨といったが、思索のいたりついた彼女だけの発見は、かなり独特のおもしろさがある。事物や人間を見る目が、やさしく温かいのに、何かとても野太い、図太いところがある。ふてぶてしいおおらかさといったらよいか。それは彼女が事物を表現するときにときどき使う言葉だ。ふーん、小池昌代はこんなふうに感じるんだ、とこちらも発見した気になって楽しみながら読み進む。そういえば「私の領域」という文章にはこんな言葉がある。
「じっと見たり考えたりするのには、「みずみずしい感性」などでなく、むしろ愚鈍な牛のような神経が必要だ。」
小池さんの詩にはたくさんの人が賛辞を寄せてきたが、「みずみずしい感性」という言葉は何度も聞いた。わたしもそんなことを言ったことがあるかもしれない。でも彼女はもしかしたら、そんな賛辞に心ひそかに異議があったのではないだろうか。いいえ、わたしは愚鈍な牛のように書きたい、と言ってこちらをまっすぐに見る彼女の瞳を思い浮かべる。"rain tree"初出のフクジュソウ「母の怒り」を初めて読んだ時も感じたことだが、詩人であることは、詩を書く人生を生きることなんだな。
小池さんは、お酒の席などに話をしているときに、何かちょっと考えるように、うーん、と言いながら一点を見つめることがある。言葉をゆっくり探しながら確かめていくように話す。そんな彼女がとても好もしい。
たくさんの人に読まれるといいな。そして、現代詩読んだことないけど、こんなエッセイを書く人なら詩も読んでみたいなと思ってくれたらうれしい。彼女のエッセイは、現代詩の世界へのよき導きになってくれると思う。

蒼茫』斉藤圭子 \2000E 2001.1.15 詩学社


昨年春に出た『理由』に続く2冊目の詩集。2冊続けて出版なんていとうらやまし。新世紀初、2001年『詩学』新人。わたしも選者として2年間毎月読ませていただいた。感想は言い尽くした気がする。『詩学』2001年1月号から、わたしの斉藤さんの詩に関する発言を一部引用する。
「詩を一つ書くって一つの経験で、最初に言葉を書き始めて書き終わったときに自分が別の人間に変わっているというか、考え方が変わって、書くことそのものが経験になる、そういう詩を書きたいと(わたしは)思っているわけ。でも、別にそれを押しつけるわけじゃないんだけど、彼女みたいに考えて考えて書く人というのは、最終的に考えた末に自分が変化したところを見たいんだよね。」
「たとえば『詩学』で毎月毎月作品が載って、それでもしかして他者に読まれている自分の詩というものを意識してきたときに、詩って変化するんじゃないかと思うのね。それは別に悪いことでも何でもなくて、その辺に開かれた感じがもうちょっと見たい。ありそうな気もするんです。」
こんな褒めことばも、あんな批判も、何もかも忘れて思いきりご活躍を!

心配の速度』四釜裕子 2001.1.1 \1000E highmoonoon ご注文は著者四釜裕子さんのHPbook bar 4

highmoonoonは、同人誌「gui」のメンバーでタイ在住のジョン・ソルトさんの出版社。彼を発行人にして立て続けにgui同人の詩集が3冊出た。
山口謙二郎の『明日の何処
四釜裕子の『心配の速度
奥成達の『夢の空気』。
いずれも2001年1月1日づけ。CDサイズで40ページ前後のコンパクトな詩集である。紹介するのはgui期待の若手四釜裕子の『心配の速度』。読むほどに「才能」というコトバが羨望とともに頭に点滅して、ああなんてかっこいいんでしょ。詩の未来形を眺める思いがする。詩人自筆のイラストが添え物ではなくコトバと有機的に響きあっている。

スニーカーを今朝捨てた。探すのにふた月、だから買ったら
毎日。いつまでも履いてごめん、買ったわたしは捨てなけれ
ばならない、ある朝いつものように。今日にするか明日にす
るか、言い訳を考えてゴミ捨てに詳しくなる。生ゴミが少な
い火曜日にorbの袋に入れて捨て、カラスよけのネットを両
手でかぶせ、やってきた101号室のアウトな黒服おんなに
おはようと言ったら、とてもゴミになった。
(「ライン」冒頭部分)

言葉のキレがよくてへんな情感がなくて、すっきりさっぱり。でも「金魚ならいい」の悲しみが巨大な雲みたいに全編に漂っていて、未来が現実になったらこんな風? それともこれはすでに現実?とおののく。

金魚はせいぜい、鉢を廻ってゆらゆらして死ぬ。
君の不幸は死に体のぶざま、はたしてうんちは
垂れ流し、そのくせ空腹感は持続していつでも
ぱくぱく泡を吹く。地球の家畜がめいいっぱい
の野性。でもキンギョならいっか。
(「金魚ならいい」部分)

HPbook bar 4ではこれらの作品がフラッシュなどウェブのテクニックを駆使したデザインで提供されている。隔日更新の日記「おかえりのすけ」のアンテナの張り巡らし方や感度の良さに感嘆するばかり。メルマガでも読める。

夏のラクダ色の猫』佐藤恵美子 \2000E 2000.12.15 成巧社 

この乾いて痛快な諧謔は女西脇順三郎とでもいおうか。古今東西の固有名詞がニヒリスティックに闊歩する。この一筋縄では行かないおもしろさをどう伝えよう。やはり実際に詩を読んでもらうに限る。

神籠(ひもろぎ)



朝の冬が
練り足でインカーブしてしゃがむ
太陽は鳥のように神籠に入る
今日のためと人間のために
百八個のジュラルミンの卵が飛び散る
昼に百八個 夕べに百八個
大八車は空っぽになる
頽廃的琺瑯鍋から
桁外れな安息日が溢れていて
焦げている
男たちは優しいタケノコに似ている
空には蝶々凧が上がっている
陽気な鬼のような しかして慇懃な
軽薄に発展した
ポリ塩化ビリニデンで出来たものだ

私の扁桃腺は
神籠から出てきて
ジョウビタキと同じ発声をする

韓国現代詩小論集』佐川亜紀 2000.12.25 \2800E 土曜美術社出版販売 佐川亜紀のホームページ

韓国の新世代の若々しい詩人たちから、現代詩の草創期の詩人まで、詩作品一つ一つにていねいな解説をつけて紹介した労作。ここ数年、茨木のり子さんをはじめとする地道な翻訳作業のおかげで、韓国の現代詩が少しずつ読めるようになって嬉しいと思っていた。この本は、韓国で今どんな詩人がどんな詩を書いているのか、わたしのような無知な読者にもわかりやすく、親切で行き届いた編集ぶりである。佐川亜紀さんのたゆみない情熱と着実なお仕事ぶりに敬服する。まだ全部読みきれていないが、第1章に現代社会に生きる困難をあらわに体現する最も若手の詩人たちを置いていて、彼らの率直きわまりない文体に心打たれる。佐川さんのHPでも崔泳美をはじめいくつかの作品が読めます。ぜひ訪ねてみてください。
(帯文より)詩と詩人の鳥瞰図的記述をとおして、韓国民衆の心の奥底に流れる思いとその歴史、未来をも、日本の読者に知らせる。

ミツバチの惑星』 相沢正一郎 \2000E 2000.11.28 書肆山田
長くなりすぎたので、別ファイルにしました。
"rain tree" vol.19宇宙からのまなざし 相沢正一郎詩集『ミツバチの惑星』を読む (関富士子)
第二の男』藤富保男 2000.10・30 \2400E 思潮社

長くなったので別ファイルで掲載しました。
第二の男の肖像 藤富保男詩集『第二の男』を読む(関富士子)

"rain tree"vo.18 藤富保男詩集『第二の男』を読む (桐田真輔)もあわせてどうぞ。

芽キャベツ記』木川陽子 2000.11.15 \1800E 夢人館

rain tree vol.19 木川陽子詩集『芽キャベツ記』を読む(木村恭子)

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 暮れから1月いっぱい、ゆっくりした気分で詩集を読むことができた。この秋以降、作品が好きで詩誌のやり取りなどの交流のある詩人たちがぞくぞくと詩集を出した。未知の詩人から思いがけず贈られた詩集もある。どれもありがたくかたじけなく思いながら読んだ。また、読みたくてわくわくしながら買った詩集もある。一年間に出される詩集は何冊ぐらいあるのだろう。わたしの読む数など知れている。限られた数のなかから、わたしの力で簡単な紹介や感想が書けそうなものだけを、時間の許す範囲で少しずつご紹介する。そんなわけで、これはまんべんなく詩集を読んで客観的に批評をすることが目的の文章ではない。いいと思ってもうまく感想が書けなかったものもある。書いても的外れだったりするかもしれないがなにとぞお許しを・・・。内容に間違いがありましたらすぐ訂正しますのでお知らせください。


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