第5回その4
【最終回】
(1999/10/21)Up Date

それぞれの不安、それぞれの戦い

“プレッシャー”ということを言えば、あのいつも元気な明日香(若子/マリア役)も、自分自身の稽古ノートにこんな感想を残している。
日付けは少しさかのぼって5月5日の感想だ。



明日はくぎっての通し(予定)。
あさっては通し(予定は未定)。
そして次の日には小屋入り。
昨日寝る前から緊張してきた。誰かにTELしたい様な、何か“一人でいる”ってことがとてつもなく不安な様な・・・そんな気持ち。
これがプレッシャーってやつなんかな。
一年前、私が初めて舞台に立った時、確かいろんな人に「出ることになったけどプレッシャーに負けんなよ」ってなことをけっこう云われた気がする。
けど、「プレッシャーって何だ?」みたいな感じで、逆に「私はまだ何も出来ないよー」ってある意味心が自由だった。
半年前もまだそれに近い感じだった。
プレッシャーの意味が心でわからなかった。
けど今回のこの想いは何だろー?
逃げたい、とかは思わないけど、たぶん、私は今 主役、って言葉が受け入れられていないんだ。今の私には重すぎるのかもしれない。
けどムーンライトはホントみんなが主役。
一人一人の人生が描かれている。
私の人生を演じる訳じゃない。
これは若子とマリアの人生だ。
私は体をあげるだけでいい。
若子とマリアは私の心の中に生きている。
だから大丈夫だ。
大丈夫だ!
絶対大丈夫だぁ〜〜!!



あとで本人に聞くと、この時ものすごく弱気になっていたと言っていた。弱気になりそうな自分を、いや絶対に大丈夫だ!!と。
みんな戦ってたんだと思う。

もう一人、“ミスキャスト”と言われて役についた山ちゃん(山田)も、今回のイヤ味な照明技師・ライトという人物を演じるにあたって、いろいろあった一人だ。稽古の前半は、役の雰囲気が出ず苦労をした。イヤな人特有の、側にいるだけで、何か変なプレッシャーというか、その場の空気がドヨ〜ンとしてしまうような・・・そんな人物像がこの“ライト”には求められていた。
稽古の中盤からは、ホント人が変わったようにイヤ味が増してきて、「うわ〜なんちゅうー嫌な人だ!」と思ったぐらいはまっていた。ライトと言うより、本当は山ちゃん本人が・・・ってことはないと信じたい(笑)。何が変わったのだろうと聞いてみると、



稽古の中盤から、何となく“ライト”って人物が見えてきた、ってとこかな?
最初は、自分の中の怒りや、嫌味な部分に集中していったんだけど、なかなかうまくいかなくてね。
シーンの中で結構大声を出す人なんだよ、ライトって。その大声がまた、言っている相手の周りにもわざと聞かして、自分の存在をそれでアピールしているって言うか、とにかく一挙一動が自己中心的で相手には威圧的。たぶんそれを自分の中から表現するのに抵抗があったのかな? とにかくうまくいかなかった。
それで発想を切り替えて、『モノマネ』でいこう、って思ったんだ。真似って言っても誰かのキャラクターを真似るんじゃなくて、自分のイメージした人物に近付こうと努力したんだ。このイメージの段階で、割とハッキリと人物像が出来上がって、アイデアがいろいろ出てきたんだ。で、それに近付けようとした時に、あれ?ちょっと違うぞ、って感じたの。いろいろ考えたアイデアがはまらない。違う違う、ライトはここでこんなことしない。ヤツならこうする、って少しライト寄りの発想が生まれてきた。そうしたら、あとはそれを元にシーンを研究したら自分でも楽しめるシーンになっていて・・・って感じ。

『役作り』という作業が、役者の仕事の大半を占めると思う。“キャラクター”を作るのではなく、役者は“人物”を作っていくのだ。極端な話、その役者の素性をまったく知らない人が『役作り』の演技を観た時、「あぁ、普段からこういう人なのね」と思わせなければいけないのだ。



一番楽しかったのは、シーンにはまったく関係無いんだけど、ライトの普段の生活を考えている時。
あいつは普段自分の部屋では、暗くした部屋の一角に間接照明だけを置いて、ソファーに深々と座ってヘッドフォンで音楽を聴くヤツだ、って思ったの。音楽はクラッシック。ワーグナーがお気に入りで、『ワルキューレの騎行』を聴いているの、映画「地獄の黙示録」でヘリコプターの出撃の時にかかっていたBGMでさ、それを目を閉じてジーッと座って。
だから俺もやった。本番の客入れの前の時間で、一人セットの裏の暗いところでジーッと聴いていた。他の人が見たらちょっと怖かったかも知れないね、俺たぶんブツブツ独り言とか言っていたかも知れないから(笑)。

これは“ライト”の趣味じゃなくて山ちゃんの趣味だろう、と思った(笑)。


<4>



←BACK

【後半部】

NEXT→

第一回

第二回

第三回

第四回

第五回



【前半部】

第一章

第二章

第三章

第四章

第五章

第六章

第七章

第八章

第九章

第十章


【稽古記録TOP】

【HOME】