第5回その3
【最終回】
(1999/10/21)Up Date

“キャロル・斉藤”というプライド

仕込み2日目、3日目も飛ぶように時間は過ぎていった。
その間に、音響の
音決め(劇場での音レベルの調整や、音の出だしのタイミング決め)や、照明の場当たり(舞台に役者を立たせて、照明の位置を決めたり、全体的な照明効果の微調整)をはじめ、転換稽古(芝居の場面が変わる時、シーンの小道具の入れ替えをスムーズに行えるようにするための稽古)などもやった。慌ただしいけれども、これも演出上欠かす事の出来ないパートである。特に、役者は音響や照明に助けられる。音楽はシーンの流れをスムーズにするし、照明は場面のイメージが何倍にも膨らんでいく。観ているお客さんにも、重要な芝居の一部だからだ。

それに、シーンの稽古もやれるだけやった。劇場に入ってからでも稽古をする。私は、舞台が空いている時を見つけては、自分のインタビュアー(キャロル・斉藤)のシーンの練習をしていた。本番に備え、セットの椅子や小道具の扱いに慣れておきたかったからだ。
劇場入りし本番が近付くにつれ、いやでもよみがえる前回(公演)の失敗…。失敗と言うのは私自身の納得いかない失敗という事で、公演『悲しい顔のボードヴィル』は成功だったといえるだろう。
でも今は、また同じ失敗をするのでは? という不安よりも、「私は絶対に落とさない(失敗しない)。」という自信の方が勝っている。無理矢理自分にそう信じこませていると言った感じもするけど、今回の役が“キャロル・斉藤”というプロの雑誌記者の役というせいもある。キャロルにとっては、記者としてのプライドがかかった大事な取材(という設定に勝手にしたのだが)であり、それは同時に、演じる私にとっても同じだからだ。

【構えない! 私はショウビズマガジンの雑誌記者で、特ダネを一週間以内にとらないといけないのだ。そこに演劇界の異端児、演出家のビリー・ナスターゼ(キャプテン・エイハブ)が退院したらしいとの情報が入る。
これはスクープ!! 退院直後のビリー・ナスターゼを直撃取材する!! 知りたい事はただ一つ、
ビリー・ナスターゼの本当の病状

私が役に入る前に集中するのはこれだけで、あとは変に気合いを入れすぎて力んだりしてはだめだ。そんなのは全く不要。楽しんでやる、くらいの余裕を持って舞台に臨もう!!
とは言え、気持ちの紙一重の裏側に、本番が近付くにつれ増していく緊張とプレッシャーを感じずにはいられない。毎回毎回がそうだけど、公演は戦争だ。お客をノックアウトさせる気持ち(感動させて言葉も出ないほどのダメージ?を与えること)で舞台に挑む。“勝ち”“負け”の言葉がここでの正しい表現ではないかも知れないが、私たちは舞台に上がる時、「絶対に勝つ!!」と胸に刻み、シーンを過ごす。この芝居を観た人全員に、“何か”を持って帰ってもらいたい。感動して、呆然として、席も立てないほどの“何か”を、芝居を通じて届けたいのだ。
プレッシャーは感じるが、それをバネにしてこの公演を良いものにしよう、と心に誓った。


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