|
公演を行っている中でもいろいろドラマがある。まあ、この『ムーンライトリハーサル』も公演直前の稽古中に起ったドラマなのではあるが、事実は小説よりも奇なり!と言ったところか。
公演中同じ芝居を何回か行う訳だが、中には納得いかない回もある。
芝居はナマ物である。だから恐い。だから楽しい。
1回の芝居が終わると、その日の客出しの後内田さんから話がある。反省点や、その日にお客さんから貰ったアンケートの内容とかを伝えるのだが、ある日の最後の話、
ちょっと失敗だったね。
俺も良くなかったし。最後のカーテンコールで出ていくところの拍手は、やっぱりない方がいい。お客さんが終わったのも忘れるぐらいの感動の余韻の中で退場したい。
でも1回ぐらいしょうがないだろ?演劇はナマものだからね。
でももう失敗したくない。俺も明日からは1つも落とさないって約束する。ちょっと体と心を休める為に、明日の集合遅くしよう。
やっぱり疲れてくると先の事が不安になっちゃうんだよ。頭が入って来て、次の台詞大丈夫か?とか、べちゃくちゃ入ってきちゃう。心だけになれない。
今日は良い回の時のパッションみたいなものが薄かった。それで空間がスカっとしちゃって、みんなそれを取り戻そうとしてよけい出来なかったんじゃないかな? 俺も完全には取り戻せなかったし。
まあ、1回落としたけど、(と内田さんが言うとナカジ〔中島・エスナ/ロブ役〕がシブイ顔で「2回だよ。初日も良くなかった」と言っていた。)もう落とさないで頑張ろう。ちょっと休養をとって、心を入れ替えて頑張ろう!
この後ナカジは、劇場を出てもむずかしいシブイ顔をしていた。
内田さんがナカジに、「しょぼくれてんなよ、中島〜、元気!元気でいかんとな!!」と言っていた。だがナカジは「ダメっすよー。うちはうちの芝居をやんなくちゃ! 他のところとの違いを見せなきゃ!」と、内田さんに言っていた。今日の失敗が、どうしても許せないらしい。選手会長としての意地と、役者のプライドが、ナカジの心の中で妥協を許さないのだろう。
私もナカジも、『ムーンライトリハーサル』をやるのは2回目だった。前公演は、二人ともプレイヤーズ・ハウスの劇団として(入団したのはナカジの方が先だが)舞台を踏む初公演だった。特に中島は、前『ムーンライト』でも同じ役をやった劇団員の一人だった。同じ役だからと言うことで安心するのではなく、前の公演で果たせなかった取り組みでさらに役を自分のモノにしようと努力をしていた。最初の公演のオーディション以来、ナカジは常にトップだった。内田さんや道子(大川)さんを除けば、劇団員の中では一番の実力者だ。主役でこそないが、この芝居を引っ張って行くムードメーカー。
ナカジはきっとやってくれる! そう信じて私は二人の話を聞いていた。
さようなら、椎葉さん
今回の公演をもって劇団を離れていく者もいた。
椎葉(彰子)さんだ。
私が入団した時からの大先輩で(と言ってもプレイヤーズ・ハウスに先輩後輩の上下関係がないから、ちょっとオーバーな書き方かも知れない・・・)、このプレイヤーズ・ハウスの創設時からの数少ないメンバーだ。
この劇団・・・と言うか、内田さんと最初に知り合ったのが、内田さんがバイトをしていた大昔(笑)、そのバイト先に高校生(!)としてバイトをしていたのが椎葉だった、と言う話を聞いたことがある。その後、内田さんが劇団を旗揚げするからといって椎葉さんも誘い、ザ・プレイヤーズ・ハウスが生まれたのだ。
旗揚げ時の厳しい状況も、内田さんからいつも聞いていた。「あの頃やっていた小屋がものすごく狭くて汚くて・・・」とか、「舞台のセットを作る場所がなくって、埼玉の俺の借家の庭先を使って作った・・・」など。その当時を知る者は、内田さんと道子さん、それと椎葉さんの三人だけとなってしまっている訳だが、その貴重な劇団の証人がまた1人いなくなってしまうのだ。
この『ムーンライトリハーサル』では、椎葉さんはプロデューサーの“ジェーン・パウエル”という役だった。今回の公演、同じ役を前田(裕子)がやったのだが、制作や他の仕事をこなしながら、稽古場で前田の演技のサポートをしていた。これまでの自分の経験を前田に授けている姿は、このプレイヤーズ・ハウスの象徴とも言うべき光景にも見えた。先輩も後輩も無く、主役も脇役も無い。前田を指導している椎葉さんの姿は、稽古場ではもう1人の主人公にも見えた。全てを(裏方の仕事を含めて)託そうとしている椎葉さんの姿がとても印象的で、輝いて見えた。
その椎葉さんが今公演を最後に劇団を離れるのだ。
今回、椎葉が最後だということもあり、7公演中2回だけ椎葉さんが“ジェーン・パウエル”をすることになった。公演稽古の最後の方で急きょ決まった事ではあったが、制作の仕事の合間をぬって自分も練習を重ね、舞台に臨んだ戦士の1人だ。
公演4日目。椎葉の最後のステージだ。
私も、だから絶対に落とさない!!と思っていた。それを考え過ぎるといけないのは分かっていた。へたでもいいから心を込めてやることを考えた。
椎葉さんは最後の芝居(役者)を、緊張して力むのでは無く、楽しもうという方向に意識を向けているのが分かっていた。役者としての最後の役が“ジェーン・パウエル”だなんて・・・・ものすごいものを感じる。しかもあの台詞、
「私はね、金儲けのために芝居をやってんじゃないの。この狂った世の中に一石を投じるためにやってんのよ! 一般的な評価なんて望んでない。あんたとの友情もね! あたしをなめんじゃないよ!」
芝居が終わって、椎葉さん自身はいまいちあと少しといった感じだったみたいだけど、終わった時の顔が清々しくしていたので嬉しかった。
「プロ意識」という言葉が浮ぶ。
芝居中セットの裏で、これで最後なんだと思って耳に焼きつけながら聴いていた。これからの人生、頑張れ椎葉さん!!
|