稽古記録第四回【その3】
(1999/10/09)Up Date

とりあえず実験して見よう、という事になる。仕上げ前の骨組みの段階で、その強度や音の問題を見てみようというのだ。骨組みとは言え、実際に建ててみると有に3mは越す巨大壁が私たちの目の前に姿を表した。可動部分に蝶つがいを取り付けた本番仕様のプロト版の完成だ
この日は内田さんも1日倉庫に来ていた日だったので、ちょうど実験を見てもらう事になった。巨大なセットを前に内田さんは、
「大丈夫なの?」とちょっと不安気味だった。それもそのはず、物語のラストシーンは、エイハブ(内田)と、アーサー(トシ)のみが舞台に残る設定で、もし崩壊したセットが役者にでも倒れたりしたら・・・・。
緊張が走る中実験開始。
金子、山田、進藤、小野が左右に分かれ、タイミングを見計らい、掛け声と共にゆっくりとセットが動き始めた。

ドカン!!

・・・・・・・・。地面が揺れた。

倉庫の2階のフロアーが大きな音と共に、一瞬持ち上がったようだった。空気にわずかに埃が舞っていた・・・。
開口一番、内田さんが、
「まずいよ・・・これは」
と口にした。
お互い顔を見合わせ・・・・でも何も言葉に出来なかった。私が見ていた限り、崩れた瞬間、ちょっと前の方にセット自体が倒れそうだった。このままではラストでエイハブが潰されてしまう!!

プラン変更案が内田さんの口から出る。「前回のような中央で割れる方向でどうか?」でも圭ちゃんは首を縦には振らなかった。美術責任者としてのプライドなんだ、と私は横にいてそう思った。重い空気があたりに漂う。しかしこのままでは劇場に持っていけない。プランを変更するにしても私たちにはもう時間が残っていなかった。劇場入りまであと10日しかなかったのだ。

検討した結果、一度作った物を、部分部分で軽量化する事になった。完成したセットは、これに色付けされ、正面にはバラバラに落ちる仕掛け板が取り付けられるので、今以上重くなるのは目に見えていた。骨組み内部の木材の補強部分を最小限度に組み直し、外せる処は全て外していった。
蝶つがいの部分も強化が必要だった。この1回の実験で取り付けられている部品がひしゃげてしまい、外れかかっている。とてもじゃないけど7回はもたない。“使い捨てセット”とはいかないので(基本的には毎公演後、セットは取り壊しているが)、こちらの方も早急に対応策を考える事になった。

圭ちゃんと、金ちゃん、山ちゃんが今後どのように進めて行くかを検討している。演出プランとしてはこのまま進めて行くので、各パーツの強化という形で方向性を決めているのだ。セット作りに携われる日数も残り少なくなっている。今回の公演はゴールデンウィーク直後なので、この休みの間は倉庫が使えない。実質10日間の内、3〜4日程度しか使用出来ないかも知れないのだ。その残り少ない日数の中で、最善策を模索し、実験、手直し、仕上げと進めていかなければならない。何も分らない私の目から見て、とても終われるだけの量ではない気がした。
しかし、方向性がある程度決まった段階で、何かが吹っ切れたように作業は進んで行った。限られた時間の中で何かをやり遂げなければいけない時、人間は思いもよらない力を発揮するのだ!男の子たちは、まるでプラモデルでも作っているかのように、各自の知恵を持ち寄り、想像を膨らませながら作業をしていた。この間までの重い雰囲気はどこへやら・・・急ピッチながらも意気揚々と手直しが進んで行った。
同時に私たちは表面の仕上げを進めて行った。骨組みからある程度の完成を待っていたのでは時間的に間に合わない。最初のプランの図面通りに作業を進めていく他なかった。
翌日からも同じように作業は続く。稽古場には必要最小限の人数を残し、手の空いている者は全員倉庫の方へ来てもらった。総勢15〜6名が作業をしている。これならば・・・・終わるかも知れない!!  かすかな希望を抱き、もくもくと、しかし楽しく(先が見えて来た明るさからか?)作業は進んで行ったのであった。

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