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                 ホメオパシーの謎を解く(パート10)

 パート10

 ホメオパシー最大の謎「希釈・震盪の法則」
 次に、ホメオパシー最大の謎である「希釈・震盪の法則」に迫ってみよう。
 薬効成分の分子が一個も入っていない“ただの水”に、なぜ薬効があるのだろうか?
 これには、いくつかの仮説が立てられているが、ひとつは、薬の「情報」が、水の分子構造に転写されるというものである。
 水の分子は、いくつかの固まりになっており、クラスターと呼ばれる。通常は12個くらいの分子がひとかたまりのクラスターになっているが、ホメオパシー的に希釈・浸透すると、40から70くらいのクラスターができるといわれている。このクラスターの変化が、レメディの薬効と何らかの関係があるのではないかとされている。
 しかし、水分子のクラスター変化が実際どのように生体に働きかけるのかなど不明な点が多く、この仮説は今のところ、これ以上先に進む気配はない。
 別の仮説は、レメディの薬効は電磁波(電気的な波動)に関係するというものだ。
 先に紹介したフランスのジャック・ベンベニスト博士も、同じ発想を抱いた。レメディが効くのは、原液がもっている薬効を、電磁波の情報として水に記録しているのではないかと考えたのである。この仮説が正しいとするならば、薬効情報を記録した電磁波は、別の水に薬効情報を記録させることができるはずだ。
 そこで、ベンベニストは次のような実験を行っている。
 まず、ホメオパシー的に(希釈・震盪して)作られたアセチルコリンの希釈液を試験管に入れ、その試験管にコイルを巻き、さらにもうひとつ、文字通りの意味で普通の水をもう一本の試験管に入れてコイルを巻き、その二つのコイルを結んだ。そして、そこにホワイトノイズ(何も情報を含んでいない電気信号)を流した。
 すなわち、電流は希釈液を入れた試験管のコイルに流れ、次に普通の水を入れた試験管のコイルに流れるようになっている。仮に希釈液の薬効情報を電流(ホワイトノイズ)が拾っているなら、アセチルコリンの情報がもう一方のただの水に転写される可能性があるわけだ。1996年、ベンベニストはこの実験を「コリンのシグナルのデジタル記録と転送」という論文にまとめた。
 アセチルコリンは、主として神経組織に存在する塩基性物質で、血管を拡張させる作用をもっている。ベンベニストによれば、コイルを通して記録されたアセチルコリンの波動的な情報を、特別に設計された変換機を通してコンピューターのハードディスクにインプットし、1〜5秒間、16ビット、22キロヘルツで記録することに成功したという。
 そして、この電磁シグナルを、15分間にわたり変換器を通じて15ミリリットルの水が入ったプラスチック管にコイルを通して送り込んだ(磁化させた?)のである。
 この水をモルモットに投与したところ、心臓の冠状動脈血流の量が増加した(すなわち血管が拡張した)という。
 この実験からわかることは、ホメオパシーのレメディの薬効とは、化学的また物質的なものではなく、電磁気的・エネルギー的なものだということになる。
 ただし、上記の実験は、電流を外部から流していたので、レメディそのものが電磁波を放っているというわけではない。おそらく、情報だけが記録された媒体ということなのだろう。これに電磁波を加えると薬効の情報が「再生」されるのだと解釈できるわけだ。
 しかしながら、次の実験を見ると、レメディそれ自体から電磁波的なエネルギーが放射されているのではないかとも思われるのである。
 それは、オーストリアのペーター・クリスチャン・エンドラー博士による、カエルの変態に関する実験だ。
 オタマジャクシからカエルへの変態は、チロキシンという物質によって促進されるが、博士はこのチロキシンをホメオパシー流のやり方で、つまり震盪しながら段階的に希釈していった。そして、その希釈液をオタマジャクシの水槽に入れた。すると、10の8乗までの希釈なら変態を促進させることがわかった(それ以上希釈すると変態は起きなかった)。
 次に博士は、この希釈液を試験官に入れて外部に漏れないように密封し、オタマジャクシの水槽に入れた。すると驚くべきことに、水槽のオタマジャクシが変態してカエルになったのである。直接、水槽の水は希釈液には接触していないはずなのに、オタマジャクシは変態したのだ。ちなみに、試験官の中の希釈液を10の8乗以上に希釈させて同じ実験をしたところ、オタマジャクシは変態しなかったという。
 このことは、いったい何を意味するのか?
 この実験の場合、外部から電流などのエネルギー供給はないので、変態を促進させる情報が記録された磁場のようなものが、試験官から放射されていたように思われる。それが水槽の水に変化を与えてオタマジャクシが変態したのではないのかと。だが、本当にそうなのか?


ベンベニスト(左)
ベンベニストのサイト(http://www.digibio.com/)に紹介されている図(右)。細胞に情報を与えるのは、ある種の電気信号であると彼は考えた。







 レメディの薬効は電磁波だけで説明がつくのか?
 もちろん、レメディからは、少なくても今日の計測器で検知し得るような電磁波は放射されていないことは明らかである。
 ただ、もしかしたら激しく震盪しているときにだけ、微弱ながら電磁波が発生している可能性はある。というのは、プラスとマイナスの電荷をもったイオンどうしを激しくぶつけ合うと電磁波が放射されるからだ。たとえば、塩化ナトリウム(NaCl)を水に溶かすと、Na+のイオンとCl−のイオンが生まれる。希釈・震盪の過程で、この2つのイオンがぶつかり合い、そこから非常に微弱な電磁波が発生している可能性は否定できない。レメディを製造する際に、なぜ震盪することが重要な作業になってくるのか、それは震盪することで電磁波を発生させるという意味があるのかもしれない。
 しかしながら、仮にイオンどうしをぶつけて電磁波が出るとしても、レメディの場合、成分がまったく存在しない状態にまで希釈した後でも、つまりは、イオンが存在しない状態になっても、希釈・震盪を続けることで効果(ポテンシー)は高くなっていくのだ。この理由から、レメディが電磁気を帯びており、それが薬効の正体であると考えることには無理があるようだ。仮に電磁波を帯びていたとしても、そこまで微弱な電磁波が生体に作用をもたらすとも考えにくい。
 こう考えると、レメディそのものは不活性であり、単なる情報を記録した媒体に過ぎないように思われる。ちょうど音楽CDが、それ自体は音は出さないが、プレーヤーに入れてレーザー光線を当てて情報を取り出し、電気的に増幅したときに、音(というエネルギー)が出てくるのと同じであろう。レメディに何らかのエネルギーを当てることで、そこに刻まれていた薬効の情報が再生され、それが生体に効果を及ぼすと考えられるのである。
 先のオタマジャクシの実験では、希釈液を入れた試験官から電磁波などのエネルギーが放射されたのではなく、オタマジャクシのからだから放射された生命のエネルギーが、試験官を貫いて希釈液(レメディ)に記録された情報を活性化させ、水に情報を記録させたのではないかと推測されるのだ。
 レメディのもつ薬効は、電磁波現象と重なる部分があるのかもしれないが、本質的にはもっと別のものであるに違いない。
 原料からレメディを作る作業について、ハーネマン自身は、「物質の中に存在する霊魂を取り出しているのだ」と表現していた。
 当時であっても、レメディのもつ治癒力を「霊」に帰する主張に、多くの反論や嘲笑が向けられたという。しかしながら、仮にレメディの薬効が電磁波だとか、科学的に誰もが納得するような「物質的な」ものであるとするならば、それに反応する人間の生命というものも、同じ物質的なモノということになってしまわないだろうか?
 だが、霊も生命も、モノではないだろう。生命に作用するレメディの正体も、電磁波という物質レベルを越えた何かなのだ。錬金術師であり医師であったパラケルススの言葉を借りれば、それは「精髄」ということになる。
「精髄(クイントエッセンス)とは、物質から取り出されるものである……すべての不純物や腐敗する部分を洗い流し、最高に純化すると、驚異的なパワーと完璧さに達する。非常に純粋であり、また純粋であるがゆえに、身体を清める力を有している」
 実際のところ、薬理学の世界でも、薬がなぜ効くのかという基本的な理由は、はっきりとわかっていない。「この物質はこういう作用をもたらす」ということはわかっても、分子レベルで、なぜその物質がそういう作用をもたらすのかは、よくわかっていないことの方が多いのだ。
 たとえば、玉葱を切ると涙や鼻水が出る。玉葱から発散された刺激物質が、目や鼻の粘膜を刺激し、生体が「異物」を排除させようと涙や鼻水が出るのだが、その玉葱から作られたレメディ(つまり玉葱の成分はまったく含まれていない)を健康な人が服用しても、一時的にだが涙や鼻水が出るのである。
 こう考えると、生体に作用を及ぼしているのは、実は薬の物質的な側面ではなく、その成分がもっている非物質的な側面ではないのかという推論も成り立ってくる。
 ビタミンのような触媒的栄養素も、その物質的な性質ではなく、何らかの非物質的なものが作用因になっているのかもしれない。たとえばビタミンEは血行を促進するが、その物質性が直接作用して血行を促進させているのではなく、血行を促進するような命令(情報)を生体に与えているだけなのかもしれない。
 また、以上の仮説は、病気の根源的な原因を示唆してくれているともいえる。
 すなわち、一時的にせよレメディを服用して涙や鼻水が出たということは、異物がないのに病気になった(症状が現れた)ということだ。間違った情報を与えられたら、生体は異物がなくても涙や鼻水が出てしまうのである。ならば、間違った情報を与えたのは何なのか? それは非物質的な何かである。
 われわれが生体のメカニズムというとき、それは化学的な変化だとか神経を伝わる電気信号といった、まさに文字通り「機械」のように認識され、すべてが説明されてしまう。
 しかし、ホメオパシーの現象を考察していくと、実はそういう物質的ではない非物質的なメカニズムが存在している可能性が見えてくるのだ。そして、むしろその方が物質的なメカニズムよりも主導的であるように思われるのである。
 つまり、最初に非物質的なメカニズムがおかしくなり、次に物質的なメカニズムがおかしくなると考えられるのだ。肉体だけではなく、非物質的な身体が存在しているのかもしれない。仮にそれを「霊」というのなら、霊に影響を及ぼすレメディもまた、同質である「霊」ということになるのかもしれない。


パラケルスス(1493年か1494年 - 1541年)ルネサンス初期の医師、錬金術師。
業績としては、四大元素(火、風(空気)、水、土)の再発見 。アラビアの三原質(水銀、硫黄、塩)の再発見 亜鉛元素の発見







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