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                 ホメオパシーの謎を解く(パート5)

 パート5

 慢性病の原因「マヤズム」とは?
 ハーネマンは、病気とはバイタル・フォース(生命力)の乱れであると考えた。
「人間の健康な状態においては、肉体(有機体)を活気づける力であるバイタル・フォースが限りなく強い影響力をもって支配し、感覚と身体機能の両面について、有機体の各部位を、良好で、調和がとれ、活気に満ちた状態に保っているので、その中に住む理性ある魂が、その存在のより崇高な目的を達成するために、この生きた健康な器を自由に活用することができる」
 生命力を調整し活性化させるホメオパシーによって驚異的な治癒の実績をあげ、多くの患者を癒していったハーネマンだったが、やがて大きな壁に突き当たることになる。
 急性の病気は問題ないが、慢性病の場合、患者を治療しても、まもなく新たな症状が生じて再び治療をしなければならなくなる、という現象に遭遇したのである。
 ハーネマンは考えた。患者を次々に病気にさせる根源的な要因があるに違いないと。
 たとえるなら、それは腐った土壌のようなもので、土壌が腐っている限り、その土壌からは次々に悪い樹木が生えてくるだろう。
 そうして彼は、人を慢性病にさせる深い素因を、「毒気」といった意味をもつ「マヤズム(miasm)」と名づけた。このマヤズムという悪しき土壌を治療しなければ、表面的な病気をいくら治しても、姿を変えてさまざまな病気が再発されるに違いないと。
 さっそくハーネマンは、過去の治療ケースの検討を始めた。
 その結果、皮膚病(疥癬)を治療すると他の病気が誘発されることが判明した。
 彼は次のような事例を報告している。
・5歳の子供。長い間、疥癬を患い、軟膏で処置すると、ひどい憂鬱と咳に見舞われた。
・12歳の女の子。しばしば疥癬を患い、軟膏で処置して皮膚がきれいになると、急に発熱して、息が詰まるようなカタル、喘息と腫脹が起こり、その後、胸膜炎を発症した。6日後、硫黄を含有する内服薬を服用すると疥癬が再び現れ、腫脹以外の症状がすべて消えた。しかし24日に疥癬がひくと、胸部に新たな炎症が起こり、胸膜炎を発症し、嘔吐に見舞われた。
・2人の子供の癲癇症状が、湿性の頭部白癬を発症したら消えたが、頭部白癬を無謀な方法で除去すると、癲癇症状が戻った。
 こうした症例から、さまざまな慢性病の根底にある病根は疥癬であるとし、これを「疥癬マヤズム」と名づけた。
 すなわち、患者はもともと疥癬という皮膚病を発症したのだが、これを真に治療せずに、症状だけを「抑圧」させる薬を投与したために、この皮膚病は他の(もっと深刻な)病気に姿を変えてしまったのである。
 生命体は、自己防衛本能として、重要な臓器を守るために、その臓器ほど重要ではない臓器にバイタル・フォースの乱れを向けると考えられている。一般的には、中心に位置する内臓よりも、外郭にある皮膚ということになる。皮膚に潰瘍ができても致命的とはなりにくいからだ。ある意味では、皮膚が、乱れたバイタル・フォースのはけ口になっているといえるかもしれない。
 ところが、そうした生命の「知恵」を否定し、無理やり抑圧させてしまうと、皮膚の症状は消えるかもしれないが、乱れたバイタル・フォースが他の臓器(より重要な臓器)へと向かい、重要な臓器に“しわ寄せ”がきてしまう。
 ハーネマンのこの発見は、後に、19世紀のアメリカのホメオパスであるコンスタンチン・ヘリングによって「治療の三原則」としてまとめられた。


コンスタンチン・ヘリング
(1800年−1880年)ドイツ生まれのアメリカの医学者。ホメオパス。ヘリングの法則の他、ラケシスのレメディを発見。ホメオパシーの進展に大きく貢献した。またニトログリセリンが心臓病に効くことを発見した人でもある(レメディと同じように舌下で舐めることで効く)。






 ヘリングの治癒の三原則
・中心から外へ。すなわち、身体の中心(内部にある重要な器官)から、体表にある(致命的になりにくい)組織や器官へと治癒は進んでいく(逆にいえば、外の症状が抑圧されると中心に症状が移る)。
・上から下へ。すなわち、身体の最頂部から下部へと治癒は進んでいく。たとえば、頭の症状が始めに癒され、喉、肺、腹部と癒されていき、最後に四肢の症状が癒される(逆にいえば、四肢の症状を抑圧させると内臓へ、内臓が抑圧されると、ついには頭部に症状が移る)。
・新しい症状から古い症状へ。すなわち、もっとも最近の症状が癒され、しだいに古い症状へと治癒が進んでいく。これは、過去の病気が抑圧されたままの状態で押し込まれている場合である。ホメオパシーなどで真の治療を施していくと、過去に患った症状が再び表面化してくる。これは「病気の再発」ではなく「症状の再発」であり、病気が真に癒してもらうために顔を出したのである。

 
 マヤズムを治療するレメディはどのように作られるか?
 疥癬マヤズムを発見したハーネマンは、その後、淋病マヤズム、梅毒マヤズムを発見した。ホメオパシーでは、これらを三大マヤズムと呼んでいるが、今日では他にも、結核マヤズム、癌マヤズムなど、多くのマヤズムが存在するといわれている。
 ただし、マヤズムとは、その病気にかかり易い傾向があるという意味であり、必ずしもその病気にかかっているということではない。体質や性格の傾向からマヤズムが予測されることもある。たとえば「発育不全・栄養失調」の傾向があれば「疥癬マヤズム」、異常な生活ペースと精神・肉体面での過剰活動があれば「淋病マヤズム」、破壊・劣化・腐食に関係した傾向があれば「梅毒マヤズム」をもっていると判断したりする。
 また、今日のように環境が汚染され複雑な文明社会に生きる現代人は、根本体質に影響を与えるさまざまな要因にさらされている。そうしたこともマヤズムになる。
 たとえば、食品添加物の摂取、予防接種や薬の服用、大気を汚染している化学物質、石油製品などとの接触、さらにはパソコンや携帯電話から発せられる電磁場といったものも、マヤズムの原因になると考えられている。現代のホメオパスは、多層的となっているであろうこうしたマヤズムをひとつひとつ解決していかなければならず、ハーネマンが活躍していた時代よりも、治療プロセスは複雑になっているといわれる。
 では、ハーネマンは、どのようにマヤズムの解決に取り組んだのだろうか。
 そのために、マヤズムを治療するレメディの開発に乗り出したのである。
 これが、「ノゾ(Nosode)」と呼ばれる病変組織から作られたレメディだ。
 たとえば、疥癬マヤズムの治療に使われるレメディは、疥癬に感染した皮膚の水泡から採取した液を、淋病マヤズムには、淋病患者の尿道から採取した分泌液、梅毒マヤズムのには梅毒の潰瘍部分から採取された漿液を原料にしてレメディを作る。ちなみに、癌のマヤズムは癌細胞から作られる。
 もちろん、滅菌した後で成分がまったく混入されないほど希釈するので、これらのレメディから病気に感染する心配はまったくない。

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