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                 ホメオパシーの謎を解く(パート6)

 パート6

 レメディの種類と処方の仕方
 ホメオパシーのレメディは、大きく分けて4つの種類がある。鉱物系・植物系・動物系・その他だ。その他の中には、太陽や月の光、放射線といった無形のエネルギーから作られるレメディなどがある。一般的に用いられるのは鉱物・植物・動物であるが、中でも鉱物と植物がもっとも多い。
 レメディの種類は、ハーネマンの時代から後の研究者の努力によって少しずつ増えていき、今日では3千種類以上もある。ホメオパスは、この中から患者にもっとも最適なレメディを見つけて投与しなければならず、一人前のホメオパスになるには、多年にわたる勉強と経験の積み重ねが必要といわれている。
 ホメオパシー治療の難しさは、病気(症状)によってレメディを選ぶのではなく、人間によってレメディを選んでいくところにある。
 たとえば、鬱病の場合、一般医学であれば、鬱病という症状だけで薬がほぼ決まり、薬の選択に際して、患者がどんな人間であるかはあまり考慮されない。せいぜい薬のアレルギーをもっているか、他に病気をもっていないかといった程度であろう。
 ところが、ホメオパシーの場合、病状で処方するというよりも、患者がどんな性格や体質をもっているかを基調にして処方する。患者の個性は百人百様だ。そのため、鬱病に効くレメディだけでも数十種類もリストアップされる。どういう原因で、どういう性格のために鬱病になったのかを見極めなければ、もっとも効果のあるレメディを選択できないのだ。選択が適切でなければ、そのレメディの効果は期待できない。
 そのため、ホメオパスは最低でも一時間は患者と面接し、さまざまなことを聞き出す。過去の病歴、生育歴、親子関係、精神的に辛かったこと、トラウマ、人生観、趣味、食べ物の好み、どんな夢を見るか、右を向いて寝るか左を向いて寝るか、暑がりか寒がりか、便秘気味か下痢気味か、その他、さまざまな質問をして、性格や体質といった患者の全体像を把握するように努める。
 ホメオパシーの薬事典「マテリア・メディカ」を広げると、「このレメディが効果のある人はこういう特徴をもっている……」といった情報が詳細にわたり記載されている。
 例として、鬱病の際に高い頻度で使われる2つのレメディ、「オーラム」と「ナト・ムール」を紹介してみよう。



ハーネマンが使用していた
レメディ・ボックス








 Aurum(オーラム=金)
 金塊を乳糖と一緒に粉末にして希釈・震盪して作られたレメディ。
 薬効が作用する主な領域=精神・血管系・神経・心臓・生殖器・骨・眼・腺・肝臓
 主な症状=抑鬱(特に強い自殺願望を伴う)・循環血流のうっ血による頭痛、高血圧、心臓病(狭心症など)・生殖器の障害(精巣の炎症や子宮脱など)・骨の痛み・眼の症状(白内障、充血など)・肝臓疾患
 好転要因(こうすると症状がよくなる)=休息。散歩。外の新鮮な空気を吸う。身体を暖める。
 悪化要因(こうすると症状が悪くなる)=精神的ストレス。神経を使うこと。身体を冷やす。肉体労働(特に階段を昇る)。月経期間において症状は悪化。特に夜間に悪化する傾向。
 精神的特徴=向上心旺盛で完璧主義。義務感や責任感が強くしばしば野心家。自分が一番でなければ気がすまない。ワーカホリックの傾向があり、高い理想を掲げて努力するが、「まだ足りない」という空虚感に襲われる。感情が常に張り詰めている。功名心が強くプライドが高いため、他者からの批判に我慢できず、顔を真っ赤にして激怒することもある。反面で過剰な良心の呵責や罪の意識にとらわれ、「自分はやるべきことをやっていない」といった自責の念を抱き、滅的な傾向を示すことがある。また、どこか人と打ち解けない孤独な印象を漂わせていたりする。嗅覚や味覚、聴覚など五感が敏感すぎる傾向。
 名誉や財産が失われることから抑鬱になりやすく、自殺を考えるようになる。自殺の方法として多いのは高所からの飛び降り。だが、自殺を考えている間は気分的に楽になる。「自分は見捨てられた」という孤独感、「自分は成功できない」という自信喪失を伴い、将来に何の希望もないとして絶望的になったり、イライラが高じて暴力的になる場合もある。抑鬱は特に夜間に悪化し、夕方に緩和される傾向。だが、他者にこうした苦悩を打ち明けながら自嘲的に笑っていたりする。
 肉体的特徴=胸骨のあたりに発作的な痛みや圧迫感を覚える。動機が突然起こる場合もある。頭部に血流が押し寄せて赤くなる(こめかみに血管が浮き出ていたりする)。骨が痛む(特に夜間)。目がかすむ。症状は外気を吸うことで好転するが冷たい風にあたると悪化する。身体を温めたり、適度な散歩をすると緩和される。階段を昇るなど過剰な運動は逆に悪化。
 
 Natrum Mur(ナト・ムール=塩化ナトリウム) ※印「ネイチュ・ミュア」と呼ばれることもあります。
 岩塩を乳糖と一緒に希釈・震盪して作られる
 薬効が作用する主な領域=精神・心臓・栄養関連(消化器、脳、血液、筋肉)・腺(粘液、脾臓、肝臓)、皮膚、口腔
 主な症状=抑鬱・風邪・頭痛・皮膚症状(蕁麻疹、アトピー、ヘルペスなど)・口内炎・歯肉炎・女性特有の症状(月経前症候群、膣痙攣など)・消化器の不調(便秘、吐き気など)・喘息・浮腫。
 好転要因=新鮮な空気を吸う。水浴。発汗。絶食。暗い場所で横になる。右を下にして寝る。深呼吸。海辺に行く(逆に悪化することもある)。指圧。きつい服を着る。
 悪化要因=午前9時-11時の間に悪化。生理の後などに悪化。また一日おきなど周期的に悪化する傾向。太陽の光を浴びる。蒸し暑い気温。眼の酷使。感情的動揺。思春期。左側を下にして寝る。泣く。
 精神的特徴=繊細で傷つきやすい。拒否されたり否定されることを怖れる。そのため自分の殻に籠もり他者との親密すぎる関係を避けて壁を作る(この壁はアルコールやセックスなどで取り払われ、人が違ったように大胆になることがある)。人に弱みを見せるのがイヤで、外見的には自信がありそうで超然として冷静に見える(しかし内面は不安で動揺し抑鬱的)。寂しがりやだが一人になりたがる。感情を強く抑制して顔に出さない。長年にわたって蓄積された悲しみを抑圧している。自意識過剰で人目を気にし、大騒ぎされて周囲の注目を浴びるのが苦手。また同情されるのを嫌う。良心的で勤勉、責任感が強い。親しい相手には親切で誠実。むかしの悲しかったことをくよくよと思い出す(特に悲しい音楽を聴きながら)。傷つけられたことをいつまでも根にもち復讐の念を抱くこともある。泣きたいが泣けない(心が乾いている)。他の人を気にして公衆で排尿できない。注意力散漫でケアレスミスをよくする。しばしば怒りっぽく不機嫌。子供は早熟で大人びて独立心が強い(甘えることを知らない)。強盗に襲われるといった怖い夢を見る。
 肉体的特徴=痩せて虚弱な人が多い。風邪を引きやすい。貧血傾向。口の中や唇、膣などが乾燥しやすい。ヘルペスができやすい。顔は脂性。卵白のような鼻水が出る。胃腸と足首が弱くしばしば腰痛もち。太陽の光に当たると具合が悪くなる。塩気のある食物を好む。食べている間に顔に汗をかく。喉が渇きやすく冷たい飲み物を欲する。寒気がするが蒸し暑い場所は具合が悪くなる。目が疲れやすい。地図のような模様のある舌。

 人間の全体性を見て処方されるホメオパシー
 いかがであろうか? これほど詳細に渡って患者の全体像をチェックして処方しなければならないのだ。ホメオパシーでは、症状よりも人間を見てレメディを処方するので、「オーラムの人」「ナト・ムールの人」といった表現をすることが多いが、同じ鬱病であっても「オーラムの患者」にナト・ムールを処方しても十分な効果は期待できないわけだ。鬱病に適合するレメディは他にも多数あるので、その中から患者の性格や体質といった全体像を把握してレメディを処方するのは、大変な作業であることがわかる。
 この処方の難しさ、手間と時間を要するところが、ホメオパシーの弱点といわれる。
 しかし視点を変えるなら、たった5分や10分しか患者の訴えを聞かず、患者をほとんど見ずにカルテや検査結果だけで薬を処方できてしまう今日の一般医療の冷たい感じ、非人間さを思うとき、ホメオパシーのように手間暇をかけて患者を理解し、治癒が実施されるアプローチは、むしろすばらしい長所であるとはいえないだろうか?





1840年頃、ライプチッヒのホメオパシー薬局で製造されたレメディ・キット。直径4ミリ、高さ18ミリのコルク栓ガラスボトルにレメディが入れられていた。全部で200種類ある。




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