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                    探求の光(第11話)


 無為という名の前進

 右の天使がいった
「常に前進しなさい。全力を尽くして歩きなさい。怠けていてはいけません。たとえ一歩でも歩けば、それだけ目標に近づくことになるのです。後ろを見てはいけません。それは二度と歩むことのない道なのですから。常に足下を見つめなさい。そして、どんなに苦しくても悲しくても、とにかく歩きなさい。少しでもいいから歩きなさい」
 今度は左の天使がいった。
 「あなたは何もせず、たとえ意味のないと思えるような事柄でも、それを柔和に甘んじて受け入れることのできる気持ちを養わなければなりません。あの空の雲を見てごらんなさい。
 何もせず、ただ浮いているだけなのに、風がちゃんと運んでくれるではありませんか。あなたは、何もしなくても、神の摂理によってちゃんとしかるべきところに運ばれているのです。だから、ときには流れに身を任せてみなさい。常に何かをしていなければイライラしてしまうようでは何事もうまくいきません。無為に生きる価値を見いだしなさい。あなたには無為だと思えても、実は「無為」ではないのです。冬の地中では、種たちは無為に過ごしているのではありません。蔵にしまわれている酒は、無為に横になっているのではありません。きたるべきときにそなえて力を蓄え、あるいは内部の熟成をはかっているのです。無為に過ごす時間をもつことで前進しているのです」

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