探求の光(第13話)
諦めないで諦めよ、諦めながら諦めるな
私は、大きな川にさしかかった。向こう岸にわたるために、渡し舟に乗った。
ところが、にわかに大波が押し寄せたと思うと、舟は転覆して逆さまになり、私を含め何人かの乗客と一緒に川に投げ出された。
私は泳げない! 必死になって手足をバタつかせた。水を嫌というほど飲み込み、もうダメだと思った瞬間、天使が舞い降りてきた。
二人の天使は同時に叫んだ。
「諦めてはいけません!」「諦めなさい!」
いったいどっちなんだ?! いつもいつも反対のことばかりいって! 諦めずに、このまま手足を動かして泳ごうとした方がいいのか? それとも、諦めてこのまま沈んでしまえということなのか?
私は息がつまって呼吸ができなくなり、意識が薄れていった。そして身体の力が抜けていくのを感じ、それと同時に手足の動きが止まった。私はこのまま沈んでいくに違いない。そう思った。私は諦めた。
ところが、ふと意識が戻ると、私の身体は水に浮いて、そのままゆっくりと流されていくのに気づいた。下手に抵抗して手足を動かさなかったのがよかったのだ。人間の身体は浮くようにできている。私は身体の力を抜いて、そのまま流れに身を任せていた。
すぐ近くには、他の人たちもいて、必死になって泳いでいた。彼らの泳ぎは達者だったが、上流に向かっていた。しかし、この川の流れに逆らえるはずがない。しばらくすると、やがて力尽きて水の中に沈んでいった。
一方、私と同じように泳げない人たちもいた。彼らはいつまでも手足をバタつかせていた。だが、やがて力が尽きてきた様子だった。私は内心、しめたと思った。「そうだ、抵抗するのをやめて、水に浮けばいいのだ」
ところが彼らは、「もうダメだ」と叫んで深いため息をつき、垂直の姿勢のまま、沈んでいってしまった。
やがて私は流れに乗って向こう岸にたどり着くことができた。私は思った。助かるためには、諦めなければならない。水に抵抗していたら沈んでしまうからだ。けれども、諦めてはならない。もし諦めたら、浮力を失ってしまうからである。助かるためには、諦めないで諦め、諦めながら諦めることが大切なのだと気づいた。